me −メ−
目を表現できるようになるためのインスタレーション作品の制作
亀本光生
中田研究室
2020 年度卒業
 今回の制作の目的は「目」についての表現を探ることです。「目」の持つ独特な圧や表情などを探り、インスタレーション作品の制作を通して「目」についての独自表現を目指しました。  目は特殊で存在感も大きく、表現によって多種多様な意志や意味も表してしまいます。それ故に、目が作品に与える影響は非常に大きく重要だと考えます。さらに、目について探る事は作家にとって優先すべき重要事項であるとも考えました。
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はじめに

Ⅰ.はじめに

アート作品における目の表現の重要性

現代におけるアート作品は絵画や彫刻、インスタレーションなど非常に多岐にわたるものとなっている。作品において重要となるパーツは様々だが、特に「目」は特殊で存在感も大きく、多種多様な意志や意味も表してしまうものである。それ故に、目が作品に与える影響は他のパーツに比べ非常に大きいと言える。その中でも洗練された目の表現は観る人を惹きつけ、その場の空間を支配するかのような独特なプレッシャーを放っているかのように感じる。

Ⅱ.背景

前期研究では、画面を分割してできた一部を制約し、限定された画面に絵を描いて作品の質を高めることを目指した。しかし、目に対する理解が乏しく表面的な表現に留まってしまったため、今回の制作では目についての理解を深め今後の作品制作の糧にするべきだと考えた。

Ⅲ.目的

「目」についての表現を探ることである。「目」の持つ独特な圧や表情などを探り、インスタレーション作品の制作を通して「目」についての独自表現を目指した。

 

調査

理解による作品の質の向上について

一流と呼ばれるアーティスト達の「目」に対するこだわりは凄まじいものがある。
例えば、奈良美智は「大きめの平筆でモザイク状に置いたさまざまな色の断片の中から形像を立ち上げていく(加藤・木村・高橋・冨澤,2012)」手法でキャンバス画を描いており、レオナルド・ダ・ヴィンチは人体を解剖し皮膚の下の筋肉を理解した上で人物を描いている。村上隆は二次元感覚を三次元感覚にした1/1フィギュアの制作や遠近法的な知覚を拒んだスーパーフラットという様式を確立したが、平面的な作風の中にも説得力のある目を表現している。

したがって、表面的な表現ではなく理解の上に築かれた作家独自の表現は作品の質を向上させ、作家性の構築に必要不可欠なものとなっている。

研究方法

Ⅳ.制作

1.制作の手順

ドローイングによる観察と造形物の創作を繰り返し行い目についての理解を深め、最終的に絵と造形物を用いたインスタレーション作品を制作する。

2.ドローイングについて

(1)目の観察とドローイング:まず、目についての解剖学的な名称と構造を調べ、同時に実物の目を観察したドローイングを繰り返した。

(2)観察とドローイングで得た知見:制作開始以前は慣れによる先入観と感覚で目を描いていたが、観察とドローイングの繰り返しにより絵の説得力が増した。また、今回の制作の基盤になる目の構造を理解することができた。

3.造形物の創作について

(1)造形物の創作の目的:ドローイングで得た理解を踏まえて立体を作ることで、別のアングルから理解・解釈をさらに深め独自の表現につなげることを目指す。

(2)眼球をモチーフにした創作1:眼球と眼瞼をモチーフにした造形物の創作を行なった。一作目では強膜・虹彩・瞳孔・角膜・眼瞼に注目して制作した。

(3)眼球をモチーフにした創作2:二作目では眼球のイメージを抽出し抽象化させた作品の制作を行なった。制作には針金のみを用いて、亀甲編みを軸に行なった。角膜部分と視神経の集まる部分を亀甲編みの集約部分二つで表現した。

まとめ

Ⅴ.本制作

(1)本制作の概要:壁に描いたまぶたの絵に造形物の影が映ることで、瞳がある目が完成する作品。眼球をモチーフにした約1m径の造形物を制作し、それに光を当てて壁に影を映す。壁面にはその影を瞳にした眼瞼を描き作品とする。

