宮城県鳴子地域における魅力発信型ブランディング
引地 遼
中田研究室
2020 年度卒業
世界的観光の形態が「モノ」から「心」へと変化している。 そんな時、時間の流れや気取らない接客などの可視化できない魅力を多く持つ 宮城県鳴子地域に目を向け、その魅力を世界に効果的に発信する方法を研究し作成した。
https://site-3048997-3855-2274.mystrikingly.com/

はじめに

コロナ禍以前、日本の訪日観光先は、東京、大阪、京都を中心とした特定都市に偏ってきた。しかし人々の需要は「モノ」から「心」の満たしに変化しており、さらにコロナ禍の状況が拍車をかけている。この現状に対し鳴子地域は、温泉やこけしなどの特徴に加え、気取らない接客、時間を気にしない街の時間の流れ方など、「心」を満たす多くの魅力を持っている。

調査

● 聞き取り調査

調査地域である宮城県鳴子地域に訪れ、住人が思う地域の魅力について聞き取り調査を行った。

● 事例調査

無印良品の事例

2003年の無印良品の写真作品では、作者である原研哉さんはコンセプトについて次のように言及している。

「Visualize the Philosophy. 思想をたくさんの言葉や情報ではなく、見た人が自然に読み取ってくれるデザインを目指している。空っぽの中に、ユーザーが解釈する余地を残してくれている。またユーザーがそのことに気づいてくれるデザイン。ユーザーが、どのようなようにも解釈できる在り方を考えながら作った作品。「答え」を言うことではなく、「問い」を投げかける作品を作った」(無印良品.“Visualize the philosophy of MUJI”.2010年.)と述べている。この調査から、写真作品という視覚作品を通して閲覧者に能動的行動を与えていることがわかった。

● 北海道東川町地域ブランディングの事例

東川町は、雄大な自然景観、豊かな水が特徴であり、その環境で「自然」「文化」「人」間に感動がある場所である。この一見日本のどこにでもありそうな要素を、魅力としてブランディングしている(visualshift.“地域ブランディングは”らしさ”を軸に、東川町の取り組み”.amana.2016年.)。このプロジェクトでは、ロゴ、キャッチフレーズ、カラーを定め、これらを統一して使用することで複数の作品が1つの場所としてまとめる効果が得られ、したがって閲覧者に魅力が効果的に伝わることがわかった。

研究方法

● ロゴ、キャッチフレーズ、カラーの作成

キャッチフレーズは、鳴子地域最大の魅力である、自然の中で癒しの時間を過ごせることを、観光を意味する英単語「Sightseeing」を用いて表現した。一般的な観光として場所を「Seeing、見る」のではなく、「Healing、癒される」体験をして欲しいという意味を込めた。

テーマカラーは、鳴子地域の魅力的な場所にある色彩を使用した。潟沼や地獄谷など、どの場所にも緑があることが特徴であるため、それらの場所を想起させる緑を写真から抽出しテーマカラーと定めた。緑に加え、差し色となる黄色も選定した。

● 写真作品

調査から、視覚作品を通して閲覧者に気付きや視点を与える作品を制作した。鳴子地域の魅力を、一般的な観光に呼び込むためではなく、隠された魅力に気付く視点を与えることを目的としている。鳴子地域に対し具体的なイメージを持っていない外国人対象者に対し、パノラマサイズの写真を使用することで、臨場感を抱いてもらうのが目的である。レイアウトについては、キャッチフレーズであるSight Healingを写真中に使用し、伝えたいメッセージと視覚化された情報の一致から伝えたい内容の理解に繋げることを目的としている。

● 映像作品

本研究の対象者である多くの外国人は、宮城県はおろか鳴子地域についての情報を持っている人は少ない。そのため、写真作品に加え、さらに写実的な情報を得てもらうため、映像作品を作成した。表現手法として、人々が求めている「心」の満たし、つまり癒しの効果が得られることをメッセージの中心として作成した。ほどんどの人が持っている「Sightseeing(観光)」の視点から「Sight Healing(癒し)」に変化させて鳴子地域に来訪して欲しいという意図を込めた。

● ウェブサイト

作成した作品を掲載する方法として、世界中からアクセス、閲覧可能なウェブサイトを作成し掲載した。既存の鳴子地域が作成したウェブサイトでは、場所についての説明などはあるものの、宿の予約サイトなどが併設されておらず、実際の訪問の妨げとなっていることが考えられる。そのため、本研究では情報取得の順番に沿って情報を掲載した。作品の掲載に加え、鳴子地域の特色を記載し、画像をクリックすることでさらに情報が得られる仕組みとした。情報先には、前期で取り組んだTripadvisorに繋がるため、英語での説明が得られる流れになっている。また、リンク先の宿の予約サイトでは英語で宿の価格をはじめとした情報を比較しながら予約することができる。このウェブサイト作成を通して、作品の提供のみに留まらず、現地訪問までを網羅することを目標としている。

まとめ

鳴子地域はこれまで、一般的な観光(Sightseeing)の形式を取ってきた。しかし「Sightseeing」の形では訪問者を疲れさせてしまうこともしばしばである。対し本研究では、訪問者が鳴子地域に訪問することで癒される体験をする「Sighthealing」の形式を創造した。さらに、ユーザーが訪問するまでのプロセスとして、写真や映像から得られた情報をもとに、独自の視点を閲覧者に問い、自らの知見を持って地域に訪問してもらうことをねらいとしている。コロナ禍が続く今日の世界で、訪問までのプロセスを提供し、訪問実現の日まで、閲覧者が自らの知見を確立させることができれば、本研究のねらいである心の癒される観光が作品を通して実現されるのではないだろうか。

参考文献

無印良品.“Visualize the philosophy of MUJI”.2010年.2020-10-30.

https://www.muji.com/jp/flagship/huaihai755/archive/hara.html

visualshift.“地域ブランディングは”らしさ”を軸に、東川町の取り組み”.amana. 2016年. 2020-01-08.

https://visual-shift.jp/5143/?utm_source=vsmail_2018_08-28&utm_medium=emai&utm_campaign=art02img&lfpeid=uMhKwAYwhLK3&lfmaid=1000000322-17

研究を終えて

本研究では、私が入学以前から表現したかった、宮城県における地域の魅力を世界に発信することを

実現することができた。

可視化できない魅力を可視化するというプロセスは、とても難しいものであったが、様々な調査や聞き取りを行うことで段々とクリアにすることができた。

メニュー