衣服の作法で建物をつくる
「一枚の布」から考える衣服の中の建物性
田中千尋
中田研究室
2020 年度卒業
もともと衣服と建物は様々な脅威から身を守るために纏う物であり、その概念においては同じものであると言える。では衣服と建物の境界はどこにあるか。衣服の原点である「一枚の布」への衣服的な加工(5段階の実験)をしていく中で衣服ではなくなった地点の造形及びその現象を衣服と建物の境界点であるとした。さらにこれを踏まえて2つの習作を行うことで強調すべき建物性を見出した。

はじめに

元来、様々な脅威から身を守るために纏う物という概念においては同じものである衣服と建物、この境界はどこにあるのか。それは一方からもう一方へ近づいていく過程で明らかにできると考えた。よって本制作では「衣服」に内在する「建物性」を発見し、それを造形化することで「衣服」と「建物」の境界を明らかにすることを目的とした。

調査

1973年、三宅一生は『一枚の布』というコンセプトの元にコレクションを発表した。これはインドのサリーや日本の着物から着想を得て、衣服の原点とは一枚の布であるとし、それによって今日の衣服を構成しようとしたものである。このことから、「一枚の布」への加工は様々な衣服に発展する可能性を持つものであると考えられる。

研究方法

仮説

衣服と建物は原来同じものであるということから、建物性は今日の衣服の中にも内在している(その要素を持っている)と考えた。さらに、『一枚の布』より、身体の動きと一枚の布の関係性の変化に、衣服と建物の境界発見の手がかりがあると考えた。よって仮説として、衣服の原点である「一枚の布」を元にした制作物と身体の関係性を観察し、それを強調することを意図して制作物に衣服的な加工を施していくことによって発見された建物性は、限りなく衣服性に近いものとした。そしてこれは衣服と建物の境界を示すことになると考える。

手順

衣服の作法を用いて、衣服に内在する建物性を発見するための実験、実験によって発見された建物性・それを強調する現象を表現する練習としての習作、以上を踏まえて最終成果物の制作、という3つの手順で行うこととした。

実験は、布と身体の関係性が向上すること、動きが大きく見える(見せられる)ことを身体性の拡大を意識して、「一枚の布」に対して衣服的な加工を5つの段階で行った。モデルにはダンス経験者(バレエ・ヒップホップ)を採用した。これは身体と制作物の関係性の変化がより明確に現れると考えたためである。(動画▶︎実験 #1-5)

考察(発見した建物性)

一つ目は形状の維持性。動きに対応してストリングを引っ張ったり緩めたりすることで、動きに関わらず制作物の形が維持できた。

二つ目は空間性。実験#5では身体性を拡張するために切り込み入れたことにより、制作物と身体の一体感が増し、鑑賞者に四肢を連想させる造形になった。このことから、制作物と身体に一体感が感じられないこと、その間のもっと空間(ゆとり)がある(ように見える)ことが作品の建物性を高める要素になると考えた。

作品「衣服か、建物か」

以上をもとに最終成果物の制作に取り組んだ。(動画▶︎作品)

まとめ

大きな四角いシャツのような造形は、周辺環境の影響を多少受けながらも一定の形状を維持し、中にはシャツ以上の空間が用意されていて、これらが襟やカフスの存在を皮切りに衣服の作法で作られていることがわかる。以上より、衣服と建物が融合した作品になったと言えると考える。このことから結論として、「一枚の布」を出発点とした場合の、衣服と建物の境界が、作品の存在を持って明らかになったと言える。

参考文献

・北村みどり(2016),ISSEY MIYAKE 三宅一生,タッシェン

研究を終えて

二つの(一見全く)異なるものの境界的な作品は、どちらとも言い切れない曖昧な造形になりました。完璧なまでに分類することやマジョリティに属していることに安心するよりも、皆がこの作品で感じるような「これが何なのかはよくわからないけど、なんだか良い」といった曖昧さを享受できるようになればいいなと思います。

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