withコロナ時代の住まいのカタチ
住まいにおけるワーク環境の考察
小野晶恵
平岡研究室
2020 年度卒業
「住まい」は時代の流れとともに様々なカタチに変化を遂げてきた。現在も社会の変化に伴い住まいに新たな要素が求められている。その中で今回私が着目したのは、働き方改革や新型コロナウイルスの影響により取り組みが増えたテレワークである。本研究では、住まいとワークの融合をテーマにこの時代の新たな住まいのカタチを考える。

はじめに

私たちの暮らしを支える住まい、これは時代の流れとともに様々なカタチに姿を変えてきた。現在、新型コロナウイルスの影響により、テレワークやステイホームなどが推奨され、住まいに新たな要素が求められている。また、コロナ禍以前に、現代社会のライフスタイルの変化に伴い住まいのカタチも変化してきている。これらを踏まえてこのwithコロナ時代の住まいのあり方を見直す必要があると考えた。特にコロナ対策の一つとして取り組みが進んでいるテレワークについては、在宅ワークの環境が十分に整っておらず、満足に行えていないという現状であることが企業の調査から明らかになっている。そこで本研究では、住まいの中のワーク環境に焦点を当て、withコロナ時代を快適に過ごすための住まいの検討、提案を行う。

調査

○現代の住まいの変化

現代の日本の住まいは、戦後の西山夘三による食寝分離の考え方を基本とし、食事室と居間を融合させたLDKの間取りがスタンダードになっている。また、居室は個々に設けられ、LDKの家族全体の集いの場と個人の場がはっきり分けられているのも特徴である。そして近年、ワークライフバランスの考え方など住まいに影響を与える社会の変化が見られるようになった。このことから、現代の住まいには、過ごし方の多様性、時間による使い分けなど、より自由でフレキシブルに過ごせる空間が必要だと考える。

○住まいに関する調査

withコロナ時代の住まいのあり方を考えるにあたり、コロナ禍におけるこれからの住まいの傾向を把握するため、株式会社リビタが行ったアンケート調査(2020)を確認した。

まず、ステイホーム中に考える時間が増えた項目については、「住まいのこと」と「働くこと」という回答がそれぞれ全体の7割を占めている。また、この2つを合わせて考える人も多いことから、住まいとワークが密接な関係になってきていることがうかがえる。

今後の住まいへの希望条件・暮らし方については、間取りの変更や快適さの向上を考える人が多い傾向にあることや、メリハリのある住空間・一人になれる空間が求められていることがわかった。やはりライフスタイルの変化に順応した間取り、多様な場面に対応できる空間が必要になってくると考えられる。

今後住み替え時に重視したい項目については、「リラックスできること(75.7%)」、「家でも仕事ができる環境(54.7%)」、「家族と一緒に過ごせること/自然を感じられること(38.2%)」、「食事を楽しめること(25.5%)」、「子育てを楽しめること(19.5%)」の順で回答されている。ここでも住まいに仕事環境を求める意見が多いことが確認される。癒しの場、家族とのコミュニケーションの場と仕事の場をいかに共存させるかが今後の住まいの課題であると考える。

○ワークスペースの分類

ハウスメーカーと不動産会社5社と株式会社エクスナレッジ『建築知識』2020年12月号で紹介されている、ワークスペースのある住宅事例55件をもとに、ワークスペースを配置や形態について大きく3つに分類したのち、さらに細分化し特徴を整理した。(図におけるWSはワークスペースを指す。)

 

Aパターン

Bパターン

Cパターン

Aパターンは公室と私室のほかにワークスペースが独立してあるもの、Bパターンは私室の中にワークスペースを設けているもの、Cパターンは公室の中にワークスペースを設けているものである。

次にこれら3つのパターンを周りの空間に対して開放的か閉鎖的について分類した。分類基準として、パーティションや棚など可動なもので仕切られている空間は開放的、壁・建具によって仕切られている空間は閉鎖的とする。以下に分類パターンと事例を示す。

Ao:スキップフロアや階段下などをワークスペースとして利用

Ac:フロア全体を仕事場とする

Bo:私室のデスクでワークを行う

Bc:私室の中にさらに部屋を設ける

Co:リビングやホールの一角をワークスペースとして利用

Cc:リビングやキッチンに仕事部屋を併設

(o:開放的 c:閉鎖的)

これらの細分化した計6パターンについて、前期研究で調査した在宅ワークの問題をもとに、「プライバシー性」「生活動線」「設備(機能性)」「使い方の多様性」の観点から評価したものを下図に示す。

ワークスペース評価表

プライバシー性に関しては、閉鎖的であるワークスペースがいずれも高いが、特にAc、Bcパターンの独立したワークスペースと私室の中のワークスペースが高く、次いでCcパターンの公室の中にある閉鎖的なワークスペースが高い。また、私室はプライバシー性が高いため、BoパターンもCcパターン同等のプライバシー性の高さがあると判断した。Ao、Coパターンについては、プライバシー性は低いが家族の気配を感じながらワークを行えるという利点がある。

