高齢者の孤独感と公共施設利用の分析から考える公共空間
関本美咲
小地沢研究室
2022 年度卒業
高齢者の孤独感の大小への影響を公共施設の利用に着目し調査した結果、経済的な自由度の高さは孤独感の大小および利用頻度に影響を及ぼし、利用者に知り合いがいなかったり、利用方法が分からなかったりした場合は市民センターを利用しない傾向にあった。公共施設がこうした高齢者に気兼ねなく利用され、孤独感低減に寄与する場となるために、将監地区において公共施設の補完を目的とした、半屋外を伴う新たな公共空間を設計した。

はじめに

長寿命化する現代社会では、高齢者の心身の健康を維持し、フレイル防止に繋げることができる都市環境を考えることが必要である。その中で、健康との関連がみられる社会的孤立や孤独の状態に関する研究や、孤独感の大小に関係する要素についての研究を通し、孤独感を低減することの必要性やその方法などについて考察されてきた。

孤独感の大小は複数の要素が重なり合うことで評価される主観的なものであることを考慮しつつ、本研究では、高齢者の孤独感低減の1つの手段として、徒歩30分圏内に立地する公共施設の利用を検討することを研究の目的とする。

調査

調査対象地は、かつて建替え前の利用状況の分析を行った将監市民センターが立地する将監地区のうち、高齢化率の高さ、将監市民センターからの距離、住居形態の違いを踏まえて将監2丁目、6丁目、9丁目とした。

調査対象者は、町内会長・自治会長の了承を得た5つの町内会・自治会の範囲の1655世帯、1062人の高齢者である。

調査方法は、将監市民センターの利用に関する項目と孤独感を感じる度合い、孤独感の大小と関係があると示されているいくつかの要素について回答してもらうアンケート調査とした。調査紙は対象地で全戸配布し、65歳以上の方のみに回答頂いた。

研究方法

1.仮説

仮説は、将監市民センターの利用頻度と高齢者の孤独感の大小との関係について(仮説1、2)と、孤独感の大きい高齢者について(仮説3)立てた。

仮説1. 利用頻度が月1回以上の高齢者は孤独感が低い。

仮説2. 利用頻度が月1回未満の高齢者は、時間的自由がない高齢者が多い。

仮説3. 孤独感の高い高齢者は、時間が無く、家から遠く、知り合いに会いたくないことを将監市民センターを利用しない理由に挙げる。

2.調査結果

2-1 孤独感の感じ方

孤独感を「いつも感じる」が27人、「ときどき感じる」が65人、「まれに感じる」が102人、「ほとんど感じない」が205人と、孤独感の低い高齢者が多かった。仮説の検証では孤独感を「いつも・ときどき・まれに」感じると回答した場合を「孤独感を感じる」、「ほとんど感じない」場合を「孤独感を感じない」とする。また、住居形態については、「県営住宅」と「県営住宅以外」とで2値化する。これは、所得が及ぼす孤独感への影響を間接的に測る狙いがある。

2 仮説1の検証

将監市民センターの利用頻度と孤独感の大小との関係について、独立性の検定を行った。公共施設の利用を通じた対人交流や定期的な外出機会の獲得により、利用頻度の高い高齢者ほど孤独感が小さいと予想したが、2つの間に相関はみられなかった。利用頻度の高さが必ずしも孤独感を低減するわけではないのは、利用目的や利用時の会話量、利用時の利用者自身の役割などに左右されていると考えられる。

2-3 仮説2の検証

将監市民センターの利用頻度を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。仮説では時間的自由が利用頻度に影響を与えていると予想したが、時間的自由の影響はなく、経済的自由があることが利用頻度に影響していることが分かった。また、孤独感を感じるか否かを目的変数としたロジスティック回帰分析においても、時間的自由があることの影響はみられなかった。一方で、1年以内に交流・娯楽を目的とする地域活動に参加した高齢者は、孤独感が大きいという結果が出た。コロナ禍においてもこうした地域活動に参加する高齢者においては、コロナ前との活動頻度や他人との密度等の変化をより感じることで、孤独感が大きくなっている可能性があると考えられる。

2-4 仮説3の検証

将監市民センターを利用しない理由については、予め用意した6つの理由について、それぞれどの程度当てはまるかを回答してもらった。利用しない理由として、回答者全体の傾向としては、知り合いがいない、興味のある活動がない、利用方法が分からないの順に多かった。利用しない理由として予想していた、家から遠いことと、知り合いに会いたくないことについては、孤独感の度合いとクロス集計した結果、孤独感を「いつも感じる」高齢者の中では上位の回答にあたることがわかった。

また、将監市民センターを利用したくないと思っている高齢者は、家から遠いことと、知り合いに会いたくないことを理由に挙げる割合が比較的大きい傾向がみられた。

まとめ

1.まとめ

本研究は、孤独感の大きい高齢者が公共施設の利用を通して孤独感を低減する可能性について検討することを目的に、将監市民センターの利用頻度と孤独感の大小との関係について分析を行った。

その結果、市民センターの利用頻度と高齢者の孤独感の大小との関係はみられなかった。また、時間的自由の度合いではなく、経済的自由の度合いが孤独感の大小と将監市民センターの利用頻度のいずれにも影響を及ぼしていることがわかった。将監市民センターを利用しない理由の全体の傾向としては、利用者に知り合いがおらず、興味のある活動がなく、利用方法がわからないという理由が多かった。

2.設計提案

建替え後の将監市民センターには、複合化により生まれた市民交流スペース(みんなのサロンふれ・ミー)を活用した様々な活動がある。しかし、経済的自由度が孤独感の大きさや将監市民センターの利用頻度の低さに影響を及ぼす要素であることを踏まえると、そうした活動の様子を少しひらけた場所で窺えることが、公共の場を使った活動との接点を得るために必要であると考えた。

そこで、設計提案では、将監地区の互いに離れた緑地帯2ヶ所に、既存の公共施設では実現しがたい屋内に立ち入る抵抗感の緩和を目的とした半屋外空間を新たにつくり、散歩などの余暇外出を促す都市環境の一部となることを狙いとした。いずれも、複数のアプローチを設け、敷地を通過する際に、市民活動用として設けたスペースを窺うことの出来るよう動線を考えた。

参考文献

斉藤雅茂、近藤克則、尾島俊之、平井寛(2015):健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討 10年間のAGESコホートより,日本公衛誌,Vol.62,No.3,pp.95-105

伊藤日向子,後藤春彦,山村崇(2019):独居高齢者の『孤独感』と生活行動の関係―東京都練馬区むつみ台団地を事例にして―,都市計画論文集,vol.54,No.3,pp.1200-1207

関本美咲(2022):高齢者による公共施設利用の傾向,宮城大学令和4年度卒業研究Ⅰ成果発表予稿集,pp.56-57

研究を終えて

調査を進める中では比較的活動的な高齢者との出会いが多かった。孤独感を抱えていたり、見守りが必要だったりする高齢者がいることへの関心が高い高齢者もおり、自身の調査のことも踏まえ、公共施設の利用や外出機会について高齢者の方々と意見を交えることが出来たことが自身にとって研究のもう一つの成果であったと感じる。

最後に、調査にご協力頂いた地域の皆様、調査にあたりご支援頂いた皆様、そしてご指導頂いた小地沢先生と合同で調査を行った学生、全ての方々に感謝したい。

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