犬と人が本気で遊べるゲームのデザイン検討と開発
堀江知央
鈴木研究室
2020 年度卒業
犬と人が遊ぶときに使用するおもちゃは犬が楽しめるように設計されているが,人も一緒に楽しめるようには設計されていない.そのため,人が犬との遊びにすぐに飽きてしまうという課題が存在する.本研究では犬と人が本気で遊べるようにすることを目的に,両者が本気で遊べるゲームのデザインについて検討し,わんころりんというゲームの開発を行った.

はじめに

犬と人のコミュニケーション

犬と人は様々な方法でコミュニケーションを取っており,共に暮らす中でのいろんな行動が犬とコミュニケーションを取るための手段のなる.中でも犬と人がおもちゃ等を使用して遊ぶことは場所を問わず犬とコミュニケーションを取ることができる手段の一つである.

犬用おもちゃの課題

犬用おもちゃは様々な種類のものがあり,犬が楽しめるように設計されている.遊ぶときによく用いられるボールやロープで犬と遊ぶ時,人の動作はとても単純で人がおもちゃに対して楽しさを感じることはない.そのため,人が犬との遊びにすぐに飽きてしまうという人にとっての課題が存在する.人が犬との遊びに飽きてしまうことによって引き起こされる犬にとっての課題も挙げられ,遊びの時間が十分に確保されないことによる飼い主とのコミュニケーションが引き起こされると考えられる.

目的

人にとっての犬との遊びが楽しく本気で取り組めるものであれば,人が犬との遊びに飽きることはなくコミュニケーションの時間を十分に確保することができると考えた.
そこで本研究の目的は「犬と人が本気で遊べるようにすること」とした.

調査

ペットに対する意識の変化

近年,動物愛護の精神が広まり,ペットに対する意識の変化が見られる.所有物としての「ペット」から,伴侶や家族と同様に位置付けて「コンパニオンアニマル」と見なされるようになってきた.また,過去の多くの研究からコンパニオンアニマルと共に生活をすることが孤独感や抑うつ感の減少,ストレスの軽減とも関連することが明らかとなっている.

 

コンパニオンアニマルとACI

人と共生する動物がコンパニオンアニマルとして見なされるようになってきたことに伴い,それらの動物に関する技術も発展している.動物に関係する情報技術の研究は,アニマルコンピュータインタラクション (ACI) と呼ばれる分野で広く行われている.

研究方法

本研究のアプローチ

本研究で目指す「本気で遊ぶ」状態は主に人に求められることであると考える.犬と遊んでいる間に遊びに飽きることがないこと,自ら遊びたいと思うこと,対等な遊び相手として犬を認識すること等が挙げられる.人が「本気で遊ぶ」状態を引き出し,犬と人がどちらも楽しめるゲームは存在しない.そのため,本研究では今まで通りに犬が楽しめ,人も楽しいと感じることができるゲームのデザインと開発を目指していく.

本研究のデザイン指針

先行研究と本研究の目的から,「本気で遊ぶ」状態を実現するためのゲームのデザイン指針を策定した.

  1. 犬と飼い主のコミュニケーションを取り入れる
  2. 特別な学習なく犬がゲームで遊ぶことができる
  3. 犬の自然な行動をゲームの犬の遊び方に用いる
  4. 犬と人の特性を引き出す要素をゲームに含める

犬と人が本気で遊べるゲーム「わんころりん」

– ゲームの概要 –

「わんころりん」は,迷路台の傾きを操作してボールをゴールまで運ぶラビリンスゲームを題材としたゲームである.人はボールを転がして迷路の中からゴールを目指し,犬 はボールを追いかけて捕まえることを目指す.デザイン指針で決定したおやつの匂いを用いるために,ボールはおやつを入れることのできる犬用おもちゃを用いる.また,迷路台の大きさは直径 500mm の円形とし,犬が「追う・捕まえる」行動を満たせるよう迷路台の周りを歩いて回れる大きさにする.

– ゲームの流れ –

ゲームで遊ぶために,人は 2 つの準備をする必要がある.1 つは犬用おやつとボール型の犬用おもちゃを用意し,犬用おやつをおもちゃに入れることである.2 つ目は人が遊びたい難易度の迷路を決定し,迷路台に設置することである.2 つの準備が終了したら,人はボールをスタート位置に置く.スタート位置にボールが置かれたらゲームがスタートする.犬はおやつの入ったボールを追いかけ,人はボールが犬に捕まらないように迷路の傾きを操作し,ゴールまでボールを運ぶ.犬がボールを捕まえた,または人がボールを迷路のゴールまで運ぶことができたらゲームの終了となる.

実装

– 機器の構成 –

迷路台の Arduino とアプリで通信を行うために, Arduino には Wi-Fi モジュールを接続した.Arduinoとアプリで通信をして行うことは 2 つある.1 つ目はアプリからステッピングモータの操作を行うことである.アプリ上 のコントローラをタッチすることで Arduinoに通信が行われ,ステッピングモータを操作することが可能である.2 つ目は光センサの値を使って,アプリ上のアイテムの取得に反映させることである.アプリ上の迷路のアイテムと同じ位置にある光センサの上をボールが通過すると光センサの値が変化する.光センサの値によってアプリ上でのアイ テムの取得の判断を行う.

 

– 迷路を傾ける機構 –

ラビリンスゲームを参考に迷路台を傾ける仕組みを木材と紐,引きバネを用いて実装した.回す部分にステッピングモータを設置,通信でス マートフォンからステッピングモータの回転を制御することで迷路台の傾きの操作が可能である.

 

– アプリ-

デザイン指針より視線を同じ方向に誘導するため,人がスマートフォンのみに視線を向けて遊ぶことがないようにアプリの設計を行った.アプリ上にはボールの位置情報は表示せず,迷路台にある実際のボールを見ながら傾きを操作する.取得するアイテムの位置をアプリで 確認しながら迷路台にあるボールを転がし,迷路をゴールするまでのタイムやポイントを競う要素をゲームに含めアプリに表示することで人側のゲーム性を高める.

 

 

まとめ

本研究では犬と人が本気で遊べるようにすることを目的とし,目的を実現するためのゲームの 4 つのデザイン指針を策定した.デザイン指針は,犬と人のコミュニケーションの重要性や犬の学習,外界の認識と行動決定の仕方,両者の特性と遊び方等に着目し検討を行った.また,デザイン指針を基にゲームの試作を行った.ゲームは両者の特性を活かす要素を含め,ラビリンスゲームを題材にした.試用した結果,犬も人も違和感なく楽しく遊ぶ様子が確認できたため,今回開発するゲームは本研究の目的を果たすことができると考えられる.

参考文献

Giles-Corti B. Christian H. and Knuiman M. I’m just a’- walking the dog: correlates of regular dog walking. Fam- ily and Community Health, Vol. 33, No. 1, pp. 44–52, 2010.

Son H. Friedmann E. and Salem M. The animal – hu- man bond: health and wellness. In Handbook on animal- assisted therapy: foundations and guidelines for animal- assisted interventions (A.H. Fine, ed.), pp. 73–88, 2015.

研究を終えて

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