着物ダイナミック
若年層をターゲットにした和装に関したプロモーションの提案
須藤日和
日原研究室
2020 年度卒業
和装には「特別な日に着る特別な衣装」というイメージが定着しており、あまり日常生活で着用されなくなっています。和装の着用意向の高い20代から30代の女性をターゲットに、和装を身近な装いとして認知・定着させるための「きっかけづくり」の提案の一環として、フォトエッセイの制作を行いました。

はじめに

令和2年度は新型コロナウイルス感染症の拡大を理由に、成人式を中止する自治体が相次いだ。成人式と言えば、女性は振袖を着用する習慣が根付いており、多くの人が和装に触れるきっかけとなるイベントでもある。成人式の中止を受け、SNSを中心に「何でもない日に振袖や着物を着よう」という意見が多く、普段着として和装を着用することが関心を集めている。しかし、和装は洋装のように普段着としての選択肢に加わることが少なく、和装で街を歩いている人を見掛けるのは非常に稀である。そこで、和装を身近な装いとして認知・定着させるプロモーション方法について研究を始めた。

提案内容

和装には「特別な日に着る特別な衣装」というイメージが定着しており、日常生活で着用されることはほとんどない。そこで、本研究では、和装を身近な装いとして認知・定着させるための「きっかけづくり」の提案の一環として、フォトエッセイの制作を行った

調査

文献調査

・和装業界の現状

着物の小売市場規模は2007年から2012年にかけて減少の傾向にあり、その後は2018年まで横ばいの状況が続いている。1世帯当たりの「和服」の支出金額は2002年から2018年にかけて減少の一途をたどっている一方、振袖や浴衣のレンタルを表す「被服賃借料」は増加の傾向が見られる。

・和装の歴史

現在、着物として親しまれている浴衣や振袖は江戸時代後期に確立された「小袖」が原形となっている。「小袖」が初めて登場したのは平安時代後期であり、当時は公家達階級上位の人々の下着、庶民の実用着であった。その後、時代を経るにつれて「小袖」は表着として衣服の中心として定着した。江戸時代後半に確立された「小袖」は実用着としてだけではなく、美を追求する女性たちによって様々な工夫を凝らされるようになった。

・若年層の女性がファッションに求めること

価値観や生き方の多様性に伴い、ファッションは個人を表すアイデンティティの一部となった。コーディネイトや化粧など自己の価値観に沿って装うことで、心的にエネルギーとして作用する。この時に重視されるのは「自分自身が納得できるか」や「自分らしさ」などの自己実現的な欲求だと考えられる。また、SNS上で和装のコーディネートを投稿しているユーザーも一定数おり、和服と洋服を組み合わせた独自の着こなしも多くみられる。

制作

和装を着用して、映画館や公園など若い女性が日常的に出かける場所で撮影した写真に、着用している着物や帯、和装小物の紹介するエッセイを作成した。

アンケート調査

制作したフォトエッセイを見る前後で和装の着用意欲が向上するかどうかアンケート調査を行った。回答者は20代~40代の女性107名であった。

フォトエッセイを見る前と見た後に「普段着として着物を着たいと思いますか?」という同じ質問をし、回答の変化をクロス集計で分析した。グラフの縦軸をフォトエッセイを見る前、横軸をフォトエッセイを見た後としている。フォトエッセイを見る前では、「普段着として着物を着たいと思うか」という項目について20代から40代の女性の70%が「と ても着たい」「少し着てみたい」という回答だったのに対し、フォトエッセイを見た後の同質問については73%が「とても着たい」「少し着てみたい」という回答をしている。また、「着物警察が来そうで怖い」「個性派を演出しようとした痛い人に見える」といったネガティブな回答も見られた。

 

研究方法

上記の通り、フォトエッセイを制作した。

寸法

A5縦サイズをベースとし、上部を図のように切り落とした。見開きにした時、着物を広げたようなシルエットになるように意識した。また、用紙は和紙を使用した。

表紙

 

内容

和装を着用した写真と、和装に関するエッセイを作成した。本文は72ページ。

まとめ

 フォトエッセイによって和装の着用意向の向上が確認された。和装の敷居が下がったという意見も見られ、和装を身近な装いとして認知・定着させる方法として有効であることが分かった。その反面、「日常の和装」を受け入れられない層がいることが分かる。今回制作したフォトエッセイは和装を日常にというコンセプトを掲げていたが、和装は特別な日に着る衣装だというイメージが根強く、日常というワードに違和感や拒否感を抱いた人もいた。この対立は、自己実現派と従来からの社会性を重んじる派との違いだともいえる。その対立の差を縮小させる方法は、急激な革新ではなく、漸次におこなわれることが肝要だろう。

参考文献

(1)京都国立博物館 (2000) 江戸時代のファッションデザイナー https://www.kyohaku.go.jp/jp/dictio/senshoku/71edo.html(最終閲覧日:2021年1月20日)

(2)総務相統計局(2020).和服に関する支出.総務省統計局

https://www.stat.go.jp/data/kakei/tsushin/index.html(最終閲覧日:2021年1月10日)

(3)経済産業省製造産業局繊維課. (2015). 和装振興研究会報告書. 和装振興研究会.

https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/wasou_shinkou/report_001.html(最終閲覧日:)

(4)光宏吉田. (2020). 女子大生達のインスタグラム仕様で構築されるファッションの文化的意味とアイデンティティ. 神田外語大学日本研究所 紀要, 12-25.

研究を終えて

今まで同じテーマに長期間向き合う機会があまりなかったので、不慣れな点も多く大変でした。特に、コロナ禍ということもあり外出が難しく写真の撮影に苦労しました。着物を着るのはとても楽しいので、より多くの人が和装に興味を持ってくれたら幸いです。

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