児童遊園は、都市公園と同様に遊具や広場を有し、児童に遊び場を提供する、児童福祉法によって整備された公共施設であり、都市公園とは異なる施設だが、児童遊園と都市公園が隣接するケースが存在する。この例は子供の行動範囲や遊びの内容が広がるなどのメリットが想定され、一体的な整備が期待されるが、その経緯や目的は明らかにされておらず、また先行研究も全く存在しない。
そこで、本研究では、都市公園が隣接している児童遊園を対象に、空間ゾーニングやかき・柵、設備といったハードと、児童遊園・都市公園に関する法律や制度、管理主体といったソフトについて調査し、都市公園と児童遊園の一体的な整備に関連する情報を明らかにすることで、今後の都市公園と児童遊園における一体的な整備・維持管理・利用のための知見を得ることを目的とする。このうち、予備調査(1)では、法律などの制度背景、七北田・将監のハード面での整備状況について明らかにした。
調査
対象概要
本研究は、都市公園と児童遊園が一体的に隣接している箇所を対象とする。ここでいう隣接の定義は、隔てるものがなく連続して立地している、あるいは両者間を滞りなく移動できることを前提として、遊歩道または6m道路を境目として連続して立地しているものとする。以上の条件から、仙台市内の都市公園・児童センターが隣接している七北田、鶴が丘、長命ヶ丘、将監あおぞら、加茂、寺岡、南中山、虹の丘の8か所を研究対象として選定した。
調査方法
まず、鶴が丘、寺岡、虹の丘、加茂、長命ヶ丘、南中山の6か所に位置する児童遊園・都市公園について、現地確認と航空写真を用いて図面を作成し、位置関係や空間構成を明確化する。次に、仙台市内の対象8か所の児童遊園や隣接する都市公園の設置経緯、維持管理について、文献や自治体へのヒアリングによって明らかにする。また、児童センター利用者の都市公園と児童遊園の利用状況について、対象8か所の児童センターへのヒアリングを実施したが、ここでは割愛する。
表 1 対象都市公園・児童遊園・児童センターの概要
名称 | 面積(㎡) | 所在地 | 設置年月 |
泉中央三丁目東公園(街区公園)
七北田児童遊園 七北田児童センター |
1736
1017.46 456.56 |
泉区泉中央3丁目
泉区泉中央3丁目 泉区泉中央3丁目 |
1994年12月
1964年4月 1990年4月 |
鶴が丘公園(近隣公園)
鶴が丘児童遊園 鶴が丘児童センター |
17611
1985.49 370.22 |
泉区鶴が丘3丁目
泉区鶴が丘3丁目 泉区鶴が丘3丁目 |
1979年6月
1981年4月 1981年4月 |
長命ヶ丘六丁目西公園(街区公園)
長命ヶ丘児童遊園 長命ヶ丘児童センター |
2514
1953.48 371.78 |
泉区長命ケ丘6丁目
泉区長命ケ丘6丁目 泉区長命ヶ丘6丁目 |
1979年6月
1982年4月 1982年4月 |
将監ふれあい公園(近隣公園)
将監あおぞら児童遊園 将監児童センター |
10426
2555.50 361.42 |
泉区将監8丁目
泉区将監8丁目 泉区将監8丁目 |
1986年6月
1983年4月 1983年4月 |
加茂三丁目公園(街区公園)
加茂児童遊園 加茂児童センター |
2034
2430.72 379.45 |
泉区加茂3丁目
泉区加茂3丁目 泉区加茂3丁目 |
1981年12月
1986年4月 1986年4月 |
寺岡三丁目公園(街区公園)
寺岡児童遊園 寺岡児童センター |
3043
2979.39 379.54 |
泉区寺岡3丁目
泉区寺岡3丁目 泉区寺岡3丁目 |
1986年3月
1987年4月 1987年4月 |
南中山四丁目公園(街区公園)
南中山児童遊園 南中山児童センター |
2450
2010.66 379.33 |
泉区南中山4丁目
泉区南中山4丁目 泉区南中山4丁目 |
1989年3月
1981年4月 1988年4月 |
虹の丘一丁目公園(街区公園)
虹の丘児童遊園 虹の丘児童センター |
2027
1624.95 384.80 |
泉区虹の丘1丁目
泉区虹の丘1丁目 泉区虹の丘1丁目 |
1984年4月
1989年4月 1989年4月 |
調査報告
都市公園と児童遊園の設置時期・空間構成分析
対象8か所のうち、前述の6か所について、航空写真と図面を用いて都市公園と児童遊園の一体的整備に関する、時期・空間的分析を行う。
- 鶴が丘児童遊園・鶴が丘公園
