湯沢とあなたの交点
地域資源によって市民の交わりが連鎖する場を目指して
髙橋 璃歩
平岡研究室
2020 年度卒業
秋田県湯沢市は私の生まれ故郷である。東に奥羽山脈を背負い、雄物川水系はあきたこまちで知られる秋田米の一大産地を形成し、地形の恩恵をうけ発展してきた。地域資源によって市民が故郷に関心を持ち、人の関わりが連鎖する場を提案する。日常生活の中、湯沢の魅力が身近にあることで、まちとの関わりや市民同士の交流が始まる。本提案で取り入れた絵どうろう・曲木家具・地酒と触れ合いは市民の居場所となる。

はじめに

 秋田県湯沢市は東に奥羽山脈を背負い、雄物川水系はあきたこまちで知られる秋田米の一大産地を形成し、地形の恩恵をうけ発展してきた。地場産業や食べ物、美味しい地酒、豊かな温泉地がある。その一方で人口減少、特に若者の県外流出が顕著であり、2030年には消滅可能性都市に指定されている。

 本研究は高齢化がすすみ、若者の減少傾向の中で「昔から存在する地域資源によって市民が故郷に関心を持ち、人の関わりが連鎖する場所」について提案することが目的である。

調査

前期研究では実地調査をおこない、地元の魅力を直接探した。

これにより湯沢市の特色が色濃く表現できる敷地の発見にいたる。

歴史的建造物の共通点

かつて呉服商として栄えた山内家住宅や両関酒造本館は国の有形文化財に登録されている。後者の建造物は、大正12年(1923)の建築で伝統的な町屋形式の建物である。大屋根の切妻屋根がかかり、妻面にみられる和小屋の貫の重なり、窓や扉部分の繊細な格子など、この建物は酒処湯沢のシンボルとして親しまれている。湯沢市の歴史的景観に寄与している建造物から着想を得て、その意匠を本提案に取り入れる。

 

湯沢大堰と市民

湯沢大堰の脇には住宅が立ち並ぶ。まち歩き調査から、湯沢大堰から分流する水路から水を汲み花に水やりをするおばあさんや自宅前に降り積もった雪を家族で湯沢大堰に排雪している光景を目にした。昔は今以上に周辺住民にとって湯沢大堰はなくてはならないものだったと感じた。エクステリアの安全な親水空間を設けるとともに、敷地内の通り抜けも意識して設計する。

研究方法

農林業・歴史・人が絡み合う湯沢の文化

産業・歴史・人(技術)の3要素を重ね合わせることで見えてきた湯沢の色を抽出し、設計の軸として設定した。曲木家具に適したブナやナラの豊富な湯沢に秋田曲木製作所が約100年前に誕生し、その技術は現在も受け継がれている。2つ目は全国にファンが多い日本酒である。湯沢の酒蔵が4軒のうち3軒は羽州街道沿いに昔の趣を残したまま、今も残っている。最後に夏の湯沢を幻想的に彩る約300年の歴史をもつ絵どうろうを挙げる。毎年、沢山の大作が夜の景色に映え、市民の多くが参加するまつりだ。

 

設計方針

1.絵どうろう•曲木家具•地酒と市民が出会い、体験する場

2.ふとしたときの市民の居場所

3.城下町・宿場町のまちなみ継承

設計

絵どうろう制作展示拠点&曲木家具カフェショールーム(A)

七夕絵どうろうまつりは8月5.6.7日に開催され、作品は5月後半にある2週間の講習会ののち、約2ヶ月かけて制作される。まつり本番はこの制作過程が通りすがりの人からも見えもらえるよう羽州街道沿いに建物を設計した。建物内は「入れ子」を採用し、制作に必要な水回りと道具置き場を設けた。物理的に市民と絵どうろうの距離を近くすることで、作品が徐々に完成に近づく様子を日常の中で感じることができる。この場所を起点として、まつりが近づく高揚感を演出し、まち全体を盛りあげたい。祭りの時期以外には過去の作品を展示し、起源の歴史を学ぶ場所として使用できる。様々な催事の際に披露される演奏やパフォーマンスなどはこの敷地の余白を使い、舞台を整える。
東北地方には秋田木工の曲木家具を展示するショールームがない。地元での知名度を上げるには、生活圏に曲木家具に触れられる場所が必要だと感じ、椅子を使用したカフェ兼ショールームを同建物の2階に提案する。眺めるだけではなく、実際に座ってみてお茶をしながら時間を過ごす。そうすることで、自分の好みのデザインを体験しながら探せるようになる。

 

まちづくり運営・イベント拠点(B)

まちづくり組織の役割には、①本提案施設の運営②イベント企画運営・サポート(市民主体)③近隣農家の直売所運営を計画している。市民の誰もが参加できるマルシェのようなイベントを定期的に開催することで、それが新しいまちの風景として定着し、活気につながることを計画する。ふとしたときに住民の目に入るよう1階に屋内イベントスペースを設け、関心を引きつけるきっかけを作る。大堰に隣接するエリアを広場とし、子どもたちの遊び場や車を乗り入れそのままお店を立ち上げ様々なイベントができるようにする。

 

地産地消・地酒レストラン(C)

秋田県産•湯沢市産の食材にこだわり、地酒に合った食事を提供するレストランとする。東に連なる山の尾根が最もまちに食い込んでいるエリアで、自然との近さを感じられる。客席は山側に向かいバーカウンターとし、裏の山を眺めながら食事を楽しむことができる。広々とした敷地の中で市民が買い物を楽しめるよう、Bの場所でマルシェをおこなう際にはCの前面空間も使い必要なスペースを確保する。道路側の空間にはテーブルや椅子を置き、市民の居場所をつくることをここでも意識した。車を乗り入れそのまま朝市を開くことで、採れたての食材を購入して持ち帰ることができるようになる。

まとめ

日々の生活の中、湯沢がもつ魅力に触れられ、目にはいることで、まちとの関わりや市民同士の交流が始まる。今回取り入れた要素の絵どうろう・曲木家具・地酒以外にも湯沢の魅力はたくさんある。市民との距離を縮められるこのエリアを利用し、市民を巻き込んだ多くの活動がされることを期待する。本提案により湯沢の魅力が引き出された空間や交流がこのまちの価値を多くの人に伝えるきっかけとしたい。

参考文献

◇文化庁 国指定文化財等データベース

◇馬場正尊+Open A (2016)エリアリノベーション『変化の構造とローカライズ』

研究を終えて

田舎と言われる場所ほどその人に与えられる役割が今は少ないように感じます。具体的にいうと、高校に通う地元の学生は、ほとんど人が家と学校の往復で他の居場所での立場を確立していないことがあります。当時、私が湯沢市に暮らしているときがそうでした。湯沢の外から、俯瞰して研究を進められたことですでにそこにあった魅力に気づくことができました。その土地に暮らす人にとって身近な場所で、知識や体験を重ねることやあるものを介して人と人が出会う機会の豊富さが人の豊かさにつながると思います。市民の皆さんが本当のまちの価値を一緒に探しだせる場の創造を目標にこれからの道も頑張っていきます。

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