サイクルツーリズムを用いた廃線跡活用
―北海道日高本線を対象として―
山口梓
平岡研究室
2023 年度卒業
日本各地で鉄軌道路線の廃線、駅舎の廃駅化が相次いでいる。本研究は、2021年に一部廃線が決定した日高本線、日高本線が通っていた中で最も人口が多い北海道新ひだか町の静内駅の設計を行う。鉄軌道路線や駅舎の活用事例を調査した結果、サイクルツーリズムを用いた廃線跡活用、サイクルツーリズム事業の提案する。

はじめに

近年、日本では全国的に鉄軌道路線の廃線、駅舎の廃駅化が相次いでいる。2000年度から現在まで、全国で46路線・1193.6kmの鉄軌道路線が廃止され、代行バスやBRTの導入が増加している。現在、北海道内で利用されている鉄軌道路線は14線である。しかし、2024年に根室本線の一部廃止が決定、2026年には留萌本線の全線廃止が決定した。廃線跡や駅舎を活用している地域がある一方、未だに活用されていない地域もあることが現状だ。

前期研究では対象路線の日高本線、対象地域の北海道新ひだか町について調査を進め、活用方法を検討した。その結果、廃線した地域を繋げる移動手段、国内外の観光客が増加している理由からサイクルツーリズムに着目した。サイクルツーリズム経験者は年々増加傾向にあり、日本国内では自転車を活用した観光地域づくりが行われている。しかし、災害によって崩壊した路線があるため、ルートの検討が課題である。

後期研究では、前期研究の課題を踏まえ、サイクリングルートの策定や駅舎の活用方法、DMO事業の提案を行う。

調査

対象路線、対象地域について
対象路線の日高本線は苫小牧駅から様似駅までの28駅で構成されていたが、2015年の高波被害のため2021年に一部廃線が決定した。一部廃線に伴い苫小牧駅から鵡川駅までの4駅のみが今でも利用され、残りの24駅は廃駅となった。日高本線が通っていた中で最も人口が多い町は新ひだか町で、2024年現在の人口は20635人である。
日高本線が通っていた中で最も人口が多い町が北海道新ひだか町であるため、駅舎の活用方法検討の地域に選定した。北海道新ひだか町は2006年に静内町と三石町が合併して誕生した町である。2015年の高波被害により、鵡川駅から様似駅までJRが運休となり、人々の公共交通機関を用いた移動手段はJR代行バスのみとなった。

分析結果
サイクルツーリズムの価値、成功のためのポイントを以下のように考えた。
・地域の文化や特産品に触れられること。
・宿泊施設や飲食店などの周辺環境の整備をすること。
・地域住民と観光客が交流する場所をつくること。
また、日高本線の活用の方針を以下のように考えた。
・観光を駅だけで完結させずに町への広がりをつくること。
・周辺地域への移動手段として活用すること。
・現在ある観光資源を活用すること。

研究方法

サイクリングルート
一部廃線した日高本線の鵡川駅様似駅間を約116kmのサイクリングロードとして活用する。土砂災害により路線が崩壊している箇所、路線が海岸にあまりにも近い箇所は通行不可とし、国道を走るルートに切り替える。国道沿いにはJR代行バスが走行しているため、ルートの途中でバス停からバスに自転車を乗せて移動することも可能である。

 

観光を駅だけで完結させず、サイクリングユーザーを町の観光へと誘致させることを目的として、町中に広がるルートを作成した。新ひだか町静内駅から始まり、新ひだか町の観光名所である二十間道路桜並木を通るルート、山を臨める川沿いを走るルート、商店街や町中を走るルートなど、今ある新ひだか町の観光資源や自然の資源を活用した推奨ルートになっている。推奨ルートの為、必ずルートを辿る必要が無く、走りたいと思った道を走ることが出来る。

 

サイクリングロードのデザインは、元々使用されていた路線のレールを取り除かずに、レールが見える形でアスファルト舗装をする。廃線跡を新たなアクティビティとして活用せず、線路のまま残したいと思う人も一定数存在する。そのため、レールが見える形で舗装し、日高本線が利用されていた歴史を残すことを意識した。

 

駅舎の設計
サイクリングロードを作るに当たり、主要な駅を鵡川駅、富川駅、新冠駅、静内駅、浦河駅、様似駅の6駅に設定した。これらの駅には基本機能として、インフォメーション、貸自転車置き場、メンテナンスルーム、ロッカールーム、更衣室、トイレを設ける。

設計をする静内駅には基本機能の他に、お土産が売っている売店、バスやタクシーを待っている間に利用できるカフェスペースを設けた。売店を作ることによって地域の特産品に触れられ、興味を持ってもらえる機会を作る。カフェを設置することによって人が滞留する時間を作り、テラス部分から駅舎外の空間を見渡せる造りにすることで外からも人が入りやすい空間を目指して設計をした。

DMO事業
対象の地域でのサイクルツーリズムの運営はDMO(Destination Management/Marketing Organization)が主体となって行われる。各地域が協力して構成されたDMOは地域連携DMOに分類され、日高本線の廃線跡活用のために発足するDMOを「ひだかDMO」と名付ける。ひだかDMOは各地域の観光協会と民間企業で構成されており、他DMOや行政、企業と協力関係にある。DMOを介して、観光客は観光をし、観光関連事業者は観光サービスを提供する。北海道の広域連携DMOである公益社団法人北海道観光振興機構は観光客誘致のためのプロモーション活動やプロダクト開発支援を行う。
ひだかDMOの主な事業内容はサイクリングロードの運営管理、自転車貸出事業、イベント企画・開催、観光ツアーの実施、商品開発、駅舎活用事業である。上記の事業を通して観光客の増加、地域活性化を目指す。

まとめ

本研究ではサイクルツーリズムを用いた廃線跡と駅舎の活用方法の検討を行った。前期研究のまとめとして挙げていたサイクルツーリズムの価値・成功のポイントと日高本線の活用方針の通り計画されているか確認をする。

・地域の文化や特産品に触れられること。
→駅内に売店を設置することで文化や特産品に触れる入り口になり、商業施設からも地域性を感じられる。
・宿泊施設や飲食店などの周辺環境の整備をすること。
→サイクルツーリズムの要となる6駅がある町は宿泊施設や飲食店などが備わっている。
・地域住民と観光客が交流する場所をつくること。
→駅舎内、駅前空間を活用して交流ができる場所を設けた。
・観光を駅だけで完結させずに町への広がりをつくること。
→駅から町中へと広がるルートを作成した。
・周辺地域への移動手段として活用すること。
→路線と国道をサイクルツーリズムのルートにすることで、各地域を繋ぐ移動手段の一つになった。
・現在ある観光資源を活用すること。
→豊かな自然を活かしたサイクリングルートを提案した。

日本各地、訪日外国人のサイクルツーリズムユーザーによって地域の飲食店や宿泊施設などの消費が増加し、地域活性化に繋がる効果、観光客と地域住民の交流が生まれることによって交流人口が増加する効果が期待される。

参考文献

[1]国土交通省観光庁. 「観光地域づくり法人(DMO)とは?」https://www.mlit.go.jp/kankocho/page04_000048.html (2024年1月15日閲覧)
[2]せとうちDMO. 「せとうちDMOとは」https://setouchitourism.or.jp/ja/setouchidmo/ (2024年1月18日閲覧)

研究を終えて

地域の魅力を伝えきれなかったため、地域の魅力を引き出すために更に検討を重ねたい。

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