泉中央周辺の賑わいを考える
泉区役所建替事業に伴う再整備のための計画
矢口 凜
平岡研究室
2023 年度卒業
泉中央駅は開業して今年で32年目であり、周辺住民の暮らし方やニーズと現状の泉中央の状態にずれが生じ始めている。そこで泉中央地区の新旧の都市計画の調査や野外調査を行って現状を把握すると共に、この地区の賑わい創出に関するイベントに参加して市民の意見を徴収した。設計では旧都市計画にある「五つの泉」と呼ばれる拠点に合わせ、賑わいを町全体に広げるような提案をした。

はじめに

1.初めに

泉中央駅は開業して今年で32年目である.現在地区全体のインフラ,ハード面の老朽化が目立ち始めており,平成30年に泉区役所の建替事業計画が発足した.同時にまちの賑わい創出というソフトの面でも地区全体の計画が見直され始め,大きな転換期に直面している.

前期研究では特にユアテックスタジアム周辺に着目し,泉中央には定期的にスポーツ観戦の機会がある一方でその盛り上がりをまち全体の賑わいに上手く繋げられていないという課題を発見した.従って泉中央と旧泉市の都市計画の調査,ユアテックスタジアム周辺での野外調査,まちの賑わい創出に関するイベントへの参加という三つの方法で泉中央地区について調査した.

その結果,現在泉中央の賑わいの核である「五つの泉」が孤立しており,泉の一つであるスタジアム周辺も駅前の主要賑わい動線から分断されてしまっているという課題を発見した.後期研究ではこれらを設計で繋げ,賑わい動線を多方向に延長させて泉中央地区全体の活性化を図る提案をしたいと考える.

調査

2.      泉中央地区の変遷

2.1    30年前(旧泉市)の計画

旧泉市のまちづくりにおいて,七北田川から用水が引かれ,賑わいの拠点となることを想定された5箇所の地点は「五つの泉」と称された.[1]泉中央地区は市営地下鉄の終点が置かれ公共・商業施設の集積が進み,長町地区に次いだ新たな拠点形成への期待が高まっていたことから,仙台市の中でも人口増加が激化すると予想されていた.また仙台が杜の都として緑地の保全と開発の均衡を探っている中,七北田公園という特有の魅力を持つ泉中央地区が長町地区同様に21世紀の仙台を象徴する個性豊かで魅力的な拠点にしていくことがまちづくりの方針に定められていた.[2]

2.2    現状の課題

多様な都市機能が今後も泉中央地区に集約していくと予想されていたため,仙台市の都市計画マスタープランが策定された段階で既に七北田,根白石地区等隣接する地域を新たに市街地として形成することがシナリオに組み込まれていた.[1]また泉中央に地下鉄終着点やバスターミナルが置かれたことから交通の結節点としての重要性も増していたため,交通機能の強化も課題として挙げられていた.[2]

現在それらの課題は実際問題となっており,通勤・通学ラッシュ時は駅周辺が渋滞し,公共交通機関の大幅な遅延を招いている.またまちの賑わい創出の面では当初の想定と異なり,泉中央に人が留まることなく仙台に流れてしまうため,「五つの泉」において大規模商業施設やイベント,スポーツ観戦の機会があっても賑わいが孤立し,まち全体の活性化にうまく作用しない状態になっている.

2.3    近年の動向

泉中央を利用する人の流れが大きく変わると推定できる要因の一つに,公共・商業施設の進退がある.区役所建替計画に伴い駅前バスターミナルの機能の一部が区役所敷地に移動すること,駅前に古くから存在するショッピングセンターの撤退やテレビ局の移転予定などがある.また泉中央西地区(旧T病院跡地付近)が市街化区域に変更され,新たに住宅用地として計画されている.地区内居住者向けの商業施設の建設も予定されており,泉中央からの公共交通機関のルートも新たに構築されると予想する.

また既存の賑わい創出計画の見直しという観点から見ると,新たに市民意見交換会,泉6大学学生ワーキンググループ(以下学生WG)が発足されている.泉中央には泉青年会議所,仙台IZUMI フードリンクラブ(飲食店組合),ベガルタ仙台など様々な団体が併存している.泉区は各団体代表者が参加した意見交換会,泉区に立地する大学の学生を参加させた学生WG の取り組みを発足させ,相互に連携させてイベント運営を行うなど,実際の市民の声を取り入れて地域の活性化に生かしていこうという試みを2023年から行っている.

3.      理想となる将来像

2023年10月28日,29日に行われた泉中央駅付近の飲食イベントに学生WGの一員として参加した際,住民が実際にどのような施設や改善を泉中央に欲しているか知るためアンケートを行った.現状の泉中央に抱いているイメージとして寄せられた意見には「仙台と比べて穏やか,静か」や「仙台に行くまでの通過点で人が滞留しにくい」などがあり,また理想の将来像に関しては「有名なアニメや漫画,羽生選手など泉中央にゆかりがある物を生かす」「なんでもある仙台駅とは違う,泉中央ならではの魅力を作る」など,市民視点からの活性化に繋がる具体的な助言が貰えた.また同様の問いが市民意見交換会で議論された際,泉中央の理想の状態としてこれまでの意見を暮らしやすさ,憩い,回遊性,泉区の特性や資源の活用の四つの観点にまとめられている.

