地域活性化のためのゲーム適用に関する研究
非公開
蒔苗研究室
2020 年度卒業
近年、地域活性化のために「謎解き」、「宝探し」、「脱出」等のゲームを用いた頭脳型参加イベントが各地で開催されている。その件数は2010年代に入り急速に拡大し、それらが地域の活性化において一定の成果を挙げている。本研究では、秋田県の無形民俗文化財である「ナマハゲ」を対象とし、そのさらなる認知、地域活性化を目的として謎解きゲームを開発し、その効果を明らかにすることを目的とする。

はじめに

地域活性化のために各地でさまざまな試みが行われており、近年では「謎解き」、「宝探し」、「脱出・メイズ(迷路)」等のゲームを用いた頭脳型参加イベントが開催されている。その件数は2010年代に入り急速に拡大し、日本全国で年600件程度あるとの報告もあり[1]、それらが地域の活性化において一定の成果を挙げている。

本研究では、観光資源と伝統行事としての秋田県の無形民俗文化財である「ナマハゲ」を対象とし、そのさらなる認知、地域活性化を目的として、謎解きゲーム(頭脳型参加ゲーム)を開発し、その効果を明らかにすることを目的とする。

調査

本研究での適用対象「ナマハゲ」について

(1)ナマハゲとは

「ナマハゲ」は秋田県の男鹿半島(男鹿市)、および、山本郡三種町・潟上市の一部において見られる伝統的な民俗行事であり、200年以上の歴史を持っている。1973 年に重要無形民俗文化財に登録された、秋田県を代表する観光資源であり、2018 年に「来訪神:仮面・仮装の神々」の一つとしてユネスコの無形文化遺産に選ばれ世界に知られるようになった[2]。毎年大晦日の晩には、ナマハゲに扮した村人が家々を訪れ『泣ぐ子(ゴ)は居ねがー』『悪い子(ゴ)は居ねがー』と大声を発しながら練り歩き、家に入って怠け者や子供、初嫁を探して暴れる。家人は正装をして丁重にこれを出迎え、主人が今年1年の家族のしでかした日常の悪事を釈明するなどした後に酒などをふるまって送り帰す行事が行われている。

(2)地域活性化における課題

これまで若者によって担われてきたナマハゲ行事は少子高齢化による後継者不足に悩まされている。また、現代の男鹿市に住む若者にとって、ナマハゲは「伝統行事」ではなく、再創造された「観光文化」と位置付けられてしまっている。そこで本研究では、秋田県民に対しては「伝統行事としてのナマハゲ」を再認識してもらうこと、県外の方に対しては、秋田県やナマハゲに興味を持ってもらうことを目的にその動機づけを行うためのゲームを作成しそれを使った実験を行う。

研究方法

提案手法

(1)実験内容

本研究では、「秋田県やナマハゲに興味を持ってもらうこと。新規の観光客に繋げる。」「後継者不足解消のため、『伝統行事としてのナマハゲ』を再認識してもらうこと」の2つの目的を達成することを目標としてゲームを作成し、その効果を検証する。開発するゲームは、論文の冒頭でも述べたように、近年各地で拡大してきている頭脳型参加ゲームのうちの1つである「謎解きゲーム」である。実験の目標を達成させるためには、ゲームを楽しみつつ自然な流れでナマハゲについて知ってもらうことが必要であると考え、地域活性化に有効であるとされる謎解きゲームを今回の実験に取り入れた。

(2)ゲーム内容

謎解きをテーマとしたパソコンゲーム(頭脳型参加ゲーム)を作成した。計5問の謎解きが出題され、それぞれ4つの選択肢の中から解答を見つけ出す(図1)。解答となるワードはナマハゲや男鹿に関連のあるものにしており、解説シーンでは問題自体の解説の他に、ナマハゲや男鹿についても併せて知ることができるようにした(図2)。また、ナマハゲのイラストを押すとヒントや解説が表示されるようにして、ナマハゲと一緒にゲームを進めていく流れにした。ゲーム開発環境には、unityを使用して開発を行った。

図1 ゲームの解答画面

図2 ゲームの解説画面

(3)実験方法

実験は、①秋田県外出身の20代(5名)、②秋田県男鹿市出身の20代(5名)、計10名を対象に実験を行う。被験者には謎解きゲームを体験してもらい、ゲームの難易度、おもしろさ、ナマハゲに対する認識や興味に変化が現れたかどうかを調べる。

