重なる
現代の地獄極楽図
非公開
伊藤研究室
2020 年度卒業
「○○っぽい」に終止しないようにするための方法を模索した。そして「参画型作品」と称して、閲覧者が「共に作品をつくっていく体感」をできる展示を提供する。

はじめに

近年、技術力の向上やインターネットの普及により、個人でできる創作のハードルが下がり、幅も広がってきた。一方でより短時間でそれっぽいものが作れるツールも普及するようになった。それは正しく使用すれば便利だが、製作者が思考をテンプレートに当て嵌めゴールが同じになることで、新しいものが生まれにくくなるという危険性が生じる。また、消費者はそうして生産されたものを品評する手段を奪われ、享受するしかなくなってしまう。

前期では創作の前段階にあたる「思考」に焦点を当て、立体物や映像を用い、筆者を含めた製作者と消費者が「○○っぽい」に終止しないようにするための方法を模索した。そして「参画型作品」と称して、閲覧者が「共に作品をつくっていく体感」をできる展示を提供するという結論に至った。

後期ではそれらを踏まえ、参画型の作品を実際に製作していく。

調査

つくっていく体感という条件から、データ等ではなく実物としての展示となる。ワークショップや遊具という案もあったが、「つくった」ということそのものに満足してしまい、そもそもの目的である「○○っぽいから脱却するための思考」に辿り着けないのではないかと考えた。

また、

・学校という見知った場所で展示する

・作品について閲覧者に説明するチャンスがある

という卒業制作ならではの条件も作品に取り入れようと考えた。

そして第一として、閲覧者にまずは自分の意見や解釈を持たせる作品とし、後になんらかの手段で製作者としての意図を伝えられる作品とすることを念頭に置いた。

研究方法

〈製作③ 「ポスター」〉

「レイヤー」という構造に興味を持ち、レイヤー構造の最たる例であるポスターを題材に、レジンと印刷用紙、プラスチック容器を用いて立体物を製作した。目的は口頭では伝えにくい概念の目視である。(右図1~3参照)この時、作品を横から見ると印刷用紙が見えなくなり、あたかもプラスチック容器の中には透明なレジンしか入っていないように見えるのが分かった。

この仕組みを展示に用いれば、見る角度によって印象が変わる作品の製作が可能となり、製作目的を達成することができると考えた。よって、レイヤー構造を方針として固めつつ、製作④へと移った。

 

〈製作④「蜘蛛の糸」〉

製作③の仕組みを活用し、横から見るとただの板の重なりだが、下から見ると絵として見える立体作品を試作した。(図4~5参照)垂直方向に垂れる糸を誘導のためのヒントとしている。これをベースに展示作品として仕上げていく。

 

 

テーマである蜘蛛の糸は芥川龍之介の同名作品をオマージュしている。

まとめ

製作者にとって気付き=アイディアは救いの意味合いを持つ。糸=きっかけに気付くことで救い=アイディアの誕生を見るという感覚を直接的に体感することができる。また、コロナ禍の現在を重ね合わせ、閲覧者が下=地獄から上=極楽を覗き込むことで、現代における地獄極楽図を完成させることができる。さらに、コロナ禍という新しい時代においても見方を変えて救いを見出すことの大切さを感じて貰えればと思う。

また、気付きが重なることによって作品との繋がりが深まる作品の構造がレイヤー状だということも決して偶然ではないだろう。

参考文献

守谷正彦(2010)すぐわかる日本の仏教美術 改訂版.東京美術

芥川龍之介(1986)蜘蛛の糸.青空文庫,2021年1月22日, https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/92_14545.html

清水善三(1997)仏教美術史の研究.中央公論美術出版

研究を終えて

考えれば考える程「〇〇っぽく」なっていき、非常に悩まされました。

作品を作る以前に整えなければいけない下地があるのではと思っているのに結局は製作で示すことになってしまい、不思議な気持ちです。

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