設置はそれぞれ、鶴が丘児童遊園は1981年4月、鶴が丘公園は1979年6月であり、設置時期は比較的近い。両者が設置される前の時期である1977年に撮影された航空写真を確認すると、設置前からすでに2021年現在と同じ区画割りであるほか、隣接する住宅や保育園の区画割りもされていることが確認できる。また、両者間を気軽に往来できる出入口が2か所設置されている。
- 長命ヶ丘児童遊園・長命ヶ丘六丁目西公園
設置はそれぞれ、長命ヶ丘児童遊園は1982年4月、長命ヶ丘六丁目西公園は1979年6月であり、設置時期は比較的近い。両者が設置される前の時期である1977年に撮影された航空写真を確認すると、設置前からすでに2021年現在と同じ区画割りであるほか、隣接する住宅の区画割りもされていることが確認できる。また、両者間を気軽に往来できる出入口が設置されているほか、両者間に遊歩道や道路がない。
- 加茂児童遊園・加茂三丁目公園
設置はそれぞれ、加茂児童遊園は1986年4月、加茂三丁目公園は1981年12月であり、設置時期は今回の対象地の中では少し時差がある。加茂児童遊園が設置される前の時期である1984年に撮影された航空写真を確認すると、加茂児童遊園設置前からすでに児童遊園を設置できるような区画割りがされているほか、隣接する住宅が完成しているものの、2021年現在児童遊園がある区画は更地となっている。一方、現地調査の結果、両者間で6m道路が境界になっているほか、両者の出入口が約18m離れている。
- 寺岡児童遊園・寺岡三丁目公園
設置はそれぞれ、寺岡児童遊園は1987年4月、寺岡三丁目公園は1986年3月であり、設置時期はかなり近い。両者が設置される前の時期である1984年に撮影された航空写真を確認すると、設置前からすでに2021年現在と同じ区画割りであることや、小山といった地形が造成されている様子が確認できる。また、両者間にフェンスなどの隔たりは一切ない。さらに、寺岡三丁目公園には吊り橋の遊具がかかっている。
- 南中山児童遊園・南中山四丁目公園
設置はそれぞれ、南中山児童遊園は1981年4月、南中山四丁目公園は1989年3月であり、設置時期にかなり時差がある。南中山四丁目公園が設置される前の時期である1984年の航空写真を確認すると、南中山四丁目公園の区画は確認されるものの、児童遊園の区画が当時は住宅用地として割り振られており、航空写真から見える範囲では児童遊園を確認できない。また、両者は6m道路を挟んで隣接しているものの、地形の高低差や樹木、老人憩の家、フェンスによって自由に往来することが出来ず、出入口間の距離が約87mとかなり離れている。さらに、南中山四丁目公園は南北に長い形状だが、児童が遊ぶ遊具は南中山児童遊園の反対方向である北側に位置している。
- 虹の丘児童遊園・虹の丘一丁目公園
設置はそれぞれ、虹の丘児童遊園は1989年4月、虹の丘一丁目公園は1984年4月であり、設置時期は今回の対象地の中では少し時差がある。虹の丘児童遊園が設置される前の時期である1988年に撮影された航空写真を確認すると、設置前からすでに2021年現在と同じ区画割りであることが確認できる。また、周辺には老人憩の家やコミュニティセンター、そして虹の丘小学校から遊歩道を経由して両者にアクセスできるが、両者間の出入口は約40mと遠い。
都市公園・児童遊園の設置経緯について
1978年4月に宮城県泉市(現泉区)総務部企画課が発行した泉市基本計画2)によると、当時泉市の団地部、特に造成時期の早い団地には児童が遊べる場所がなく、自動車交通量の増大で路上での遊戯が極めて危険となっていたことから、児童館や児童遊園などの施設の整備は安全面でも強く求められていた。また、当時は児童厚生施設も不足しており、造成時期の早い団地では地価・面積・土壌・騒音などの条件で設置が困難であった。次に施策として、児童遊園は可能な限り児童館に併設し、その他は計画的に用地を確保しながら、児童遊園、児童公園、幼児公園の整備拡充に努めると明記されている。
都市公園と児童遊園の維持管理について
対象8か所の都市公園と児童遊園は隣接しているものの、維持管理の主体は異なる。まず、都市公園の遊具について、点検は仙台市役所建設局公園課が毎年1回実施しており、異常が見つかった場合は業者に修繕を委託している。また、公園愛護協力会という地域住民が行政と協力して自主的に活動するボランティア団体によって、遊具の点検や除草・清掃といった活動が行われているものの、公園課・公園愛護協力会ともに児童遊園は管轄外である。公園愛護協力会は都市公園ごとに有志で結成されるが、対象8か所のうち、南中山四丁目公園のみ結成されていない。
