路地から考える回遊性のある街空間
宮城県松島町松島海岸地域を対象として
櫻井朱里
平岡研究室
2020 年度卒業
自然豊かで多様な風景が共存する松島海岸地域の空間的な魅力が顕在化した街を実現したい。そのために回遊性のある街空間を提案する。 様々な調査・分析に基づきマスタープランを作成し、対象地を設定した。中でも特に重要な拠点施設を2ヶ所取り上げた。そこに建物や路地空間を設計する。拠点施設及び対象地の回遊性の向上を図ることが、街の魅力向上のきっかけとなり、歩いて楽しい街の実現に貢献できると考える。

はじめに

研究の背景
人が散策し、たたずむことのできる回遊性のある市街地空間について調査・研究する。地域の活性化や賑わいを生み出すには、人が訪れたくなる街、住みたくなる街を目指す必要があり、その実現には回遊性を持たせることが有効だといえる。歩行者空間の質や快適さを高め、回遊性を持たせることで、休息、交流等の複数の行為が生まれ、まちの魅力の向上につながると考える。

 

 

研究の目的
前期研究では、歩行者空間として路地に着目し、街の回遊性を裏付ける要素や手法について調査した。路地の類型とヒエラルキーの既往研究をもとに、宮城県松島町松島海岸地域の路地空間の分析を行った。また、観光地における回遊性の向上を実現したまちづくり事業の例を調べ、その成功要素を整理した。以上を踏まえ、自然豊かで多様な風景が共存する宮城県松島町松島海岸地域の魅力を顕在化させた街を実現したいと考える。人が散策し、たたずむことのできる回遊性のある街空間を提案することを目的とする。

調査

 提案の方針

 

歩いて楽しい街の要素

松島町沿岸部において、歩いて楽しい街としての魅力を裏付ける要素として、「回遊性」、「路地空間」、「自然を感じる・景色を望める」、「来訪者と住民が交わる」の4点が重要であると考え、これらを踏まえて計画を行う。

来訪者目線では、歴史的名所を訪れる、食を楽しむ、歩行または自転車で自然を体感し楽しさを見つける、住民の生活が垣間見える、そこでの生活に憧れる、これらの行動が生まれることを目指す。住民目線では、この土地ならではの自然と距離が近い暮らし、交通手段を車だけに頼らない生活、公共空間に人が賑わい住民生活とつながっていること、観光地が生活の一部になっていること等を目指したい。

 

松島の路地の魅力

松島の路地の魅力は、通りやエリアによって全く異なる風景が見えることである。視界が樹木や崖によって遮られている分、少し歩くだけで次々と違った景色が現れ、様々な雰囲気を感じることができる。この特徴を回遊性に活かしたいと考える。
また、観光地と住宅地が隣り合っていることも魅力の一つである。来訪者で賑わっている国道45号線や、観光名所から一本奥の道に入ると住宅街につながり、住民が生活している様子や、地元の人に人気な雰囲気のよい飲食店や雑貨屋に人が集まっている様子が目に入る。路地空間を設計し、このような賑わいを大きく広げていきたい。

 


 

マスタープラン

 

松島の地形
路地の分析や現地調査から、松島町沿岸部では観光スポットが多く存在する一方で、高低差のある地形や複数の交通手段により、それらが分断され別々のものになっていることがわかった。例えば、道が崖に覆われている場所では、隣の通りの様子がわからないまま観光を終えてしまうこと、海側と山側では距離があるためどちらか一方の短時間滞在が多いこと、公共交通機関を利用する観光客は、目的地が限定され宿泊施設も集中していること等が挙げられる。ゆえに、観光地や建物同士の連続性と、歩く楽しみを見つけられる歩行者空間を目指すことが重要であると考える。

 

歩行×サイクリング
別々のものになっている観光地を連続させるために、サイクリングが有効な手段の一つだと考える。松島の海と山の両方の魅力を肌で感じるためにも適しているといえる。歩行とレンタサイクルを掛け合わせることで、観光の範囲が広がり、選択肢を増やすことにつながるため、滞在時間の拡大が期待できる。

そこで、ルートの作成を行った。
 はじめに観光客に人気 のある目的地、来訪者の行動範囲を把握した。次に目的地までの歩行と自転車のルートを設定し、その交わる場所に乗り換えができるポイントを設けた(図1)。瑞巌寺や円通院、松島さかな市場がある中心部に歩行者ルートが集中し、その北東方向に海の景色が広がるルート、南西方向に展望台や山の上のカフェにつながるルートを設けた。一部、歩行と自転車のルートが重なる場所があるが、道路幅、交通量等を考慮して決めた。

 

 

研究方法

拠点施設

 

