戦跡の継承
地域の戦争遺跡を通じた記憶の継承
非公開
日原研究室
2020 年度卒業
戦後から75年が経過し、戦争の面影は日々薄くなってきています。しかし、私たちの身近にはかつて戦争に関わりのあった場所や建物が多く存在します。それらを戦跡と呼び、戦跡は今も当時の記憶を宿しています。戦跡を通じて、現代を生きる若い世代に戦争への関心を持ってもらいたいと思い、パンフレット及びWebサイトの制作を行いました。

はじめに

戦争の被害を受けた場所や戦争の悲惨さ、平和の尊さを忘れないようにと残された場所のことを「戦跡」と呼び、それは日本の各地に存在している。世界遺産に指定された広島の「原爆ドーム」や、映画のタイトルにもなった沖縄の「ひめゆりの塔」などは特に有名である。一方で、地域にある戦跡の多くは、経年劣化や都市計画により失われつつある。
総務省の統計によると、総人口に占める戦後生まれの割合は8割を超えており、戦争を文字や言葉でしか知らない世代がほとんどである。戦争の記憶は時が経つにつれて薄れていき、戦跡でありながら、地域の住民でさえ知らない場所も多く存在する。たとえば、宮城県東松島市にある宮戸島には、太平洋戦争で開発された特攻兵器「震洋」の基地が存在した。基地が撤収されたため当時を偲ぶものはほとんど残されていないが、「震洋」に使われたと思われるレールがその途中に埋まっていることは間違いない。しかしそれが発掘されたとしても、記念碑などはないため、戦跡であることは分からないだろう。
戦跡というのは私たちの身近な場所にも存在し、それは今も当時の記憶を宿している。戦後75年が経過し、戦争を直接体験した方々が少なくなってきている中で、この戦跡を通じて現代を生きる若い世代に戦争の記憶を継承していくことが必要ではないかと考える。

 

調査

1. 文献調査
宮城県を対象に、過去に戦争の軍事施設として使用され
た場所やその歴史的背景の調査を行う。

2. フィールド調査、インタビュー
文献調査を経て判明した戦跡に訪れ、現在の姿を確認す
る。その戦跡に詳しい方々への聞き取り調査をおこない、
現状や歴史的背景について、生の声を本研究成果に反映さ
せる。

3. 制作
上記調査結果をもとに、自分達の身近に戦争関連の遺物
が多く残されていることを伝えるWebサイトの作成を行う。

研究方法

制作物

前期では、文献調査及びフィールド調査で得た情報を元に、地域の方々向けの制作物を考案した。

蔵王町にある二つの戦跡「不忘の碑」と「北原尾地区」を対象に、歴史的背景を簡潔に記載し、戦跡に興味・関心を持つように、気軽に手に取れるパンフレットを制作した。

 

後期では、宮城県全域に調査範囲を広げAdobeXDを用いたWebサイトカンプを制作した。

サイトのコンセプトは宮城県に住む人に、自分達の身近にはまだまだ知られざる戦争遺跡がたくさんあると知ってもらうことである。サイトの構成は以下に大別される。

(1) トップページ:宮城県の戦争遺跡がピックアップされている。お問い合わせフォームや、サイト管理者による概要なども表示される。

(2) 各戦争遺跡詳細ページ:それぞれの戦争遺跡について詳細が記されている。実際に現地に訪れた際の写真を中心に、その戦跡の歴史や現在地、行く際に注意することなどブログのような感覚で楽しめるものになっている。

 

制作したWebサイトカンプについてアンケートを作成し集計した。回答者は20代の男女25名である。回答者の多くが戦争遺跡に行ったことはあるが、学校行事などでの参加で関心はあまりないという方だったが、制作物を見た後は戦跡に興味を持ったと回答した方が8割を超えていた。特に、宮城県に自分の知らない戦跡が多くあることが分かったと回答してくれた方が多く、想定していた以上の反響を得られたと考える。

まとめ

本研究では、宮城県を対象に、戦跡を通じて若い世代に戦争について考える機会を与えるという制作を行った。しかし戦跡は日本だけでなく、太平洋戦争で拠点となっていた東南アジアを中心に世界中に存在している。全ての戦跡を調査することは困難であるが、多くの人が戦争について関心を持ち、情報を発信し続けることが重要だと考える。本研究で制作したパンフレットやWebサイトでは文字や写真で戦跡を説明することができるが、実際に戦跡を訪れ、直に感じることが重要である。今後も戦跡を巡り、その歴史を後世へと継承していきたいと思う。

参考文献

総務省統計局 人口推計https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2019np/

平山洋(2016) 宮城蔵王不忘山B29三機連続墜落事故の謎. 常葉叢書

今日の蔵王「パラオと北原尾」http://www.zao-machi.com/34431

仙台歴史民俗資料館公式サイトhttp://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/~rekimin/index.html

御嶽三吉神社公式サイトhttp://ontakejinja.sakura.ne.jp/index.html

研究を終えて

最初は方向性が定まらず、悩むことが多かった卒業研究ですが、新しいことを多く学べて楽しかったです。調査の過程で様々なお話を聞くことができましたが、戦時中、そして戦後間もない頃の人々の暮らしは今では想像もつかないほど過酷なもので、今が本当に平和なのだと改めて実感しました。今後も、戦争の記憶を継承していく何かができればと思います。閲覧して下さりありがとうございました。

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