東日本大震災を振り返るウェブコンテンツの提案 -Album311-
山口菜穂
鹿野研究室
2020 年度卒業
2021年は東日本大震災から10年の大きな節目を迎えます。私は2020年3月11日に感じた仙台市と地元とのギャップから、震災の記憶が薄れた人や(若者を中心に)知らない人も少なくないではないかと考えるようになりました。そこで「思い出す・知る」きっかけを与える、付随して災害や防災に関する意識の向上を目的として東日本大震災を振り返ることができるウェブコンテンツを制作しました。
https://kano-lab.org/students/research311/

はじめに

2021年は東日本大震災から10年の節目を迎えます。実際に東日本大震災を経験し、自分自身も何か形に残していきたいと考えていました。

震災以降、私は今まで3月11日を地元で過ごすことを大切にしていました。しかし2020年 3月は新型コロナウイルスが流行し始めたあたり。私は3月11日を初めて地元を離れ、現在生活している仙台市で過ごしました。

家の中にいるよりも海には行けないけれど、外に出て黙祷をしたいと思ったので仙台駅前に行きました。

14時46分、駅前を歩いている人たちの知らん顔で過ごしている様子を見て驚きました。宮城県自体甚大な被害を受けた地域です。それにも関わらず、9年経ってしまうとどこか過去のことになってしまうのだなと悲しくなったのを覚えています。

私はその際に感じたギャップから、今震災に関心を寄せている人たちはどのくらいいるのだろう。また10年経つと記憶が薄れてしまう人や当時を知らない人たちも少なくないのではないのかと考えました。

そして近年は人々を脅かす自然災害が多発しています。つい先日の2月13日にも東北地方で最大震度6強の地震がありました。震災から10年を機に、もう一度災害に対する意識を向上していきたいです。

本研究では人々が年を経ても東日本大震災を 前向きに振り返り、今後も記憶に残り続けるようなコンテンツ、付随して、日々の暮らしの見直しや災害に備えるコンテンツの提案も行います。

 

調査

震災に関するコンテンツを提案する際に、どのようなコンテンツに興味を持っているのか。また最適なメディアを調査するために、 20 代〜50 代の計 35 名の協力のもとアンケート調査を行いました。

調査結果より、東日本大震災にまつわる、防災・話(体 験談)・住まい(住まいの変化)・観光・食べ物・場所・ 学校に関するコンテンツは、多くの人が興味を寄せている ということが分かりました。

またアンケート結果より、気軽に手に取れることに着目すると紙媒体よりもウェブ媒体が適していることが分かりました。

研究方法

仮説

調査結果を踏まえ、人々がより高い関心を持っている東日本大震災に関する以上の項目を含むウェブコンテンツを提案することによって、人々が年を経ても東日本大震災に関する事を振り返ることができると考えます。

一人の「被災者」であり「若者」であり「大学生」である私独自の視点で東日本大震災を振り返ることは、より人々の日常への接続性が高く、日々の延長線上に東日本大震災やその他の災害があるということを認識しやすいと考えます。また私自身もターゲットである「若者」です。その視点でインタビューや伝承館などへの取材を行い、感じたことを伝えることで若者への「共感」を呼ぶと考ます。

以上これらは、災害に対して当事者意識を持つことに繋がり、日々の暮らしの見直しや災害に備える意識の向上につながると考えます。

制作

サイトコンセプトについて:東日本大震災に関することを扱うコンテンツは人々に 「暗い」「重い」などのネガティブな印象を与えてしまうことがあります。しかし私は東日本大震災の経験を活かすことで前向きに捉えていきたいと考えています。コンセプトは、シリアス・暗い等の表現は極力避け、「前向きになり、未来を感じられる(考えられる) 表現」としました。

またこのような前向きなコンテンツは、震災を知らなか ったり身近に感じられない人々にとっても親しみやすいと考えます。

サイト名・ロゴ:サイト名は「Album311」です。アルバムには 記憶を「留める・引き出す(思い出す)・共有する」という3つの役割があります。そしてアルバムは気軽に振り返られるツールです。これらのアルバムの持つ性質が、私が卒業研究の目的としていたことに合致していました。また、東日本大震災に関するコンテンツということを示すため、3月11 日の数字を使用し「Album311」というサイト名としました。

ロゴタイプは手書きで書くことで、手作りのアルバムのイメージを持たせました。シンボルマークは三面でアルバムに込めた三つの役割を示し、シンボルマークに使用した黄色には「明るい未来・明かりを灯す」という意味を込めました。

コンテンツ:アンケート調査と伝承館の調査をもとに、伝承館への訪問レポートと、10年間震災支援をしている方々と 2021年に20歳を迎える方にインタビューを行ったものをコンテンツとします。主なジャンルは防災、話(体験記)、 住まい、伝承館、インフラ、観光です。これらの項目はアンケート調査で票を集めたもの。

