歴史とともに住み継ぐ
大和町吉岡宿の「まちらしさ」
木村 友哉
平岡研究室
2020 年度卒業
本研究では、城下町や宿場町として発展し、その後商店街として成長した大和町吉岡宿を対象とした。現在宿場町の面影は垣間見ることができるものの、商店街の活気は薄れ今後は住宅地化していくことが予想される。これまでの「まちらしさ」に配慮しながら、住宅地としてどうあるべきであるか設計を行った。

はじめに

近年ではまちづくりをする際には、そのまちがこれまで培ってきた歴史へどう配慮するべきかが度々議論されている。歴史まちづくり法や伝統的建造物群保存地区などといった公的な制度を導入し、そのまちの歴史を保全することが行われているが、それはごく一部のまちに限られる。それ以外のまちでは、歴史や景観に配慮することなく次々に建物が建てられ、歴史的な経緯を持つまちとしての面影は次第に薄れている。前期研究では、公的な制度がないが歴史的な経緯を持つ大和町吉岡宿を対象として、まちの実態を掴むべくまちの歴史や現状などの調査を行なった。これにより

・まち割りや旧街道の形といったまちの構造は未だに受け継がれている

・景観や歴史に配慮しない建物への建て変わりが見受けられる

・これまでは「商」と「住」が近い距離にあったが、近年では住宅地化が進む

ということがわかった。この結果を踏まえ、本研究では吉岡宿が住宅地化していく中で、どのようにこれまでの歴史を受け継いで「まちらしさ」を形作っていくべきか考察・提案することを目的とする。

調査

前期研究での調査をもとに、吉岡宿が抱える課題を下記の4つに分類した。

① 景観に配慮しない建物が無秩序に増加

② 土地利用の細分化

③ 建物の老朽化・遊休不動産の存在

④ 商店街が衰退し地域コミュニティのコネクターが消失

課題①・②に関して、吉岡宿では敷地は細長く建物は街道に向けて間口いっぱいに建てられていた。街道沿いの「オモテ」には商店が軒を連ね、「ウラ」には住居部分が店舗部分から直接繋がっている店舗併用住宅の形を成していた。しかし近年では、細長い敷地を分割して複数の住宅が建てられていたり、道路側に広い駐車場を設け集合住宅を敷地の奥側に建てられたりすることが増えてきた。これにより現在まで受け継がれてきたまち割りや敷地の使い方が次第に崩れ始めている。加えて、課題③のような空き家や空き地が増えるなど土地利用が有効に行われていない面もある。

これまでの敷地の使い方

これまでと異なる敷地の使い方

また課題④では、これまで中町商店街を中心に商店が地域住民をつなげるコネクターとしての役割を担ってきた。都市計画で行政側は、中町商店街を旧市街地の中心と位置づけ活性化させようとしているが、自らの代で商いを引退しようと考えている声もあり今後も商店の減少は続くと考えられる。従って商店を介した住民同士の関わり方ではこれまで培われてきたコミュニティが薄れてしまう懸念がある。

研究方法

前期研究結果によると、吉岡宿は住宅地化が進むと予想される。大和町では平成27年度の国勢調査によると一戸建ての割合が約65%であり、平成22年度調査より約5%減少した。また集合住宅の割合は増加傾向となっており、今後も大和町の発展に伴って引き続いて需要があると予測される。したがって、住宅地化する吉岡宿における今後の姿についての提案として、集合住宅を設計する。その際の方向性として、

①吉岡に定住してもらえるような環境づくり

②住民のコミュニティの形成・維持できる環境づくり

を掲げ、今後10年、20年…先を見据えて吉岡宿の未来を描いていく。

1.上町 − 土地を貸しながら住み続ける −

上町は建て壊しが行われていたり、空き地が複数あったりと土地利用が有効に行われていなかった。今回の設計では、現状空き地と住宅4世帯の敷地をまとめて共同建て替えするものである。オモテには長屋が並びウラ側にはオーナーの住戸を配置し、従来の建物の規模感や敷地の形状などこれまでのカタチを大きく変えないよう計画した。今後北側の私道を整備して現在ある道路までつなげることによって、街区の中心まで有効に利用していく。

  

2.中町 -「商」と「住」これまでの吉岡の姿を再構成 –

中町では、これまでの商店街として発展した経緯を踏まえ今後住宅地として成長したときに「商」が入り込める形態を提案することを目的とし、「商」と「住」の近接というこれまでの吉岡の姿を再構成した。敷地の形状はそのままに従来のオモテに商店、ウラに住戸という従来の敷地の使われ方に習って計画している。今後街道沿いには商店が建ち並び、再び吉岡宿の中心地として活気付くことを期待する。

 

3.下町 -お互いを見守り合いながら住む-

下町では、課題④に焦点を当てて設計した。奥を袋小路状にすることにより、ここに住む人たちのコミュニティの場ができるだけでなく、そこを共有することによって共に住んでいるという感覚を持たせるようにしている。リビングに繋がる土間空間は、縁側のように玄関を介さず簡単にコミュニケーションをとることができる。老人ホームなどと異なり、個人が独立して生活を行いながらも、お互いに見守り集まって住むことによりコミュニティを形成する。今後は、付近の2本の道路をつなげて街区の中心部まで利用できるようにする。周辺にも建て替え等が波及していく際に、街区の中心部を集会所などとしてさらに大きなコミュニティの一団を形成していくことを構想する。

 

 

まとめ

本研究では、歴史的経緯はあるが公的制度がなく「まちらしさ」が薄れてしまっているまちに対して、「住」をベースにしたまち並み保全の提案を行なった。吉岡宿の「まちらしさ」とは、古くからのまち割りとそれに合わせた建物の形状、そして「商」と「住」の近接であると考える。今後の吉岡宿において、このような「まちらしさ」を残すようなまちづくりが行われることを期待する。また他の歴史的な背景を持つまちにおいても、どこに「まちらしさ」を見出し、それをどのように定義するかがまちづくりの重要な鍵となるだろう。

参考文献

宮城県大和町,「大和町史 下巻」,1977

建築思潮研究所,「低層集合住宅1」,1983 ,建築資料研究社

建築思潮研究所,「アーバンスモールハウジング」,1998 ,建築資料研究社

建築思潮研究所,「低層集合住宅2−多様化する新たな住の可能性を求めて−」,2002 ,建築資料研究社

大和町都市計画マスタープラン(2020年12月14日確認)

https://www.town.taiwa.miyagi.jp/uploaded/attachment/1695.pdf

国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス(2020年12月12日確認)

https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1

平成27年度国勢調査 人口等基本集計結果(2020年12月29日確認)

https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/664800.xlsx

研究を終えて

卒業研究に際して、吉岡宿の方々にご協力いただいたこと感謝申し上げます。

この研究が今後の吉岡宿のまちづくりの一助となれば幸いです。

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