演劇による「心情」の空間化
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平岡研究室
2020 年度卒業
喜怒哀楽のような心情と日常に潜む空間や関連要素を研究し、それらの要素がお互いに関わり合う象徴空間があるのではないかと考察した。コンセプトアルバムが対象の演劇を設計することで、このコンセプトアルバムの関係性を忠実な舞台美術に再現する。

はじめに

「居心地が良い」「くつろげる部屋」といったフレーズがあるように、「心情」と「空間」には昔から深い関わりがあるのではないかと感じる部分が多々あった。このような日常の体験から、「心情」と「空間」には相互的に影響を及ぼし合う性質があると常日頃から感じていた。その考えを空間的な考え方と心理的な考え方の双方から考察することで、ふたつの関係性の持つ傾向や特色を研究を進めた。

研究を進めることにより、「心情」と「空間」の関係が成立する際には、「行動」が介する場合とそうではなく直接的に関係する場合があると発見した。例えば、綺麗な景色を見て心が癒されたり、集中してデスクワークをするためにカフェに行ったりすることなどは、行動による影響が比較的少なく、どちらかと言うと、直接的な影響による「心情」と「空間」の関係性であると定義することができる。逆に、日差しが眩しくてカーテンを閉めて日光を遮ったり、テスト勉強をするのに気晴らしをするために部屋の片付けをしたりすることは、何かしらの要因となる「心情」または「空間」により、「行動」という媒体が発生することで、「心情」または「空間」に何かしらの影響を及ぼすため、「行動」という媒体を介する間接的な影響による「心情」と「空間」の関係性であると定義することができる。

さらに研究を進めるうちに、「象徴空間」と位置付けることができる「空間」の要素があるのではないかと感じるようになった。

「空間」を観測する際に、通常の観測とは異なり、特定の「心情」を持ち合わせることにより、通常の観測結果とは異なるようになることを「象徴空間」と位置付け、対比となる通常の観測結果を「物理空間」と位置付けた。例えるとすれば、学校の校舎を観測したとしても、そこが学校であるという情報だけが得られる「物理空間」であるが、観測する校舎が観測者の母校であるとすると、そこに通っていたころの思い出や過去などの「心情」が想起され、「空間」の捉え方に変化が表れるようなものが「象徴空間」と位置付けられると考えた。

調査

「行動」や「象徴空間」といったキーワードを基に考察を進めることで、「心情」と「空間」についての研究を進めてきた。そこで垣間見えた傾向や特色をより詳細な対象を用いることで整理するために、「コンセプトアルバム」を用いて研究を進めることとした。

「コンセプトアルバム」とは、音楽アルバムの一種で、構成されている楽曲がストーリー仕立てとなっていて、一貫したテーマや主張が展開されるものである。ストーリーがあることにより、音楽という「心情」を露わにする傾向があり、主張や場面転換による「心情」の変貌を読み取ることができる。また、それに伴う「空間」の表現や捉え方の変化を明らかにできる。

この研究を進めることで、「象徴空間」を用いた「心情」の表現が可能であると発見した。「心情」を直接伝えるのではなく、「象徴空間」を用いて「心情」の有り様を表現したり、想像上の「空間」の中でストーリーを展開することで「心情」を変貌を表現したりすることができ、「心情」と「空間」の関係性が顕著に表れている描写が成されていると読み取れた。

研究方法

「コンセプトアルバム」で読み取れた関係性を実際の空間に再現すべく、演劇を用いることで「心情」の要素を損なわずに空間化することを図る。

まずは、「コンセプトアルバム」における「心情」と「空間」の関係性の有り様を把握するために、歌詞分析を行った。歌詞分析では、「心情」、「空間」、「行動」、「象徴空間」、「背景」などを明記し、楽曲情報を整理した。整理する際に、音楽的な表現なども考慮した読み解きをすることで、より内容を汲み取った情報を読み取ることができた。

次に、歌詞分析で読み取った内容から、「曲情報」、「幕設定」、「場面」、「登場人物」、「内容」、「絵」によって構成した絵コンテを作成した。これにより、歌詞分析で培った内容を演劇化するにあたり、構成の決定や空間としての造形に役立てられる形にした。

絵コンテの作成と平行して、スケッチを行った。スケッチでは、演劇化する際に考慮するべき大規模な舞台装置を中心としたスケッチをすることで、演劇の全体像を掴むと同時に、演劇の再現が現実的に可能なものであるものとすることを図った。

最終的に、歌詞分析、絵コンテ、スケッチの全てによって構成された演劇として再現を行った。最終的な再現物としての形としては、絵コンテやスケッチで決定した全体像に加え、照明やホリゾントなどの効果を付与することで、「心情」と「空間」の関係性が見て取れるような再現物として造形した。

まとめ

演劇での再現の際に、「心情」と「空間」の関係性を残しつつ有形の「空間」として成立させることに重きを置いた。そのために、「コンセプトアルバム」の背景や音楽的内容などを整理した歌詞分析を行い、それらの内容を幕や場面内容ごとに区分分けした絵コンテを行い、演劇の内容を大まかな設定画としてまとめたスケッチなどを順次行った。それにより、演劇として形成するために必要なものを整理し、必要か否かを明確にし、「心情」と「空間」の関係性を残したまま再現をすることを可能とした。

参考文献

研究を終えて

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