空間を充実化させる出窓の提案
小野菜々美
伊藤研究室
2023 年度卒業
出窓は装飾性の高さや建築面積の制約への対処を可能とすることなどにより、1970~80年代にかけて普及した。現在、サッシメーカー各社で製品としての取り扱いが減少している一方で、アンケート調査によると、出窓に対して一定数の需要があり、出窓に座る・寝る等の活用に関心が高いことが明らかとなった。そこで本研究では、出窓に新たな付加価値を与えることにより、空間の充実化を可能とする出窓を提案する。

はじめに

1970~1980年代に普及した「出窓」は現在も一般住宅に残っているが、サッシメーカー各社では製品としての取り扱いが減少している。一方で、前期に行ったアンケート調査では出窓に対して一定数の需要があることが明らかとなった。中でも人が入り込む(座る・寝る等)活用方法に対しての関心が高いという結果が得られた。

これを踏まえて、既存の出窓に関するマイナス面(改善点)の克服と新たなデザイン・機能により、空間の充実化を可能とする出窓を提案する。

調査

1.出窓の歴史

日本では、戦後1946年5月29日に公布された臨時建築制限令の影響もあり、床面積に算入されない出窓が普及した。1970年代半ば頃にはサッシメーカー各社から出窓製品が発売されるようになり、多機能化や外観デザインの要求により出窓製品の売り上げは伸びたとされている。

1-1.付書院

出窓の原型とされているのが書院造で用いられた付書院である。書院造の座敷飾りの1つとされる付書院 (当時の名称は出文机) は、寺院の居間兼書斎に張り出して設置された書斎スペースとして造られたことが始まりである。採光のために机部分が外に張り出し、正面には明かり障子が設けられている。室町時代では書斎として役割を果たしていたが、現代では置物を飾る飾り棚や部屋を和風テイストにする装飾そのものとして設置されている場合がほとんどである。

 

2.出窓の機能

( 1 ) 採光:周囲の壁面から外側に張り出して設置される窓であるため、効率的な採光が可能である。また、通常の窓よりもガラス面が多く、広いため、より多くの光を取り入れることができる。

( 2 ) 通気:窓には外気を取り入れ内部の空気を排出するための通気口としての役割がある。

( 3 ) 眺望:出窓は、外の景色が広い角度で視界に入るため、通常の窓よりも眺望に長けている。

( 4 ) 建築面積の制約への対処:建築基準法により、➀窓が見付け面積の1/2以上②外壁からの出寸法500mm未満③下端の床面から高さ300mm以上に取付ける、以上3つの条件下において、出窓は床面積に算入されない。これにより、スペースの確保だけでなく、部屋に奥行きを持たせることで開放感のある空間の演出も可能となる。

これに加えて、活用方法により付随される機能もある。付書院が例に当たり、出窓の天板部分を机として使うことで、書斎としての機能が備わっている。また、雑貨のディスプレイや、植物を育てる場所としての活用が、現代の出窓の活用方法として最も主流であると考えられる。このように、出窓の機能は、元々持ち合わせた採光、通気、眺望、建築面積の制約への対処に加え、活用方法からも付与される。

 

3.実態調査

現代の住宅における出窓の有無とその活用状況に加え、出窓を活用することに対する関心や傾向を探ることを目的として、学生103名(18~22歳、男女比3:7)を対象にアンケート調査を行った。

(1)出窓の有無と活用状況

出窓の有無に関しては、「ある」27.2%、「ない」72.8%であった。自宅に出窓がある回答者の住宅の形態については、「一戸建て」64.3%、「集合住宅」35.7%であった。また、自宅に出窓がある回答者の活用状況は、植物や雑貨のディスプレイの場としているという回答が60.7%と最も多く、その他の回答としては、荷物置き場や飼い猫の寝床などがあった。一方で、出窓を活用していないという回答は28.6%であった。出窓を活用していない回答が全体の約3割であったことから、出窓により空間を有効活用できることへ意識改革を可能とする提案が必要である。

(2)メリットとデメリット

自宅に出窓がある回答者に対して、生活の中で感じる出窓のメリットとデメリットについて記述式で回答してもらった。メリットとしては、「物を飾れる・置ける」「部屋に光を取り込める」「空間のアクセントとなる」などの回答が複数挙げられた。「物を飾れる・置ける」と回答した人は実際に、そのように活用していた。このことから、出窓においてメリットと感じたことが活用状況に直結していた。また、デメリットとしては、「結露が起こりやすい」「掃除が大変」「カーテンの扱いが面倒」「置いている物が日焼けする」などの回答が複数挙げられた。このことから、出窓そのものの維持管理に関して不満を持つ人が多いことが明らかになった。

(3)出窓活用への関心

自宅の出窓の有無に関わらず、新たに出窓を設置する場合どのように活用したいか回答してもらった。出窓の活用方法に対してイメージしやすいように、①雑貨をディスプレイする、②採光を利用し植物を育てる、③天板部分を利用した作業 (書斎) スペース、④ソファ・ベッド仕様の休憩スペース、以上4つの選択肢を提示し(画像と説明文)、その他として記述式の回答欄も設けた。結果はそれぞれ、①は19.4%、②は14.6%、③は30.1%、④は35.0%となった。調査前は出窓の有無で回答に差が生じると仮定していた。しかし、自宅の出窓の有無に関わらず、③と④の回答が多かった。このことから、今回の調査対象者では、①や②のように物を置く等の活用ではなく、③や④のように人間が座る・寝る等の活用方法への需要が高いことが明らかになった。