(2)造形物の制作:造形物は眼球のイメージを抽象化させたもの。角膜側には瞳孔となる孔と虹彩を表した造作を針金で作り接合し、反対側は視神経の集合を表す。(また、実際の角膜と視神経の位置のずれのように対角線から位置をずらして制作。)

(3)眼瞼の絵について:壁に布キャンバスを貼りそこに映し出した影が瞳となるような眼瞼の絵を描く。絵には瞳の部分である虹彩などは一切描かないこととする。瞳の部分を描いていないため消灯すると白抜きの目になっており、点灯すると瞳が灯される。瞳の影だけが僅かに揺れ動く姿が「目」の生々しさを演出する。

 

作品説明

 

「もっと見たい」

針金、アクリル絵具、カラースプレー サイズ可変(但、造形物 約100×100×100cm 絵206×300cm)

「もっと見たい」は純粋無垢である。何かを見つめているのか、何かを見据えているのか。その何かは想像自由であるがその何かを感情豊かに“もっと見たい”と思っている目だと、私は思う。

 

「微睡み−まどろみ−」

針金、アクリル絵具、カラースプレー、サインペン サイズ可変(但、造形物 約100×100×100cm 絵206×500cm)

「微睡み-まどろみ-」は眠たそうなのか、焦点が合っているのか合っていないのか、はたまた思考は働いているのか、伏し目がちで上まぶたが重く、無感情に近い雰囲気を醸す。塗り重ねられた有彩色の靄(もや)が更にそれを助長し、感情を前面に出していないような”目”にも関わらず没入感を産む。また、靄によって遠くから見た時に気付かなかった眼瞼の影が近付くといきなり目の前に現れる。

Ⅵ.考察

この作品たちによって「目」の持つひとつの表情を表し、目を追求する作品の一つとして成立したと考える。また、二次元と三次元を行き来したことで自分自身としても理解を深め、作品としても絵と造形が互いに補完しあってゆらぎや言い表せない圧などを探ることができた。

今回の制作で表現できたのは「目」の一面に過ぎない。「目」とはなんなのか、「目」が持つ魅力・雰囲気の正体はなんなのか、今後も意識してアンテナを張り続け自分なりの解を導き出したい。

Ⅶ.おまけ

2020年度自主レビューの様子はこちらから↓(発表は01:26:11​〜

簡易プロフィール↓

参考文献

奈良美智(2012)奈良美智:君や僕にちょっと似ている: a bit like you and me … .加藤磨珠枝(編),木村絵理子(編),高橋しげみ(編),冨澤治子(編).フォイル

研究を終えて

今回の制作はあくまで独自の表現を目指すための鍛錬のひとつなので、これを足掛かりとして今後も作品作りの上で(作るかわからないけれど)さらに探っていきたいと思います。構想期間が長くコロナウイルスの影響もあり満足に制作時間を取れず、苦しい事はもちろん多かったけど自分がやりたい事をやっとやる事ができたので楽しく生き生きと走り抜ける事ができました。

およそ2mの針金を生地を伸ばすように真っ直ぐにしてひたすらよじったり、はんだ付けでフラックスという融材を初めて使ったり、アルミ素材ははんだ付けできない事を知らなかったり、雨漏りで作業場が水浸しになったり、グラフィティに初挑戦したりと卒業制作ならではの発見と学びの渦中に身を置けて良い経験になりました。

最後に、人の手によって作られたものは作り手が意識して作ったものです。細部に注目して作っている・描いている作品はそれだけで強いインパクトを持ちます。ものを作る人として生きるならば、大半の人が見ずとも細部のこだわりひとつひとつにこだわり、伝えられるように精進したいと思います。(卒業制作のバイブル:大童澄瞳「映像研には手を出すな!」、山口つばさ「ブルーピリオド」、かっぴー「左ききのエレン」)

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