生活動線に関しては、Ac、Bcパターンが最も長く、Coパターンが最も短いと判断した。前者は仕事とプライベートのメリハリがつけやすく、集中しやすいという利点がある。後者は家事を行いながらちょっとしたワークに取り組みたい時などに利用しやすい。そのため、Coパターンは子育て世代に適していると考える。

設備、機能性に関しては、デスクトップパソコンや仕事に使う資料、それらを収納する棚など動かしにくい設備について、ワークスペースとしての用途に固定されやすい空間であるAc、Bcパターンが特に設置に適していると判断した。

多様性・柔軟性に関しては、特にCoパターンが多様な場面で柔軟に対応できると判断した。6つのパターンの中で最もオープンな空間であり、誰でも自由に使用することができ、また使用する際に各々必要なものを持ち込み、使用後は持ち帰るという流れとなるため用途が固定されにくいと考える。

 

研究方法

これまでの調査や分析を踏まえてワーク環境を考慮したwithコロナ時代の住まいの設計を行う。

○対象設定

前期研究において、在宅ワークの問題に家族がいて集中できない、子どもを見ながら仕事ができる環境がほしいという意見があったことから、設計の対象は夫婦と子ども2人(未就学児、就学児)の4人家族の戸建て住宅とする。また、夫婦は共働きで週2~3日のテレワークがあることを想定する。

○住まい×ワークのポイント

ワークスペースの分類から、住まいにおけるワーク環境には特に3つの要素が必要だと考える。一つ目は、オンライン会議・授業への対応やプライベートと仕事の区別をつけるためのプライバシー性の高さである。二つ目は、職場に近い環境で仕事をするための設備や収納が充実した機能性である。三つ目は、ライフステージやライフスタイルに対応できる多様性・柔軟性のある空間である。これら3つのポイントを住まいの中に取り込むことで、住まいの中のワーク環境が改善できると考える。これらのポイントを押さえたワークスペースを6つのパターンから選択し組み合わせ設計を行う。

一階平面図

 

二階平面図

 

ワークスペース(Coパターン)
・キッチンに隣接
・多目的に利用可能

ワークスペース(Aoパターン)
・スキップフロアに配置
・リビングを見下ろせるため、家族の気配を感じながらワークできる

ワークスペース(Bcパターン)
・完全個室になるので集中したい時やオンライン会議や授業時に適した空間
・両側から行き来できるため親子ともに使いやすい
・資料等の収納も◎

まとめ

時代の流れとともに少しずつカタチを変えてきた住まい、そこに昨今の新型コロナウイルスという新たな流れが加わり、住まいのあり方を大きく変えることになった。本研究ではwithコロナ時代の住まいをテーマとしているが、これまでに変化しつつあった社会的背景、ライフスタイルの多様化という点も考慮すべきだと考える。住まいにおけるワーク環境を考える上で、ワークスペースとしての機能性、いかに仕事が捗るか、という観点は必要だが、それだけではなく、住まいの暮らしとのつながりを考慮することも重要である。これらを踏まえ設計では、暮らしとワーク環境の質を高めつつ、それらが互いに上手く織り交ざるような空間づくりを目指した。

新型コロナウイルスの影響を受け、自身の住まいについて多くの人々が意識するようになった今、withコロナ時代に順応する新たな住まいのカタチを構築することで、人々がより豊かに生活できるようになることを望む。

参考文献

・株式会社エクスナレッジ『特集:新型コロナに負けない建築の性能と間取り」『建築知識』793,2020.12

・株式会社リビタ「在宅時間の増加による、暮らしや住まいに対する考え方の変化の実態調査」,https://www.rebita.co.jp/release/release131/(2020年12月3日閲覧),調査方法:webアンケート方式,実施時期:2020年5月末~6月上旬,回答数:267件

・尾上亮介 他『図解ニッポン住宅建築―建築家の空間を読む』

・ダイワハウスのテレワークスタイル,https://www.daiwahouse.co.jp/jutaku/lifestyle/telework/index.html(2020年10月28日閲覧)

・テレワーク対応家づくりのススメ,https://www.mitsuihome.co.jp/home/particular/telework/ (2020年10月28日閲覧)

・リクルート住まいカンパニー「職住融合」,https://www.recruit-sumai.co.jp/sumai/2020_syokujyuyuugo.html(2020年10月28日閲覧)

・在宅ワーク提案,https://homes.panasonic.com/common/homeworking/ (2020年10月28日閲覧)

・在宅勤務時の集中できるワークスペースの作り方,https://kdat.jp/blog/lifehack/0023/ (2020年10月28日閲覧)

研究を終えて

住まいの中のワーク環境については、私自身も不満を抱いていました。みなさんも自宅でワークを行うことにやりづらさを感じることが少なからずあったのではないでしょうか。

今回はwithコロナ時代の住まいのカタチとして一案提案しましたが、新たな住まいのカタチはまだ検討の余地があります。今後、設計する立場として時代に順応した住まいを追求し提案していきたいと思います。

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