 

4.出窓の改善点

サッシメーカー各社で出窓製品の取り扱いが減少している要因についてサッシメーカー2社にヒアリング調査を行った。その結果、主な要因として断熱性の低さと構造部材の多さなどによるコストの高さの2点があげられた。これら2点が相互作用してメーカーでの製品展開が停滞する状況となっていると想定する。しかし、アンケート調査や事例調査により、現状として出窓への需要が明らかとなったことから、出窓に機能性や実用性としての新たな付加価値を与えることで新たな展開を示していくことが可能であると想定する。

研究方法

1.出窓の定義

本研究において、「外に対して壁から張り出した造りになった窓」に加え、以下の条件を満たすものを出窓として定義付ける。

外に張り出している部分よりも基準壁面(外壁)が大きいことを出窓成立の条件とすることで、設置高さに関しては条件を設けなくても出窓として成り立つことを示す。

 

2.新たな出窓の提案

空間を充実化させる出窓として、製品規模4タイプと造作規模3タイプの計7タイプの出窓を提案する。

2-1.製品規模

(1)コンパクトタイプ

雑貨のディスプレイや出窓そのものを装飾品とすることのできる小規模での出窓。複数個組み合わせることで装飾性を持たせることが可能。アンケート調査における活用状況の回答で多かったペット(猫)の居場所としての活用も推奨する。

(2)ロングタイプ

高さ方向に長い出窓。棚板を自由に取り付けることが可能。一方向に長さを設定することで縦で魅せる装飾や高さのある植物の栽培等に活用する。場合によっては横向きに設置することも可能であり、活用方法に幅を持たせる。

(3)ディスプレイタイプ

外に対して三角形に張り出した出窓にすることで、外観に立体感を持たせた。ディスプレイの場として活用し、外から見た際に飾っているものと部屋の様子を奥行きをもって見せる。三角形に張り出す奥行きが広いほど、2面の窓それぞれで外から中の見え方を変える。

(4)デスクタイプ

出窓の天板部分を机として活用することが可能。勉強や仕事、家事や趣味など様々な場面で活用することができるように、机作業をする際の十分な幅と奥行きを設けた。また、トップライトと側面に窓ガラスを設け、手元に集中的に採光を確保した。

2-2.造作規模

アンケート調査で出窓に入りこむ(座る・寝る等)形に需要があることが明らかになったことから、人が入り込むことのできる造作規模での出窓を提案する。建築における造り付け規模の出窓であり、窓は既存製品を取り付けることを想定している。ここでは以下3つの出窓を提案する。

(1)横向きに入りこむ

個人で集中して机作業をする際の使用を想定した出窓。窓は引き違い窓を用いており、ロールカーテンで採光を調整する。基本的には机作業のための個人ブースとして使用することを想定しているが、子供が2人並んで座ることも可能である。

(2)窓に向かって入りこむ

デスクタイプの出窓よりも机部分が広く、正面に加え左右にも机部分を設けることで作業域を広く設定した。使用していない時にはインテリアとして空間のアクセントとなるように、装飾性のあるデザインを目指した。他の2つとは違い、窓を既存製品規格ではなく、3面ユニットでパッケージ化した。

(3)窓を背にして入りこむ

窓辺でゆったり過ごす空間を想定し、窓に沿ってカウチを設けた。座るだけでなく、寝転ぶことができる規模である。窓は、大きなFIX窓と縦滑り出し窓で構成した。

まとめ

今回の調査で出窓には需要や可能性があるものの、現状における展開が停滞していた。そこで、製品規模に加え、造作規模で活用の幅を拡大した出窓を提案することにより、空間の充実化を可能とする出窓の展望を示すことができたと考える。生活の中で目的をもって活用できる1つの空間として、出窓が様々な場面で選択されるようになることを期待する。

参考文献

[1]真鍋恒博(2016年1月8日).「窓の変遷史 第8章出窓・天窓」.WINDOW RESEARCH INSTITUTE,https://madoken.jp/series/1093/ (2024年1月13日閲覧).

[2]伊香賀俊治, 五十嵐太郎, 清家剛, 塚本由晴, YKK AP窓研究所(2017)『窓と建築をめぐる50のはなし』株式会社エクスナレッジ.

[3]塚本由晴,能作文徳,今野千恵(2010)『Window Scape』株式会社フィルムアート社.

[4]塚本由晴,平尾しえな,塚本晃子,千葉大喜(2022)『Window Scape [北欧編] 』株式会社フィルムアート社.

[5]中山繁信,長沖充,杉本龍彦,片岡菜苗子(2016)『窓がわかる本 設計のアイデア32』株式会社学芸出版社.

研究を終えて

出窓の魅力として、他の窓と比べて活用方法が幅広く、窓辺での過ごし方の可能性を広げることが可能であることがあげられると考えます。今回の提案をモデルとして、出窓が私たちの生活や空間を充実化させる1つの手段となることを期待します。

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