対象地の状況
設計の対象地は写真のゾーンを選定する。この中で、西側へと続くaの道は瑞巌寺や円通院に繋がり、北側へと続くbの道は松島駅に繋がる。南東へと続くcの道は観光客が賑わう国道45号線に交わる。aの道に面する建物は歴史的建造物が立ち並び来訪者が多い一方で、bとcの道を境界に東側のエリアでは住宅街の中に商業施設が点在しているため、来訪者の利用は少ない。国道45号線と、aの通りから人が流れることを想定し、このゾーンに建築物と路地空間の設計を行う。ここで回遊性の向上を図ることで、街の魅力を高めるきっかけになればよいと考えている。
そのために、対象地A、Bに拠点施設を設計する。対象地Aは国道45号線に交わるcの通りを跨いでいる。対象地A付近の道路は崖に囲まれた空間となっており、大通りから一気に雰囲気が変わる。すなわちルートの中で、景観の結節点としての役割を果たしている。対象地Bは、bの通りに面した場所となっている。さらにbやcから分岐した細い路地とも交わる場所になっている。ゆえに歩行者ルート同士をつなげるポイントとなっている。敷地内には雰囲気のよい雑貨屋、パン屋、カフェが建っている。

 


 

拠点施設

対象地と拠点施設

松島の空間的な魅力を顕在化するにあたり、対象地を設定する。またその範囲内で重点的な場所を2ヶ所取り上げ、拠点施設を設計する。対象地の回遊性の向上を図ることで、街の魅力を高めるきっかけになればよいと考えている。
設計の対象地は、観光客や地域住民の通行量の観点から図2のゾーンを選定する。この中で、西側へと続くaの道は瑞巌寺や円通院に繋がり、北側へと続くbの道は松島駅に繋がる。南東へと続くcの道は観光客が賑わう国道45号線に交わる。aの道に面する建物は歴史的建造物が立ち並び来訪者が多い一方で、bとcの道を境に東側のエリアでは住宅街の中に商業施設が点在しているため、来訪者の利用は少ない。国道45号線と、aの通りから人が流れることを想定し、この対象地に建築物と路地空間の設計を行う。

 

設計の概要

AとBの二ヶ所に建物を設計し、その周辺の景観整備も併せて行う。拠点施設Aには、カフェレストランとレンタサイクルの機能を持たせた建物を設計する。カフェレストランは敷地に隣接する、観光客にも人気の高い地元菓子店の系列店とする。レンタサイクルに関しては、貸し出し・メンテナンスだけではなく、レンタサイクル利用者向けにルートの提案や観光スポットの紹介ができるようにする。拠点施設Bでは、既存の魅力あるカフェや雑貨屋を残したまま、その周辺に複数の建物を点在させる。建物を配置することで敷地に路地空間を創る。建物の用途は、飲食店や体験型施設等とする。イベントスペースや移動販売ができる場所も設ける。

 

設計のコンセプト

拠点施設Aは、大通りから菓子屋の横の道を奥に進んだ場所にある。通りの入り口が崖で覆われており、敷地の周りも崖や背の高い樹木に囲まれているため、落ち着いた雰囲気となっている。国道45号線とは対照的な、静かな雰囲気をカフェレストランに生かし、大通りからのアクセスの良さをレンタサイクルの乗り換え地点として生かしたいと考える。また、自転車利用者でも使いやすいような建物を目指し、軽食と飲み物のテイクアウトが可能であること、自転車に乗ったまま中に入っていけること、を前提として空間デザインを行う。
拠点施設Bは、敷地内に新たに路地空間と人が集まれる公共空間をつくる。来訪者も地域住民も散策や休息ができることを目指している。敷地内での回遊性に加え、この場所に人が集まり、周辺の特徴が異なるエリア同士を連続させることができれば、街全体の回遊性の向上に寄与する。

 

運営組織

松島町の観光には、株式会社インアウトバウンド仙台・松島、仙台・松島復興観光拠点都市圏DMO、松島観光協会等の組織が関わっている。

対象地Aのカフェレストランの運営に関しては、隣接する建物の中に入っている、菓子店の親会社を運営主体ととして想定している。レンタサイクルと対象地Bの運営に関しては、観光PRの機能も持たせたいと考えており、松島観光協会と連携し、松島全体の情報や文化の発信地を目指すことを想定している。

 

 

 

 

 

 

まとめ

以上のように2ヶ所の拠点施設を設計することで、対象地と街全体の回遊性向上に貢献する。結果として松島の空間的魅力の顕在化と、歩いて楽しい街を実現できると考える。

参考文献

□ 株式会社インアウトバウンド仙台・松島『株式会社インアウトバウンド仙台・松島』,
2018年 , https://www.inoutbound.co.jp/
□ 観光庁『拠点都市圏DMOの設立』仙台・松島復興観光拠点都市圏形成推進計画 ,
2017年8月 , https://www.mlit.go.jp/common/001202883.pdf
□ 一般社団法人松島観光協会『一般社団法人松島観光協会について』日本三景松島 ,
2021年 , https://www.matsushima-kanko.com/information/

研究を終えて

最終的な提案に至るまで、先行研究と現地調査から路地の構成や空間的特徴の分析をしたり、急な山道や海岸を自転車で走って風景の移り変わりを調べたり、まちづくりの成功事例を一つひとつ分解して考えたりと、様々な切り口から調査し分析を行いました。また松島海岸地域全体と対象地、拠点施設というように、繰り返し視点を変えながらまちを見ることで非常に多くの気付きがありました。協力していただいた方々、ご指導していただいた方々に心から感謝しています。研究を通して得たこと、感じたことを心に留め、次に向かっていきます。

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