デジタル空間を用いた能動的楽曲探索のためのインタラクティブ楽曲推薦システムの開発
柴田雅敏
佐藤研究室
2023 年度卒業
 楽曲推薦システムは,ユーザの嗜好に合った楽曲を推薦するシステムであり,現代の音楽配信サービスにおいて広く利用されている.一方で,既存のシステムはユーザが推薦結果を能動的にコントロールできないという問題がある.本研究では,ユーザが能動的に好みの楽曲を探索できるようなシステムの開発を目的とし,デジタル空間の中でゲームのようにアバターを操作して探索するインタラクティブ楽曲推薦システムを提案する.

はじめに

背景と目的

楽曲推薦システムは,ユーザの嗜好に合った楽曲を推薦するシステムであり,Apple MusicやSpotifyなどのサービスにおいて広く利用されている.2025年末には日本国内の定額制音楽配信サービスの利用者は3,250万人に拡大すると予測されており[1],その重要性が近年高まっている.

楽曲推薦システムには,楽曲の音響特徴量とユーザからのフィードバックを元にプレイリストを動的に生成するシステム[2]や,スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを用いてユーザの気分・活動・環境を分析し,それらのコンテキストを元に楽曲を推薦するシステム[3]がある.しかし,これらのシステムには,ユーザが推薦過程や結果を能動的にコントロールできないという問題がある.

そこで本研究では,上述の問題を解決し,ユーザが好みの楽曲を探索できるようなインタラクティブ楽曲推薦システムの開発を目指す.

調査

関連研究

インタラクティブ楽曲推薦システムは,ユーザが能動的にシステムに働きかけて楽曲を探索することを目的とした推薦システムである.これまで,289種の感情タグを元に生成された2次元の特徴空間を探索することで,好みの楽曲と出会うことができるシステム[4]や,曲のジャンルやムードなどのソーシャルタグをユーザがタップしていくことで,推薦結果をコントロールしつつ探索を行うことができるシステム[5]が提案されてきた.しかし,システムの仕組みが難解である,探索過程が単調で自由度が低いなどの理由から,ユーザが楽しみながら好みの楽曲を探すことのできるシステムはこれまで実現されてこなかった.

研究方法

本研究のアプローチ

本研究の目的は,メディア表現やユーザ体験の視点からシステムをデザインすることで,ユーザが楽しみながら好みの楽曲を探索できるインタラクティブ楽曲推薦システムを実現することである.その目的を達成するため,システムの設計指針として以下の3項目を設定し,これらを満たすシステムの開発を目指す.

  1. 仕組みや操作方法について容易に理解できる
  2. 推薦過程や結果を自由度高くコントロールできる
  3. 楽しみながら探索できる

 

システムの概要

システムの設計指針を満たすため,本研究では,デジタル空間の中でゲームのようにアバターを操作して探索する形式のインタラクティブ楽曲推薦システムを提案する.このシステムの中で,ユーザは楽曲情報が可視化された空間内をアバターを操作しながら探索することで,好みの楽曲を探すことができる.

 

システムの構成

本システムは,Unity(バージョン2021.3.8f1)を用いて,Windows上で動作するデスクトップアプリケーションとして開発した.システムの操作にはゲームパッドを用いる.楽曲情報の取得やプレイリストの作成にはSpotify Web APIを利用し,一部楽曲の再生にSpotifyデスクトップアプリケーションを利用した.

 

体験の流れ

初めに,ユーザが探索したい曲のジャンルを選択するとそのジャンルの曲20曲分の楽曲情報が取得される.楽曲情報は1曲につき1体のキャラクターに対応して可視化され,ユーザはキャラクターに話しかけることで曲のプレビューを聴くことができる.ユーザが気に入った曲はプレイリストに追加し,さらにその曲を元に新たな推薦曲を取得することができる.この時,ユーザは曲の明るさやテンポなどの楽曲特徴量をスライダーで調整することで,推薦曲の傾向をコントロールすることができる.このような流れで曲を探索し,好みの曲を見つけていく.

まとめ

本研究では,ユーザが楽しみながら能動的に好みの楽曲を探索できるインタラクティブ楽曲推薦システムの開発を目的とし,デジタル空間の中でゲームのようにアバターを操作して探索する形式のシステムを提案した.

今後は,楽曲情報の可視化手法や探索機能,推薦アルゴリズムについて,メディア表現やユーザ体験の視点から改良し,より楽しく能動的に探索できるシステムを目指す.

参考文献

[1]  ICT総研. 2022年 定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査. https://ictr.co.jp/report/20221111.html. (2024年1月18日閲覧)

[2] Elias Pampalk, Tim Pohle, and Gerhard Widmer. Dynamic Playlist Generation Based on Skipping Behavior. In ISMIR, 634-637, 2005.

[3] Jiayu Li, et al. Towards Ubiquitous Personalized Music Recommendation with Smart Bracelets. Proceedings of the ACM on Interactive, Mobile, Wearable and Ubiquitous Technologies, Vol. 6, No. 3, pp. 1-34, 2022.

[4] Ivana Andjelkovic, Denis Parra, and John O’Donovan. Moodplay: Interactive mood-based music discovery and recommendation. Proceedings of the 2016 conference on user modeling adaptation and personalization, pp. 275-279, 2016.

[5] Mohsen Kamalzadeh, Christoph Kralj, Torsten Möller, and Michael Sedlmair. TagFlip: active mobile music discovery with social tags. Proceedings of the 21st international conference on intelligent user interfaces, pp 19-30, 2016.

研究を終えて

私たちの身の回りに存在する様々なアルゴリズムによって,自身の凝り固まった価値観や考え方の中に孤立してしまう(=フィルターバブル)という問題意識を出発点とした研究でした.研究を通して,デザインやエンジニアリングについてはもちろん,普段の生き方や様々な文化・コンテンツとの向き合い方についても考えを深めることができ,この経験は今後の人生の大きな糧となることと思います.

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