アートに介入する
十和田市中央商店街での制作・交流の場
神美希
平岡研究室
2023 年度卒業
青森県十和田市は現代アートに力を入れたまちづくりを行っている。現代美術館やアート作品がある一方で、中心商店街は空き店舗が目立ち、シャッター街化が進んでおり、市民の「アートの街」としての実感が薄いと感じた。商店街に新たなアート活性化のための場をつくり市民のアートの街への実感を促進する建築を設計する。

はじめに

1.1    背景

青森県十和田市は奥入瀬渓流や十和田湖など豊かな自然がある場所で2000年に入ってからは現代アートに力を入れたまちづくりを行っている。十和田のシンボルロードである官庁街通りには現代美術館や現代アートの作品があるが、官庁街通りと同じ中心市街地に含まれている中央商店街は空き店舗が目立ち、シャッター街化が進んでいる。また、市民は美術館やアート作品が街中にあることは認知しているが、「アートの街」としての実感が薄いと感じた。

1.2    目的

アートを目的に観光客が来ていることで、市民は既存の美術館や作品が価値のあるものだと認識している。市民が自分でアートに関連した活動に参加し、学び、楽しむようになることで、市民はアートを身近に感じ、アートの街だという自覚も深まり、市全体がまとまって盛り上がっていくと考える。アーティストを呼びこみ、地域でアート作品を制作し、市民と交流することで、アートを身近なものに感じられる場を商店街に設計する。

調査

2.1 十和田市について

2.1.1十和田市の概要

十和田市は青森県の南西部の内陸に位置する県では3番目に大きい市である。西側には八甲田山や十和田山、十和利山が連なり、東側は三本木原台地が広がっており市街地と農村地帯が形成されている。東部は年間を通して降水量が少なく比較的穏やかだが、西部は特別豪雪地帯である。年間平均気温は9.8度で冬は50cm程度雪が積もる。 人口は約5.8万人である。

2.1.2 関連する市の計画・施策

十和田市中心市街地活性化基本計画(2019)の基本理念は「アートの感動を共有し、賑わいと暮らしが共鳴する街とわだ~市民の暮らしを支え、人々が集い・活動する中心市街地を目指して~」である。2023年までの目標は「芸術・歴史・文化を活かした、魅力的な市街地の形成」と「歩いて暮らせる安心・快適な生活環境と、利便性の高い市街地の形成」だが、商店街の交通量や空き地・空き家の数は目標を達成できていない。

Arts Towada は省庁再編による国の事務所の統廃合などにより、多くの空き地が見られるようになった官庁街通り全体を一つの美術館に見立て、多様な現代アート作品を展開していく施策である。アート広場整備、ストリートファニチャーの配置、アート情報の提供や参加型アートイベントを行った。官庁街通りには多くのストリートファニチャーがあるが、商店街は少ない。

2.1.3商店街の歴史

1964年から1971年にかけて国道102号線沿いにアーケードが掛けられた。1㎞を超える東北最長のアーケードで当時は賑わっていたが、商店街に大型店ができ、元々商売を行っていた人たちの脅威になった。市内に大型商業施設やロードサイドショップができたこともあり、商店街は徐々に衰退していった。

2.1.4 商店街の現状

商店街には2016年に市民交流プラザ「トワーレ」、2021年に地域交流センター「とわふる」、バスターミナルが整備された。しかし、トワーレやとわふるでのヒアリングではより市民に活用してほしい意向も窺えた。トワーレは現在研修会や講演会、教室などで活用されている。また、とわふるは講演会やダンス練習などで使われており、壁が白く防音なため映像や音楽の活動に適している。

図1 商店街の空き店舗とアーケード

 図1によりアーケードがかかっている範囲では1丁目、12丁目が特に空き店舗が多いことが分かった。

2.2 アーティスト・イン・レジデンス

アーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは、国内外からアーティストを招き、滞在中の活動を支援する事業のことである。文化庁もアーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業を毎年募集しており、2023年度の募集でも全国で7件の事業に補助金が出されている。また、アーティストと地域が交流するプログラムを組み込んでいる事業も多く、アーティストは滞在期間中に講演会やスタジオの公開、ワークショップを行うなど地域振興にも役割を果たしている。

