スキャニメーションを活用した新たな変色表現
~角度で「変わる」・動かして「変える」~
岡本泰己
伊藤研究室
2023 年度卒業
変色表現を可能とするような事例には、特殊な塗料や印刷技術など様々なものがある。しかし、それらは角度や温度によって色が「変わる」タイプの変化であり、そこにはユーザーの意図が十分に関与していないと考えた。そこで、当研究ではスキャニメーションという手法を活用し、角度で色が「変わる」表現に加え、ユーザーがスリットを動かすという行動を通じて色を「変える」ことができるような仕組み・作品を制作した。

はじめに

私たちの身のまわりには、「変化」する要素を持つものに溢れている。その例としては、変形する玩具や場所に合わせて体の色を変える生物、用途に応じて異なる使い方ができるようにデザインされた商品などが挙げられる。変化する要素を持つに至った背景や理由は様々であるものの、そのどれもが「かっこいい」あるいは「美しい」という形容に留まらない魅力を秘めていると考えた。

本研究は、世の中の変化するデザインについて調査を行い、そこからまだ実用化に至っていない「変化」を持ったデザインをプロダクトデザインやグラフィックデザインの領域から提案することを最終的な目的としている。

調査

実用化に至っていない「変化」を持ったデザインの提案を目的とした本研究および前期に行った調査を踏まえ、私は「色の変化」に着目した。現代では、特殊な塗料や印刷技術により温度や見る角度などの変化によって色の変化が生じるような事例が数多く存在している。しかし、既存の事例には、その変化に使い手(ユーザー)の意思が関与するようなものが見受けられなかった。また、変化のパターンについては「青~紫」など2色の変化がほとんどであり、3色以上の変化を可能とする事例も少ない。そこで、後期ではユーザーの意思も含めて色の変化を自由に起こせるような仕組みを構築し、それを活かした作品を制作することとした。

研究方法

【スキャニメーションの活用】

数ある「変化」を表現可能な技術や手法のなかで、最も可能性を感じたのが「スキャニメーション(スリットアニメーションともいう)」である。スキャニメーションとは、絵柄(静止画)の上に重ねたスリットをユーザーが「動かす」ことで、絵柄にアニメーションを生じさせる手法である。主に絵柄の「形」を変える事例として活用される手法だが、応用次第では色の変化に特化したものも制作できると判断し、本制作の仕組みとして採用している。

【「変わる」と「変える」の両立】

本研究では「変化」について、「変わる」と「変える」の二種類に分けてそれぞれ定義している。「変わる」変化は主に外的要因によって意図せず起こる変化が該当し、一方の「変える」は生物やユーザーが何らかの意図を持って起こす変化が該当する。ここまでに紹介した事例のほとんどは、角度や温度などによって色が「変わる」前者のケースに該当する。

しかし、研究を進めていく中で、変化にユーザーの意思が関与しないことで生じるメリットもあることに気が付いた。例えば、ユーザーの意思が関与しない色の変化は「ユーザーが変えようとしなくても色が変わる」と表現することができる。つまり、変化のためにユーザーの意思や動作を必要としないため、説明不要で誰でも簡単にかつ等しい変化を楽しめるというメリットとしての捉え方もできるのである。

ユーザーの意思が関与するような変化は、ユーザーの意思や想像力次第で楽しみ方の幅が大きく広がる。その反面、ユーザー側がその仕組みを知らない場合には変化を楽しめなくなるというリスクも生じる。スキャニメーションを例に挙げると、絵柄を変化させるために「スリットを動かす必要がある」ことをユーザーが知らない場合、変化は生じなくなってしまう。

これを踏まえて、今回の制作では色を「変える」ものに加え、操作不要で変化を楽しめるような色が「変わる」ものも制作することとした。2通りの制作を行う最たる目的は「2つの変化(変わる・変える)の両立」という新たな強みを見出すことである。特殊な塗料や印刷技術といった他の事例は角度や温度などで色が変わる事例に特化しており、同様の技術を用いた色を変える事例はない。そのため、2つの変化の両立を達成することで、今回の制作に既存の技術が抱える課題の解決以上の強みや価値を見出せると考えた。

【角度で「変わる」最終成果物(キービジュアル左下)】

スリットと絵柄の間に1~1.5mmの間隔を設けることで、スリットを動かすことなく「見る角度」によって色の変化を確認することができた。制作当初は、間隔を設けたことでスリットの着色部分が陰となり、視認性が下がるという課題もあった。しかし、絵柄を印刷する素材を透明なOHPフィルムにすることで、周囲から光を取り入れながら視認性を高く保つようなつくりを実現した。

【動かして「変える」最終成果物(キービジュアル左上)】

ユーザーがスリット部分に指を置き、自由に動かすことで色の変化を起こせるタイプの成果物である。複数の絵柄を並べることで、色が変化した際に「違う色から同じ色になる」あるいは「それぞれの色が入れ替わる」などといった仕掛けも盛り込んだ。

まとめ

研究および制作を通じて、スキャニメーションという手法の活用を通じて、新規性※のある変色表現を実現した。

※既存の事例は角度や温度で変化する色数が「2~3色」なのに対し、今回生み出した変色表現では6色以上(虹色)の色数で変色表現が可能。また、色の変化にユーザーの意思・行動を組み込んでいる事例という点において新規性がある。

特に「虹色の表現」はユーザーの意思を関与させるかどうか選択できるうえ表現できる色の数も多いため、幅広い活用が可能であると考えている。今後は、立体物やより大きなサイズへの応用も視野に、この変色表現が持つ価値や強みをさらに探りたい。

参考文献

研究を終えて

新規性のある変色表現を生み出した上で作品に反映させることができ、一つの到達点にたどり着くことができた。変化する色数が多く汎用性の高さも期待できるものの、この仕組みを生み出した私自身もまだ知らないような魅力や強みがある可能性も高く、追求の余地がないというわけではないと考えている。

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