実験結果

ゲーム体験後の被験者アンケートでは、ゲーム内容に対しての質問と実験後の意識の変化に対する質問の2つに分類して調査・分析を行った。

(1) ゲーム内容に対しての質問

「ゲームの難易度は適切だったか」「ゲームは面白かったか」という2つの質問に対してそれぞれ5段階評価で回答してもらった。難易度に関しては秋田県・県外どちらの被験者とも「とても難しい」「少し難しい」の回答が大半を占めていた(図1)。その理由として「ひらめきが必要な問題が多く、頭を使った感覚があったため」「後半はヒントなしでは解けないほど解きごたえがあった」という意見が多かった。また、おもしろさに関しても難易度と同様に、「とてもおもしろい」「少しおもしろい」の回答が大半を占めていた(図2)。しかし、秋田県出身の被験者からは、「元々知っている知識が解答のヒントになってしまった問題があった。選択肢をもっと複雑にしてもいいと感じた」という意見もあった。

図1 難易度に関する評価結果

図2 おもしろさに関する評価結果

(2) 意識の変化に対する質問

この質問は、秋田県外出身者と秋田県出身者で質問を変えて回答してもらった。

①秋田県外出身者への質問

「ナマハゲについて知ることができたか」「ナマハゲについてもっと知りたいと思ったか」「男鹿市やナマハゲ伝承館に行ってみたいと思ったか」という3つの質問に対してそれぞれ5段階評価で回答してもらった。「ナマハゲについて知ることができたか」の項目に関しては「よく知ることができた」と答えたのが3人、「知ることができた」と答えたのが2人だった。また「ナマハゲについてもっと知りたいと思ったか」の項目に関しては「とてもそう思った」と答えたのが1人、「そう思った」と答えたのが4人だった。「男鹿市やナマハゲ伝承館に行ってみたいと思ったか」の項目に関しては「とてもそう思った」と答えたのが1人、「そう思った」と答えたのが4人だった。以上の3つの質問に対し、全員が肯定的な回答を示しており、この点で高い評価を得ることができたといえる。

②秋田県出身者への質問

「ナマハゲの文化を引き継いでいきたいという意識を持ったことはあるか」という質問に対し、「ある」と答えたのは1人で、「ない」と答えたのが4人だった。「ある」と答えた人は「このゲーム体験が意識をより高めたと思うか」という質問に対しては「とてもそう思う」と回答していた。一方「ない」と答えた4人については「このゲーム体験が意識を持つきっかけになったと思うか」という質問に対し「とてもそう思った」と答えたのが2人、「そう思った」と答えたのが2人だった。4人全員が肯定的な回答を示しており、この点で高い評価を得ることができたといえる。

まとめ

実験結果から、今回作成したゲームが「難易度」「おもしろさ」の2点において高い評価を得たことから、ゲームを楽しみつつナマハゲについて知ってもらうことができたといえる。また、「秋田県外出身の若者に、秋田県やナマハゲに興味を持ってもらうこと」「後継者不足解消のため、『伝統行事としてのナマハゲ』を秋田県の若者に再認識してもらうこと」という本研究の2つの目的を果たすことができたといえる。以上のことから、謎解きゲーム(頭脳型参加ゲーム)は地域の活性化に効果的であるといえる。

今後は、実験結果で得た意見を参考に、男鹿市やナマハゲの魅力をより感じられるようなゲームに改良を進めていく必要がある。また、今回の実験について、被験者が10名と少なかったために説得力の欠ける結果になってしまったことが反省点としてあげられる。そのため、秋田県のホームページや県内・県外の道の駅、ナマハゲ館、男鹿市の様々な事業所などにゲームを仮配置してもらい、実際に地域活性化への取り組みに役立てられるような規模の大きい実験にも取り組んでいきたい。

参考文献

[1] 小林良則(2015)「地域活性化に資する「頭脳型参加イベント」の分類と成功メカニズム」 『創造都市研究e』10巻1号(大阪市立大学大学院創造都市研究科電子ジャーナル)

[2]根岸  洋・長谷川 綾子(2019)「男鹿のナマハゲ行事の変容と外部参加者受け入れの動向」国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要

研究を終えて

地元である秋田県男鹿市に関する研究ができたことを嬉しく思います。今回の研究を通して、今まで見落としていた地元の魅力を発見できました。人口減少や伝統行事の後継者不足が問題となっている秋田県ですが、たくさんの魅力が溢れています。今回の研究結果を元にゲームをバージョンアップさせ、実際に地域活性化に貢献し、秋田を盛り上げていきたいです。

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