研究方法

3提案

 アーティストが地域に介入することで市民がアートを身近な存在と認識すること、商店街の空き店舗削減、既存施設の使用率向上を目指す。

3.1 アーティスト・イン・レジデンスのプログラム

 十和田でアーティスト・イン・レジデンスを行う上で以下のようなプログラムを想定する。

A アーティスト個人による作品制作

B 小学生へのアートに関する授業

C アートイベントの開催(ワークショップ、トークイベント、

共同制作など)

D 制作発表、展示会

アーティストは現代美術館やストリートファニチャー、自然、市民との交流から作品へのイマジネーションを得て、制作を行う。アート授業を行う学年を決めて十和田市の学校に通う小学生は全員アーティストの授業を受けられるようにする。小学生の時からアートに触れる機会を増やすことで十和田が現代アートを推し進めている街だと意識づけることができる。また、そこでアートに興味を持った人はアートイベントに参加してより興味を深めることができる。一部のアートイベントや制作発表、展示会は既存の施設を活用する。

3.3 設計方針

 本制作では以下の3つの整備を行う。(図2)

  • アーティスト・イン・レジデンスの拠点
  • アーティストの工房
  • 作品展示の場

アーティスト・イン・レジデンスの拠点では商店街に面している所にアーティストと地域の人、観光客などが交流を行うための広場とラウンジ、地域の人が来るきっかけとなるシェア商店を配置し、中央にシェアキッチン、運営のための事務所、奥に宿泊する場を配置する。宿泊はアートイベントなど人手が必要な際には地域おこし協力隊に来てもらうこと、現代アートを目的に十和田に訪れる観光客に市街地でビジネスホテル以外の需要が考えられることから、アーティスト以外も宿泊する。

アーティストの工房と作品展示の場は商店街に面した壁をガラス張りにして商店街を通る人から中が見えるようにする。事業が継続することで商店街に作品が増え、制作過程も楽しめるまちの美術館のようになっていく。

3.2 計画敷地

 ①は現在月極駐車場となっている場所で、周りに月極駐車場が複数あることから敷地として新しい施設が建っても問題はないと判断した。敷地の斜め前にはバスターミナルがあり、市の巡回バスや観光バスなどが利用する。敷地の南西側が商店街である国道102号線と接しており、歩道部分にはアーケードがかかっている。

②と③は現在空き店舗になっている建物をリノベーションして利用する。③は図2で示した候補の中から5~8カ所を徐々に整備する。工房はアーティストが長時間いることが考えられるのでお店のお客が入れる中にトイレがあると考えられる美容室や飲食店だった建物を選んだ。

図2 計画敷地

まとめ

4まとめ

 この提案を行うことで市民は商店街の中でアーティストと制作活動を行い、作品を作っている様子を見てアートと交わっていくことで、まちに対して主体的に興味を持ち関与する人が増える。また、アート活動を商店街に広げ、来るきっかけを増やすことで、従来の店舗兼用住宅ではなく、交流や活動の場に姿が変わっていく。

図3 十和田市の今後の人の流れ

参考文献

5参考文献

[1]十和田市農林商工部商工観光課(2019).十和田市中心市街地活性化基本計画.十和田市.chukatsu_zentai_henko1.pdf (towada.lg.jp),(2024年1月10日閲覧).

[2]十和田商工会議所(1998).『創立50周年記念誌 新たなる未来への出発』.岩間印刷所.

[3]萩原康子(2010).“わが国のアーティスト・イン・レジデンス事業の概況”.AIR_R.2010年5月23日.https://air-j.info/article/reports-interviews/now00/,(2024年1月5日閲覧).

[4]文化庁(2023).「アーティスト・イン・レジデンス活動支援を通じた国際文化交流促進事業」.文化庁,2023年,https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo/93827801.html,(2024年1 月5 日閲覧).

研究を終えて

自分が18年間も住んだ土地の知らなかった部分を知ることができたと思う。設計はまだ練り直すべき部分が多くあるがひとまず完成させることができたので良かった。

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