同じモチーフのイラストでも,画風(絵の表現の仕方の特徴や傾向)の違いは見る人の印象を大きく左右する.見る人に誤った情報を与えないためにも制作者が与えたい印象に沿った画風のイラストを使用することが大切である.
イラストレータは「かわいい」「エレガント」など広い画風のイラストを描けると,コンセプトにより適したイラストを制作できる.しかしながら,現在,画風を構成する要素(以降、画風要素と記載)と印象との因果関係(どういった画風要素を組み合わせると、どのような印象を与えるのか)は客観的に明らかになっていない.そこで,本研究では,イラストの印象を構成する画風要素を明らかにすることを目的とする.また,デフォルメ具合等の形に関する要素は個人の画力に大きく依存してしまうので,本研究では形以外の画風要素を見つけることとする.
調査
人間の評価構造に関して,認知心理学理論の原形ともいえるパーソナルコンストラクト理論によると,人間の行為は,図のように各人の認知単位(コンストラクト)が階層構造を持ち,下位から上位に情報が加工されて,行動が決定するという考え方がある.
そこで,本研究ではイラストのイメージを構成する画風要素を階層的に明らかにするために以下のアプローチで研究を行っていく.
- グリッド評価法(面接実験)を用いてイラストの形態要素より認知部位を抽出する
- 感性工学で用いられるラフ集合理論により認知部位とイメージとの因果関係を明らかにする実験を行う
- 得られた画風要素が適切かを検証する
研究方法
1.認知部位の抽出実験
実験の目的:無数にある画風要素から,人が認知している画風要素を抽出する
実験方法:
- 画風の違うみかんとトマトの画像を50枚ずつ用意
- 評価対象について,認知部位を評価グリッド法にて抽出
評価グリッド法:好みや対象の評価とその理由を問う形で個人の評価構造を模索する方法
実験より得られた認知部位:線は5つの属性と,20個の属性値が抽出でき,塗りについては6つの属性と26個の属性値が抽出できた
2. 印象と認知部位の対応付け
実験の目的:得られた認知部位と印象との因果関係を明らかにする
実験方法:
- 画風の違うみかんの画像を50枚ずつ用意
- 評価対象のイラストについて印象に関するアンケートを実施
- ラフ集合により解析
ラフ集合理論:人間の知覚といったあいまいなものを「類別」と「近似」をすることで分析対象の特徴がどの要素の組み合わせで成り立っているのかを極小の組み合わせで表現するもの
実験結果:
今回調査したのは「プリティ」「エレガント」「カジュアル」「ワイルド」「シック」の5つ。
得られた印象ごとの特徴を以下に示す
3. 得られた画風要素の検証実験
実験の目的:前述の実験ではみかんのイラストを対象に印象と認知部位の対応付けを行ったが、それがほかのイラストでも当てはまるかを調査する
実験結果:「エレガント」「ワイルド」は今回明らかにした画風要素を組み合わせると意図した印象になることがわかった
まとめ
今回の実験では「エレガント」「ワイルド」の画風要素が明らかになった。今後は「カジュアル」「プリティ」「シック」の画風要素を明らかにするのと、今後の展望としてはこれらの画風要素を自動で変換できるようにしたい
参考文献
井上勝雄, 原田利宣, 稚塚久雄, 工藤康生, 関口彰. ラフ集
合理論の感性工学への応用. 海文堂, 2009.
小代禎彦. 個人差を考慮した浴室の好みの評価. 日本感
性工学会論文誌, Vol. 8, No. 1, pp. 53–60, 2008.
森典彦, 田中英夫, 井上勝雄. ラフ集合と感性. 海文堂,
2004.