2020年度は社会的に大きな転換を求められた年であった。原因はもちろん、新型コロナウイルスの流行である。マスクの着用やソーシャルディスタンス、外出自粛など、これまでの社会の在り方とは大きく異なるものを求められた一年であった。
多くのものを失った一年であったように思うが、その中でも多くの人が手に入れた資源が「時間」であるように思う。その「時間」でより充実した経験を得ることができるものをデザインすべきだと考え、ボードゲームの制作に至った。
調査
ボードゲームを実際に制作するにあたり、星座をテーマに取り扱うことを決めた。これは星座という非常に奥深い概念が、非常に身近にあるにも関わらず、しかし、星座に関する情報はあまり知られていないように感じたからである。
我々は毎朝、テレビの星座占いを目にするし、何座かと聞かれれば答えることができるが、その星座がどの季節に見えて、どのような逸話を持っているかということまでは知る人は少ない。特に星座は中学理科や地学などでも取り扱うテーマでありながら、神話などにも結びつき、エンタメ方面でもよく目にするテーマである。制作したボードゲームを通じて星座についての理解を深め、より「身の回りにあるもの」への興味関心をもつきっかけになることを主な目的とした。
ボードゲームを選んだ大きな理由は、ボードゲームが幅広い年齢層に愛されているコンテンツだからである。ボードゲームは知育玩具として、或いは家族でのパーティーゲームとして、或いは大人同士で真剣勝負としてなど、さまざまな場面で用いられるコンテンツである。特に将棋や麻雀などはプロリーグがあり、非常に盛り上がりを見せている。このように様々な状況で楽しむことができ、なおかつプレイする相手との関係性でもゲーム性が変わるのがボードゲームの魅力の一つであるといえる。そのようなボードゲームの特性を活かし、星座への興味を、ひいては身の回りへの興味を持つきっかけとなる経験の提供を目的とした。
研究方法
以下に、実際に制作したゲームのルールを説明する。
・図2のような星座のカードを盤面上に並べて配置する
・プレイヤーはサイコロを順番に振り、振った分星を置くことができる。
・星は大・中・小がある。小を囲むように中、大を配置することができ、最も外側の星を置いたプレイヤーのものとしてカウントする。
ただし大は1個、中は5個のみ。
・ラウンドは12回行われる。1ラウンド目を1月とし、その後も同様に月を進めていく。
・各ラウンドでプレイヤーが星を置き終えたタイミングで集計を行う。
各星座の上に乗っている星が多い順に点数を与える。
1位 3点 2位 2点 3位 1点
・次のラウンドに進む
おおまかなルールは以上である。これを繰り返して12月までラウンドが進行し、12月のラウンドが終了した際、一番点数の高かったプレイヤーの勝利となる。
このゲームにおいて重要な要素は、「点数のマネジメント」である。何故なら、単に毎回点数が一番高くなるように選択を続ければ勝てる、というわけではないからである。
このゲームは、1位と最下位は特殊なサイコロを振ることになる。
・1位のサイコロ 1,1,1,2,2,6
・最下位のサイコロ 4,4,5,5,6,6
これにより、1位はサイコロがかなり弱いものになり、最下位は強いサイコロを振ることができる。さらに、各ラウンドでは点数の高い順にアクションを起こすので、1位は最も早くアクションを行うことになる。だが、先述の通り既に配置されている星を自分の星で上書きできるため、基本的に後から行動を起こす方が有利にはたらくのである。このため、自分の順位をいかにコントロールできるかがこのゲームの鍵の一つといえる。これが、私が前期制作の反省から導入した運の要素に対する手法である。運の要素は、ある程度プレイヤーに「管理できている」と思わせる必要があるのだと、私は制作を通じて気づいた。そこで、出目のコントロールや順位のコントロールをゲーム性の一つに加えることで、より奥深さを増すことができたように思う。
さらに様々なボーナスがある。
・星座を完成させたプレイヤーにその時点で+5点
・集計を行う際に独占している星座があると+1点
・ラウンドの月に見える星座は点数集計で貰える点数が
倍
・自分の星座の星をカウントする際は倍の数でカウントできる
このように様々なボーナスがあるため、どの星座にどのように星を置くかによって自身の点数を大いに左右することができる。
自身と相手の星座によってゲーム性が変化しながら展開されるというのは、ボードゲームの根源的な魅力の一つであり、更に自分の星座ならどうゲームが進むのだろう、というプレイへの動機付けが生まれている。これはゲームをプレイする際のハードルを下げるという点でも効果的であると考えた。また、既存の星座を取り扱ったゲームの中で、自身の星座をゲーム性に取り入れるというものは見かけなかったため、既存のゲームとの差別化の役割も果たしている。
まとめ
様々なシステムのボードゲームを制作し、星座ならではのボードゲームのシステム構築に苦戦したが、結果としてボードゲームとしての面白さと星座の持ち味を活かしたゲームを制作することができた。ゲームの経験を通じ、星座への興味を持つきっかけを生み出すことができた。
参考文献
Geoffrey Engelstein,Isaac Shalev 小野卓也(訳) 2020
ゲームメカニクス大全 ボードゲームに学ぶ「おもしろさ」の仕掛け 翔泳社
研究を終えて
世界では様々なボードゲームが存在し、麻雀や将棋などはプロリーグが存在するほどの大きさを誇る。生まれ、やがて淘汰されてきたボードゲーム史の中で、現存するボードゲームは非常に高水準なゲームに洗練されていることを改めて痛感した。ボードゲームは世代を問わず楽しむことができるコンテンツであるので、今後も様々な視点でボードゲームの魅力について考察し、理解を深め、新たな魅力を生み出していきたい。