ファンタジー要素を含んだ非日常的な空間演出
有吉萌絵
伊藤研究室
2022 年度卒業
大胆な装飾スペースや世界観が表された空間などに対し、「非日常的」と感じる場面がある。なかでもファンタジー性があり、ドリーミーな世界を体感できる可愛いらしい空間を研究対象として分析し、そのような空間の演出手法や活用法を提案する目的で研究を行った。

はじめに

大胆な装飾や演出によってあるテイストで統一されていたり、世界観が表現された空間がある。そのような空間は特別な展示や期間限定のショップなど、製品やサービスをアピールするための催事などで見られることが多く、常設でないことも相まって「非日常的」と感じられる。
そのなかでも、ファンタジー性を感じ、ドリーミーな世界を体感できる可愛いらしい空間に焦点を絞り、そのような空間を分析し、演出手法や活用方法を提案する目的で研究を行った。

調査

1.求めるテイストの探究
前期では、「非日常的な空間」という大きなくくりで空間の調査を行った。その結果、一般的に大半の人が非日常的だと感じられる空間の要素や条件をおさえた。そこからさらに、「可愛らしい世界観を体感できる、ファンタジー要素を含んだ非日常的な空間」に研究対象を絞り、調査を行った。
研究対象とした空間のテイストは、「ファンシー」「ドリーミー」「メルヘンチック」という意味合いを含む、ファンタジー要素のある、可愛らしい印象やイメージを連想させるものと定めた。次に、これらのイメージを具体化するため、空間においてそのテイストをつくりあげ、人々に可愛らしいと感じさせるための必要な要素について考察した。考察方法として、研究対象とするテイストの空間を数多く取り上げ、その画像でコラージュ画像を作成した。

  

コラージュ画像から、共通する形・色・エレメントなどを抽出し、以下に主な項目をまとめた。

①アーチ状のエントランスやゲート
②メルヘンチックで動きのあるエレメント
③きらきら光る電飾

2.求めるテイストのポジション
非日常的空間、そのなかでもファンタジー要素を含む空間を対象とし、調査を行った。この求めるテイストの真逆のテイストや、よく似たテイストなどが存在し、これらを含め、今回の狙った空間が全体の中でどこに位置するのかを検討した。
空間として反対の位置にあるのは、住宅のリビングなどの居住空間であり、これは生活機能が重視されておりそもそもの用途が違うためと言える。この見解から、ナチュラルなテイストは今回の研究するテイストとは反対の位置にあると考える。例えば、自然を感じられる素材や、植物や木材を多く用いた空間など、落ち着いた雰囲気のあるテイストである。
また、ファンタジー要素を含んだ空間には、そのなかにもまた種類がある。高級感を感じさせるもの、モチーフに強い印象があり物語性が高いもの、抽象度が高く雰囲気が感じられるものなどが似たポジションに配置されるテイストである。今回の研究対象としては、空間規模が大きすぎず、飾り立てによって夢見心地な雰囲気の再現が可能な範囲のスケール感であるのが適しており、壮大で優美なテイストというよりは、より可愛らしく、人々が心躍るような馴染みやすいテイストであることが特徴的である。

研究方法

これまでの研究から、スタディ模型等の製作を通し、ファンタジー要素を含んだ非日常的空間を活用する適切な計画として、ショッピングモール内のテナントで販売を行うバス・ボディグッズ店舗を提案する。バス・ボディグッズとは入浴剤やボディソープを言い、また関連商品としてフェイス・ヘアケア用品などを取りそろえたセレクトショップとする。理由として、まずこれまでの研究対象であるファンタジー演出が受ける層は中高生~30代前半の若い女性と考えられ、この客層が比較的手ごろに購入できる範囲で、女性が使ったりプレゼントに購入するのに最適な日用品を考えた。その中で、店舗を体験空間とするのに適した商材として香りがあるものが相応しいと考え、バスグッズ製品を選択した。このような商品は通販では魅力が伝わりづらく、実店舗で販売する意味合いも強いため、この観点からも香りのあるものが有効であると考えた。コンセプトとして、非日常的空間の体感を通し、商品選び・購入を楽しく感じさせ、購入後、バスグッズによっても特別な体験を提供する、というテーマが提案できる。

アーチゲート、動きを感じるエレメントであるワゴンなどの模型を製作し、検討した。同系統の店舗には静的な什器などが設置されているなかで、動きのあるエレメントは、他の店舗との違いを生み出すことが可能である。ファンタジーな雰囲気を醸し出しながら、ショッピングモール内であるため、他店舗と比較して店舗の印象を強くすることができる。また、目につきやすく、商品が目的でなくても多くの人が入店する要素になり、この点はテナント店舗にした理由のひとつとしてもあげられる。そして、このような人々が足を止めたくなるエレメントを店舗内に数か所設けることで、滞在時間の延長にも繋がる。

まとめ

今回の調査や製作を通し、ファンタジー要素・ドリーミーで可愛らしい雰囲気を感じる非日常的な空間は、設計自体に要点があるわけではなく、インテリア・オブジェ・壁や床の色や柄、細かな装飾など、空間内の部分的なエレメントが効いてくると考えられた。それぞれに統一感を持たせることで空間の世界観が表されるため、装飾により空間を演出することが可能になる。日常的な空間を、あるテーマにおける非日常的な空間に演出したい場合、過剰な装飾を何点か行ったり、動きを感じるエレメントを用いたり、体験を促す意識を空間に組み込むことで完成する。この手法を用いれば、今回の研究対象であったファンタジーな世界観の演出だけではなく、テーマ性のある非日常的な空間を創造するさまざまな場面に応用することが可能であり、非日常的な空間の可能性が広がると考える。

参考文献

ヤマダユウ(2014).『カリスマバイヤー、ヤマダユウが教える デザインとセンスで売れるショップ成功のメソッド』.誠文堂新光社

研究を終えて

自身が感じる「非日常」や「ファンタジー要素」を分析することで、この概念を多くの人に受け入れてもらえる提案ができたと思います。空間を、機能だけを集約させた箱にするのではなく、装飾や演出によって人をわくわくさせる世界にできることを知ってもらい、「非日常的空間」の可能性が広がれば幸いです。

メニュー