一方、児童遊園の整備とその遊具の維持管理・修繕は仙台市役所子供未来局児童クラブ推進課の業務であるが、公益財団法人仙台ひと・まち交流財団に管理委託されている。
以上のように、維持管理に関しては、隣接していても都市公園と児童遊園で一体的ではない。
研究方法
設計提案
都市公園・児童遊園・児童センターを機能面や利用面で一体的に再整備する設計提案をすることによって、児童遊園の公共的な遊び場としての価値の向上や、遊びの選択肢・行動範囲の拡大といった可能性を明示することとした。
設計提案の対象として、南中山を選んだ。理由として、前述の課題に加え、南中山は都市公園と児童遊園間の距離が、対象8か所の中で最も長く、公園愛護協力会が唯一結成されていないためである。そこで、設計提案によって、上記の可能性に加え、周辺住民に都市公園への愛着が生まれ、公園愛護協力会が結成される可能性も期待する内容とした。
具体的には、児童遊園と都市公園の道路を歩行者道とし、隣接する老人憩の家を児童センターとの複合施設として再整備した。さらに、複合施設内に南北自由通路を設計した。この再整備案によって、デメリットであった児童遊園と都市公園間の移動が安全かつ容易になるほか、子供の遊び場複合化によって高齢者などとの交流人口の拡大につながり、児童の遊び場の拡充や、地域のにぎわいの創出を図った。
イメージ一覧
まとめ
考察
調査結果から、都市公園と児童遊園の一体的整備について考察する。
設置時期・空間構成分析からの考察
対象8か所の中で、都市公園と児童遊園の設置の時差が小さい鶴が丘・長命ヶ丘・寺岡は両者の出入口が近く、両者間の移動が容易であるのに対し、時差が大きい加茂・南中山・虹の丘は出入口が遠く、両者間の移動が容易でないことがわかった。このことから、設置時期の時差の大きさと両者間の最短距離の長さに、少なからず相関が見られ、設置時期の時差によって、都市公園と児童遊園の一体的整備を重要視する度合いに差があるといえる。また、加茂・南中山・虹の丘は両者間に建物が位置していることも、移動距離が長いことに関係しており、これらの児童遊園は都市公園との一体的整備をあまり考慮していないといえる。
設置経緯からの考察
1つ目として、対象8か所の児童遊園はすべて泉市基本計画の制定後に、開発業者等から公共用地として帰属を受けた土地に計画された(七北田児童遊園は七北田児童センター設立に伴い現在地に新設移転された)。このことから、都市公園と児童遊園を最初から隣接するように計画・整備したことは確かだといえるが、開発前から自治体や開発業者が都市公園と児童遊園の相互利用を想定し、意図的に隣接するように計画したかは定かではない。
2つ目として、対象8か所の都市公園はすべて児童公園として設置されたため、都市公園であっても主に児童の利用を想定している可能性が高い。このことから、児童の自由な遊びを実現するために、都市公園と児童遊園を意図的に隣接した可能性は十分にあるといえる。
維持管理からの考察
都市公園の維持管理は建設局、児童遊園は子供未来局で異なるため、管理上は一体性が考慮されていないといえる。
今後の展望
現状として、児童クラブ登録者は隣接する都市公園の利用を制限されている、誰でも利用できるはずの児童遊園が児童センターの館庭としてしか利用されていないなど、都市公園と児童遊園が隣接しているメリットを生かせていない。また仙台市では、児童館整備事業の大規模修繕工事において児童センターの敷地である児童遊園は対象外であるほか、児童遊園に関する将来方針も定められていないなど、児童遊園の価値が全く重要視されていない。以上のような課題を、今回の設計提案のようなアプローチで解決に努めていくことが大切だと考える。また、児童遊園の秘める遊び場や地域交流の場としての価値を、自治体が中心となって見出していくことが重要である。
参考文献
1)田村渓介:都市公園が隣接する児童遊園の一体的整備に関する研究,宮城大学令和2年度卒業研究I成果発表会予稿集,pp.12-13,2020
2)泉市総務部企画課:泉市基本計画,1978
研究を終えて
児童遊園という施設を今回の研究を通じて初めて知りましたが、必要であるにもかかわらず重要視されていない現状であることがわかり、児童遊園の再整備を進めていくことが大切だと感じました。制作と論文の両立は大変でしたが、確固たる根拠を基にロジカルで意味のある設計が、多少なりともできたと感じました。ご指導・ご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。