ARによる記憶強化効果に関する研究
非公開
蒔苗研究室
2020 年度卒業
先行研究によるとARは表示方法の違いなどで人の記憶力が強化できるという知見が得られている。しかし、そのデータは乏しく、ARでどのようにオブジェクトを表示したら記憶力が強化できるのかについては解明されていない。そこで本研究では「ARを用いて記憶を強化できるのか」というテーマをさらに深堀していく。そしてどのようにAR技術を用いれば人の記憶を強化できるのかについて知見を得ることを目的として研究する。

はじめに

AR技術は「Pokémon GO」と呼ばれるスマホを用いたARゲームが世界的に流行し、再び注目されるようになった。ARのハードウェアに関してもマイクロソフトの「HoloLens」などを筆頭に様々なデバイスが登場している。このようなARデバイスや技術は建設・医療・教育・製造・ビジネスツールなどの様々な分野で既に活用がされている。

その一方で、AR技術が人間に与える影響はいまだに明らかになっていない点も多い。ARは現実を拡張することによって人が見ている対象が何であるのかを思い出す前にそれが何であるのかを教えてくれる。非常に便利ではあるが、人がARに頼りすぎてしまうとARへの依存が始まる。その結果、人は記憶を思い出す行為をできなくなり、記憶力が弱まるのではないかと考えられる。

しかし、先行研究によるとARは表示方法の違いなどで人の記憶力が強化できるという知見が得られている。しかし、そのデータは乏しく、ARでどのようにオブジェクトを表示したら記憶力が強化できるのかについては解明されていない。そこで本研究では「ARを用いて記憶を強化できるのか」というテーマをさらに深堀していく。そしてどのようにAR技術を用いれば人の記憶を強化できるのかについて知見を得ることを目的として研究する。

調査

本研究の目的を達成するために仮説に対応したARアプリを作成し、実験を行った。

実験では国旗に対応する国名を10個記憶し、記憶した国名を国旗だけをみて直後と15分後の2度回答してもらった。4つの表示方法で国名のみを国旗に付加して表示しそれぞれ違う国名を記憶してもらった。表示方法は紙に印刷したもの、ARで重畳表示したもの、ARで並列表示したもの、ARで動く表示をしたものだ。それぞれの実験を終えた後、表示方法ごとに難易度や楽しさなどを尋ねるアンケートに回答してもらった。

アンケートの結果、ARでの記憶作業は難しいと回答したひとに反して楽しいと回答した人も多かった。デジタル表示がわくわく感を与えている可能性がある。ARにのみこの特性が見られるのかを検証するため今後VRや動画での記憶実験を行い検証していく必要がある。

実験の結果、保持力で差が見られたのは並列表示のみだったが、それは国旗から離して国名を表示したため国旗と国名を結びつけることが出来なかった可能性がある。

紙による記憶の効率が最も高くなったが、それは紙による記憶方法への慣れと紙をみて記憶する順番が一番目に固定されていたため記憶力に差が出た可能性がある。効率でAR間に十分な差が見られなかったが、被験者はスマホを固定している様子が見られたので文字が小さく見えていたことが考えられる。これらのことを踏まえて次回は記憶する順番を無作為にし、練習用のARアプリを作成し、操作方法に慣れるように改良する。

 

研究方法

本研究ではARをどのように用いれば記憶力が強化できるのかについて研究する。また紙の媒体と比較することによってARが記憶力に与える影響を調査する。さらにARオブジェクトを表示する方法によって記憶力に違いが出るのかについても明らかになっていないため調査する。また表示するARオブジェクトの動きが記憶力に与える影響も明らかになっていないので調査する。

以上のことを踏まえ3つの仮説を設定した。

仮説1:紙による情報の提示とARによる情報の提示ではARによる情報の提示の方が記憶の保持力が高くなる。

仮説2:ARによる対象への重畳表示と並列表示での情報提示では重畳表示の方が記憶の保持力が高くなる。

仮説3:ARで動きがあるものとARで静止しているものではARで動きのあるものの方が記憶の保持力が高くなる。

実験でこれらの仮説を検証していく。

まとめ

本実験ではARによる記憶強化効果に関する研究を行った。記憶の保持力では並列表示(AR)のみに十分に差が見られた。また記憶効率は紙とAR表示の間に十分な差が見られた。つまり紙での情報提示による記憶が最も効率が良いことが確認された。

今後の課題は実験の順番や操作方法による影響を除外することです。またARの他の動き方や画像や複雑な3D情報を表示したときの比較なども行っていないので今後検証する必要がある。また本実験では国旗をヒントに国名を回答したが、ノーヒントでの回答はしていないなので今後それについて検証していく。

参考文献

藤本 雄一 郎、山 本 豪志朗、 武富 貴史、宮崎 純、加藤 博一  「拡張現実感における情報提示の特性とユーザの記憶効 率の関連性」(2013)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tvrsj/18/1/18_KJ00008635474/_pdf/-char/ja(2020年7月26日閲覧)

*吴   伽科、船谷 浩之、 川村 洋次「拡張現実(AR)技術における重畳表示のコミュニケーション効果に関する実証研究」(2016年4月)https://www.jstage.jst.go.jp/article/advertisingscience/62/0/62_33/_pdf/-char/ja(2020年7月26日閲覧)

研究を終えて

大変な作業も多く、二度はやりたくないと思ったが達成感はあったので、一度は卒研を経験してみるのもよいのかもしれないと思った。

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