1.伝承館訪問レポート記事について

岩手県にある、大槌町の「おしゃっち」、釜石市の「命をつなぐ未来館・釜石祈りのパーク」、陸前高田市の「いわてTSUNAMIメモリアル」の3つの施設に訪問しました。東日本 大震災について記録し残していくことに取り組む際に、現在すでにこれらについて取り組んでいる「東日本大震災伝 承館」について調査し、未来のために伝え受け継いでいくとはどういうことなのかを知る必要があると考えました。また 「研究のため」ではなく、若者や被災者という視点で訪問し取材をすることで伝承館という施設を人々に身近に感じてもらうことができるのではないかと考え、今回メインのコンテンツの一つとしました。

約240件ある施設のうち、今回訪問した施設の基準は、 車で行ける範囲であること、第三分類に属していること、 他にはないような展示を行っていること、地域の復興や防災拠点となっていること等です。

2.インタビュー記事について

どのような人にインタビューをするかを考えた際、震災直後から支援活動を行っている方々が10年経った現在何を思うのか、また活動の変化等を知りたいと思いました。また、私を含めて震災当時は所謂「子ども」だった方々が10年経ち「大人」になり、当時のことをどのように捉えているのか、震災と隣り合わせで成長してきて何を思うのかを聞いてみたいと思いました。そこで神戸大学を中心に活動されている「大船渡支援プロジェクト」の方々2名と、2021年に二十歳を迎える方にインタビューを行いました。

実装

ウェブサイトの実装にはワードプレスを使用しました。理由は、ウェブサイトは一 つ一つのコンテンツの入れ物であり、今回の研究ではコンテンツにより力を入れたいと考えたためです。そこで比較的簡易に実装できるワードプレスを使用しました。

デザインはコンセプトやサイト名の「Album311」から、手作りのアルバムのような雰囲気と「前向き・明るい・希望」を感じられるようなデザインとしました。

 

まとめ

検証

制作後、20代〜50代の計19名の方にウェブサイトを閲覧してもらいアンケート調査を行いました。(1/22時点)

調査結果より、東日本大震災に関して忘れた事柄があると回答した15名のうち、14名が「思い出した」「思い出すきっかけとなった」「新しい発見があった」のいずれかに回答。また、ウェブサイトや記事を読み「震災に関する認識の変化」を聞いてみたところ、6割が「変化した」と回答。中には「他地域の取り組みを知り、復興支援に関心を持った」 「前向きになった」などの回答もありました。「災害や防災に対する意識の向上」を聞いてみたところ、 約8割が「向上した」と回答しました。

ウェブサイトに関しては、写真を多く使用したこと、自分の言葉で表現することを意識した文章、シンプルなデザインが特に評価されました。「震災という内容をこれほどまでに軽 やかに扱ったコンテンツは今までにないものだと思った」という回答もありました。

考察

この結果より東日本大震災に関するコンテンツを発信することは

・人々が震災について思い出すきっかけとなる

・直接的な防災等のコンテンツがなくとも、多くの人が防災等について考え直す

・前向きに捉えるためにはウェブサイトのコンセプトをしっかり持ち表現することも大切

ということがわかりました。

課題点としてはコンテンツが伝承館訪問レポート記事とインタビュー記事に重点が置かれ、防災や暮らしに関するコンテンツが当初想定していたものとは違う形になったことです。これらの記事に加え防災等に特化したコンテンツを提案することでウェブサイト全体で日々の暮らしの見直しや、災害・防災を考えるウェブコンテンツにできると考えます。

参考文献

神戸大学大船渡支援プロジェクト(2016)「神戸大学大船 渡支援プロジェクト活動報告書」

研究を終えて

自分自身が東日本大震災について卒業研究を行い形に残したいと考えたのは高校3年生の時でした。まずはこうしてその時に考えていたことを実現できたのはとても嬉しかったです。(当初はもっと違うような制作を想定していましたが。)

「記憶が薄れてきた人も多いのではないか」と何回か書きましたが、他人事ではなく私自身もです。今回研究するにあたってずっと避けてきた津波の映像なども見ました。恐怖心とか当時のこととか、私も忘れてしまったことがたくさんあったし、この研究を通して思い出したこともたくさんありました。また震災を経験したからどこか知った気になっていたところもあったということにも気づけてよかったです。特に伝承館に行って、新しいことをたくさん知ることができました。

制作後のアンケートや卒業研究発表会の時などに、「今後も震災に関するこのような取り組みを続けて欲しい(私自身のためにも)」と言っていただきました。その声に応えるためではないですが、震災を忘れない、災害に対する意識を持ち続けるためにもこれからも向き合い続けたいなと思います。今回はワードプレスで実装しましたが、今後は自分で開発等できるよう勉強もしていきたいです。

あと少しで東日本大震災から10年です。2020年震災にたくさん向き合った分、いろいろなことを考える1日にしたいです。

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