衣服のサイズ感を提示するベルト型デバイスの開発
非公開
鈴木研究室
2022 年度卒業
実店舗では試着によって商品イメージやサイズ感を確認することができる。しかしながら、ファッション EC サイトでは試着ができない。サイト上に記載されている文字や画像のみで商品イメージやサイズ感を確認することは難しい。そこで、本研究では「物理的にサイズ感を提示できる」「サイズ感を提示できる」という設計指針をたて、移動距離に応じてベルト型デバイスの輪の直径を変更するシステムを開発した。

はじめに

衣服を購入する際,我々は価格やブランド,流行,手持ちの服との相性,自分との相性を含むさまざまな要素から衣服を選択する.その中でも,自分との相性が衣服の選択に与える影響は大きい.実店舗で購入する場合は試着によって相性を確認することができるが,ファッションECサイトで購入する場合は試着によって相性を確認することができない.

このような問題を解決するため,仮想試着システムやDanらが開発したシステムが存在する.これらは商品イメージや適正サイズを確認することができるが,サイズ感を確認することはできない.また,サイズ感を提示するシステムとしてunisizeが存在するが,画像での提示のためサイズ感が伝わりにくい.

そこで,本研究の目的をファッションECサイト利用者に実空間でサイズ感を提示することとする.

本研究において,「商品イメージ」は,購入者が実際に衣服を着用したときのイメージを指す.「サイズ」は,SサイズやM サイズ,Lサイズといった衣服のサイズ表記を指す.「サイズ感」は,自分の体と衣服との間に生まれるゆとり及び丈の長さを指す.

調査

欲しい衣服と自分との相性を知る際,商品イメージやサイズ関連の情報は必須である.

仮想試着システムでは,ディスプレイ上で欲しい衣服を自身の画像や映像に重ね合わせて疑似試着ができる.仮想試着システムは商品イメージを確認することができるが,サイズ関連の情報を知ることはできない.

サイズ関連の情報を提示する既存システムは,適正サイズを提示するものとサイズ感を提示するものとの2つに分けられる.Danらが開発したシステムやYingらが開発したシステムは,自身の体型情報を手動やカメラで入力することで適正サイズが提案される.これらのシステムは適正サイズを確認することができるが,サイズ感を知ることはできない.

unisizeは,自身の体型情報に関するアンケートに答ることで適正サイズと共にサイズ感を可視化した画像が自動表示される.unisizeはサイズ感を確認することができるが,画像での提示になるため情報の解像度が低い.

研究方法

システムの設計指針

既存システムは,情報の解像度が低いこと及びサイズ感を確認できないことが課題であった.本研究は,これらの課題を解決するために2点の設計指針を作成した.

  • 物理的に情報を提示できる

既存システムは,文字や画像,映像で情報を提示する.文字から取得できる情報は言語情報のみであるため,情報の解像度が低い.画像及び映像は文字には勝るが,画面を通して得る視覚情報であるため,情報の解像度が高いと言えない.物理的に情報を提示することで実空間で解像度の高い情報を取得できる.

  • サイズ感を提示できる

衣服と自分との相性は商品イメージやサイズ感から確認できる.既存システムは,商品イメージや適切サイズを提示するが,実際にどのくらいゆとりがあるのかといったサイズ感を知ることはできない.サイズ感を提示することでより正確な自分との相性を知ることができる.

サイズ感提示システム

  • システムの概要

本研究では物理的に衣服のサイズ感を提示するため,移動距離に応じてベルト型デバイスの直径を変更するシステムを提案する.ベルト型デバイスとは,ベルトのような帯状にも輪状にもなるデバイスである.衣服は,直径の異なる輪状の布パーツが複数繋がって構成されているという見方ができる.デバイスの輪の直径を変更することで物理的にサイズ感を提示する.本システムは,提示する情報を選択する機能及び移動距離に応じてデバイスの輪の直径を変更する機能を持つ.

  • システムの構成

本システムは,ベルト型デバイス及び三脚に取り付けられた端末が持つアプリケーション(以後三脚用アプリという.)から構成される.さらに,ベルト型デバイスはデバイス本体とデバイスに取り付けられた端末が持つアプリケーション(以後デバイス用アプリという.)との2つの要素に分けられる.デバイス用アプリは提示する情報を選択する機能を持つ.