これらのことからマスタープランでも示されている通り,泉中央の賑わい創出においては万能である仙台市との差別化を図り,泉中央ならではの強みや魅力を生かす,または新たに作って持たせることが重要だと考える.現在持っている代表的な強みとしてはベガルタ仙台のホームスタジアムがある点が挙げられる.新たな強みとしては住民の意見が反映されたこれら四つの観点が活用できる.

研究方法

4.      提案

4.1 泉中央全体

設計に組み込むコンセプトには3章で挙げた四つの観点を,2章で提示した賑わいの拠点となる五つの泉に反映させ,泉中央の強みとして持たせたいと考える.五つの泉のうち既に計画が定まっている泉区役所,今後新たに別の企業が参入する見込みがある大型商業施設付近を除外し,泉中央駅前・泉中央駅ビル(SWING),七北田公園・ユアテックスタジアム周辺,すいせん通りの三つの泉に強みを持たせたハード面の提案をする.また除外した二つの泉から泉中央駅までの流れは泉中央駅の主要賑わい動線と呼ばれているが,それを他三つの泉に延長させ,やがて泉中央全体に賑わいが広がるようにする.(Fig1)

Fig 1  賑わいを広げるモデル図

4.3 泉中央駅前・泉中央駅ビル (Fig1 ①)

泉中央駅ビルは賃料が高く,上層階のオフィス用テナントに空きが見られていた.また泉中央は交通が便利であるものの公共交通機関の最終便が早い時間に無くなるため,特にスタジアムでのナイターゲーム後から周辺商業施設,西側飲食店街に賑わいを繋げづらいという課題があった.実際前期の調査で試合後のスタジアムから泉中央駅に直帰する人は多いことが分かっている.これらの問題の解決と,ビジネスコースのニーズに応えるため,私は駅前に宿泊施設を建設すべきだと考える.

Fig 2  ホテル図面

Fig2はホテルの図面である.ホテルとして使用する場所はSWINGの5階を想定しており,防犯面を考慮して1フロア全てを施設として活用する.(Fig2)駅前という泉中央地区の中でも極めて回遊性が高く,飲食店等賑わいが期待できるエリアに試合後の人が終電を逃しても滞留するハードルが下がるよう計らう.

4.4 すいせん通り (Fig1 ②)

すいせん通りは泉中央駅周辺の賑わいを市名坂方面と奥州街道まで繋ぐことができる通りである.周辺は閑静な住宅街が立ち並び,更に「うらいずみ」と呼ばれる飲食店が飛び地的に存在している.泉中央との賑わいの繋ぎやすさ,日当たりの良さから敷地を選定し(Fig1),すいせん通りの景観の良さを生かしたオープンカフェを設け,住宅街の暮らしやすさ,居心地の良さと調和した憩いの場を実現する.

Fig3 カフェ 図面

4.5 七北田公園・ユアテックスタジアム付近 (Fig1 ③)

ユアテックスタジアムは観客動員数によって周辺道路が試合後に歩行者天国となるため,渋滞や他の周辺駐車場から車の出庫が困難になる等交通のトラブルが発生する.また歩行者天国になるスタジアム前の通りは駐車場出口が多く面し,泉中央主要施設の裏動線的な意味合いが非常に強く,試合後に気楽に立ち寄りがたい雰囲気が出ていることも課題である.

泉中央は河岸段丘の上にあるまちであり,高低差問題を解消するために駅前はペデストリアンデッキとなっている.従って市営立体駐車場の前からこれをスタジアム前まで延長して歩車分離を進め,泉中央の主要賑わい動線を物理的に伸ばすことで,スタジアムの試合後に解放される約一万人の観客たちを主要賑わい動線に誘導したい.

Fig4 ペデストリアンデッキ周辺の模型の写真

まとめ

新区役所庁舎建替事業に始まり、住民が実際に利用する建築・インフラ環境に約30年ぶりの大きな転換期が訪れた泉中央において、従来の賑わい創出政策の見直しが進み、理想の将来像に到達させるために意見を自由に発言できる場が増えたことは非常に幸運である。

住民達が泉中央に抱く理想的なイメージである「暮らしやすさ」、「憩い」、「回遊性」、「泉区の特性や資源の活用」の四つの観点は、①には回遊性と暮らしやすさ、②には特性や資源の活用、③には回遊性として反映されている。これらが駅近辺で生じる賑わいを地区全体にさらに広げていく結節点となり、住民が望む泉中央の姿の実現に一歩近づけるのである。

参考文献

[1]佐藤滋 . 後藤春彦 . 田中滋夫 . 山中知彦(2006年5月). 『図説 都市デザインの進め方』. 丸善株式会社,p.32, p.34-35, p.86-87, p.100-101.

[2]仙台市(1999) . 『都市計画マスタープラン』.

研究を終えて

4学年前期、後期の一年をかけて研究したテーマであった。この地区で研究をしようと思ったきっかけは、他の学生とグループで取り組みに関わったことであり、また学生時代の集大成となる本研究を自分の地元でもあるこの地域に貢献できるようなものにしたいと考えていたからである。

情報を集めるために最も参考になったのは泉中央の賑わい創出にまつわるイベントであり、良くも悪くも泉中央のリアルを知ることが出来た。失敗も多かったが、今後の泉中央が住民にもっと愛される街になっていってほしいなと思う。

メニュー