夜道に足を踏み入れる際に不安をもたらす環境要素
尾形真由子
小地沢研究室
2020 年度卒業
 警視庁によると、人的な防犯活動(ソフト面)と、建物・道路・公園等の物理的な環境(ハード面)の整備・強化等を行うことで犯罪が発生しにくい環境を創るという。防犯を重視するまちづくりを目指すために、不安に感じる段階として夜道に足を踏み入れる瞬間に、不安を感じ取る環境要素を明らかにする。

はじめに

警視庁によると、人的な防犯活動(ソフト面)と、建物・道路・公園等の物理的な環境(ハード面)の整備・強化等を行うことで犯罪が発生しにくい環境を創るという。すなわち防犯では個々の意識や集団意識だけでなく、環境の形成を行うことも重要である。

先行研究で歩行中で不安に思う要因は明らかにされてきた。不安に感じる段階として夜道に足を踏み入れる瞬間にも不安を感じ取る可能性があるが、この際に不安をもたらす環境要素が何であるかは明らかになっていない。本研究ではこれらの環境要素を明らかにすることで、防犯を重視するまちづくりに寄与することを目指す。

本研究では、歩道と車道が区別されていない道を対象に研究を進めていく。前述の小野寺らの研究より、見通しが悪く他者からの監視性が低い場所が不安に感じることから、人通りと車通りが多い道に付随する細い道を対象とすることにする。人・車通りが多い道は、片側1車線以上のセンターラインのある道とし、細い道はセンターラインがなく、歩道と車道が区別されていない道と定義した。

調査

調査は、人・車通りの多い道から細い道を夜間に撮影した写真を用いたアンケートに答えてもらう方式とした。写真1枚ごとに「不安」「どちらかといえば不安」「どちらかといえば安心」「安心」の4段階で答えてもらう。写真は全てで16枚で、写真の採用にあたっては、環境要素の偏りが少なくなるよう配慮した。詳細は下記の通りである。

期間:2020年12月7日~18日

方法:Google formsを用いたアンケート

対象:老若男女問わず

回収・有効票:282票

アンケートでは回答者のプロフィールも回答してもらい、環境要素とともに説明変数とする。一方で写真ごとに不安に感じるかを尋ねた結果を目的変数とする。

16枚の写真に写っている環境要素として、「道幅」「建物数」「窓数」「明るい窓数」「車数」「街灯数」「街灯のRGB」、後述する点A~点Cの「各点RGB」、写真に占めるそれぞれの割合である「建物率」「天空率」「樹木率」、「道の暗さ」が占める割合をあらかじめ算出する。「各点RGB」の定義については、点Aは道の始まり、点Bは点Aより25mの地点、点Cは点Aより50mの地点である。

まず、アンケート結果を基に不安度を目的変数とした重回帰分析を行った。その結果、

●窓の数が多いほど不安に感じなくなる
●明るい窓の数が少ないと不安に感じなくなる
●道の空間が明るいほど不安に感じなくなる
●空が良く見えるほど不安に感じなくなる

ということがわかった。またロジスティック回帰分析では、

●女性のほうが不安に感じる
●2人以上で暮らしている人のほうが不安に感じる
●1週間に夜間歩く頻度が高いほうが不安に感じる

ということが明らかになった。

研究方法

研究結果より、アンケートで用いた写真から不安度が高い道を2つ選び、その道を安心できる道へと改修した。それを実際に模型として作り、立体で見ることで不安度がどれほど減るのかを示した。夜道のため、意図しない光を遮るために模型は箱を覗いて閲覧する形とした。この箱の中に、元の道の模型と不安要素を減らした模型を並べ、見比べられるようにした。道の始まりから50m地点までを1/50の寸法で表現している。

この道は、分析結果から視界が開けるように建物をセットバックさせ、植栽を削った。また、街灯がないため設置して、歩行空間を明るく見せることで安心な道とした。

 

この道は、視界が開けるように植栽を大幅に削り、街灯は色温度が低いものに変えた。

まとめ

分析結果から、夜間細い道へと足を踏み入れる際に不安に感じる道とは、視界が開けており窓があって監視性が高く、明るい道である。すなわち、視界が開けているということは、道の始まり、つまり手前に背の高い建造物や、セットバックの距離が短く道に接近していたりすると視界は狭まり、また今から進まんとする道の奥に何があるかという情報がつかむことができない。手前にそのような障害物があると奥の建物も見えず、結果見える窓の数も減ってしまう。監視性がある、と判断するためには、手前には視界の妨げとなるような建造物は建てないほうが不安に感じないことがわかった。空間を明るくするためには、街灯の設置する間隔を狭くする、街灯の色を暖色にするなどの工夫が必要である。

また、夜間細い道へと足を踏み入れる際に不安に感じるのは女性のほうが圧倒的に多いことがわかった。夜間に屋外を歩く頻度が高いほど不安に感じるという結果から、夜間に慣れた人間ほど夜道を不安に思うことが明らかになった。1人暮らしの人のほうが夜道を不安に思わないこともわかった。

参考文献

警視庁:防犯環境設計による防犯対策,https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/akisu/taisaku1.html,2020/12/21

小野寺理江, 桐生正幸, 羽生和紀:犯罪不安喚起に関わる環境要因の検討:20大学キャンパスを用いたフィールド実験,人間・環境学会誌,8巻2号,pp.11-20,2003

高久洋介,柳瀬亮太:夜間の街路灯における色温度と配置計画が歩行環境に及ぼす影響,日本建築学会計画系論文集,74巻635号,pp.51-57,2009

 

研究を終えて

コロナ禍という中で研究が無事やり通せてほっとしております。模型の作成には様々な方のご協力がありました。この場をお借りして感謝申し上げます。

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