  • システムの利用方法

利用者はサイズ感を知りたい衣服,部位及びサイズをデバイス用アプリから選択し,デバイスに取り付ける.三脚用アプリを起動し,三脚から数m離れた場所に立つ.アプリを持つ端末同士が背中合わせの状態で,選択した部位にデバイスを通す.デバイス用アプリの選択開始ボタンを押し,デバイスを下に動かしていくことでサイズ感を確認する.衣服の丈の端まで提示が完了したら音を鳴らして利用者に知らせる.

  • 提示する衣服

本研究では,提示開始箇所の判断が可能かつ輪で表現が可能な衣服の提示を行う.

提示対象外の衣服としては,フィッシュテールスカートやオフショルトップス,ハイウエストボトムスが挙げられる.輪で表現することが困難な衣服としては,フィッシュテールスカートやポンチョスリーブトップス,オフショルトップスが挙げられる.提示開始箇所の判断が困難である衣服としては,ドロップショルダートップスやハイウエストボトムスが挙げられる.

実装

  • ベルト型デバイスの構造

箱部は,3mmのアクリル板をレーザーカッターで切り出して作成した.箱の内部には,esp32,ステッピングモーター,モータードライバ,コンバータ,ブレッドボード及びモバイル充電器が搭載されている.箱の上部にある機構は,アプリ2を持つ端末を固定するために使用する.

ベルト部は,円形保持力,素材の薄さ及び強度を考慮して 0.02mmのプラスチック板で作成した.箱の内部から穴に通して出てきたベルト部の片端を磁石で止めることによりデバイスを輪状にする.

  • 端末の移動距離推定

端末の移動距離推定には,UWBを活用する.屋内測位技術とは,屋内や地下街といったGPSの電波が届かない場所でも測位ができる技術である.UWBは,超広域帯無線通信のことで,パルスの空中伝搬時間を計測して測位を行う.アクセスポイントや各種センサを用いた測位も存在するが,本研究ではリアルタイムで数cm単位の変化を取得する必要があるため,通信が高速で精度が高いUWBを採用した.

UWBによる測位には,U1チップ及びNearby Interactionを活用する.U1チップとは,apple製デバイスをUWBに対応させるための専用チップである.Nearby Interactionでは,U1チップを使用して複数端末の距離及び方向ベクトルを測定することができる.

本研究では,U1チップを搭載した2台のiPhoneによってNearby Interactionを行う.Nearby Interactionには,端末同士の距離が9m以内である,端末が縦向きである,端末同士が背中合わせである,端末間に障害物がないという制約が4つ存在する.本研究でもこれらの制約を守り,端末の移動距離推定を行う.

  • 輪の直径変更

輪の直径変更には,ステッピングモーターを活用する.プラスチック板を巻き付けたステッピングモーターを時計回りや反時計回りに回転させることで,ベルト部の巻き取りや巻き出しが行われ,輪の直径が変更される.

  • システム処理

デバイス用アプリは提示する衣服,部位及びサイズを入力し,三脚用アプリにNearby Interaction開始の信号を送信する.信号を受信した後,三脚用アプリを持つ端末を基準としたデバイス用アプリを持つ端末の現在位置と移動距離の推定を開始する.デバイス用アプリは,移動距離に応じて衣服データから提示するべき輪の大きさ情報を取得し,デバイス本体に送信する.デバイス用アプリから情報を受信した後,その情報をもとにベルト部の巻き取りや巻き出しを行う.

  • 衣服データ

衣服データはJSON形式のデータである.1つの衣服データは,衣服の名前,衣服の種類及び衣服のサイズという3つの情報を持つ.さらに衣服のサイズは,部位ごとのサイズ情報を持つ.

まとめ

本研究では,ファッションECサイト利用者に実空間でサイズ感を提示することを目的とし,移動距離に応じてデバイスの輪の直径を変更するシステムを開発した.

移動距離推定は,U1チップを搭載した2台のiPhoneでNearby Interactionを行うことで実現した.デバイスの輪の直径変更は,選択した衣服と同じ輪の直径になるようステッピングモーターでベルト部の巻き取り・巻き出しを行うことで実現した.これらの機能を組み合わせることで,実空間で物理的にサイズ感を提示することが可能になった.

今後の課題として,使用する部品や構造の最適化によるデバイスの小型及び軽量化が挙げれれる.また,アパレル企業が所有している衣服データを活用して,ファッションECサイトとの連携が可能になれば利便性が向上すると考えられる

参考文献

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研究を終えて

自分の興味のあるファッション分野の研究ができて良かった。

ファッションECの利便性向上のための手がかりになれば嬉しい。

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