弘前の真ん中から、集めて広げて。
弘前デザインエリアの拠点づくり
新谷瑛里
平岡研究室
2022 年度卒業
弘前市の中心市街地において、昔から市民が利用する土手町商店街が日常的な賑わいが薄れている状況にある。しかし、土手町商店街付近に「弘前れんが倉庫美術館」が開館したことを契機に、その周辺環境にも新たな賑わいが生しる可能性があると考えた。本研究では、弘前れんが倉庫美術館を基点に新しい役割を提案することで「賑わい」を生み出していく。

はじめに

Ⅰ.1.研究背景

青森県弘前市は城下町であり、特に弘前城周辺では現在でも城下町の風景が色濃く残っているまちである。また、弘前城周辺はその景観を生かし、季節ごとにさくらまつりや雪灯籠祭りなどのイベントを開催している。このことから、青森県の中でも観光客の多いまちである。

近年弘前駅周辺では、都市開発が進み、新たな商業施設や集合住宅が立ち並ぶようになり、弘前城周辺とは対照的に、新たな風景が見えるようになっている。

また、昔から市民が利用している土手町商店街は、店舗経営層の高齢化、空き店舗化により、日常的な賑わいが薄れている状態にある。しかし、土手町商店街近くにあるシードル酒造をリノベーションして建てられた「弘前れんが倉庫美術館」が令和3年度に開館したことを契機に、周辺環境にも新たな賑わいが生じる可能性がある。

Ⅰ.2.研究目的

弘前れんが倉庫美術館を基点に、その周辺環境に弘前市における新しい役割を提案することによって、観光客を含め、市民や弘前の産業にとって「賑わい」を生み出したい。

ここでいう「賑わい」とは、イベントで発生する一過性の賑わいではなく、継続的に人が交流することによって、「賑わい」が弘前市にとって新しい価値を生み出せる状態にあるという意味である。

調査

Ⅱ.敷地調査

Ⅱ.1.弘前市の都市計画

弘前市は、平成26年度に都市づくりの支柱となる「弘前市マスタープラン」を計画している。その一部として「中心市街地を歩いて、出かけたくなる賑わいのあるまち」を目的に、中央弘前駅周辺の将来像と実現に向けた方向性を示した基本構想を提示している。この整備方針の1つに「近接する特徴的な資源と連携した新たな賑わい交流拠点」をつくると述べている。今回の研究では、この整備方針を参考にしてプランを進めていく。

Ⅱ.2.地域コミュニティについて

「賑わい」は、人と人の交流がキーポイントになると考え、現在弘前市中心市街地内で、コミュニティ活動を促している空間について調査した。その結果、交流を促進する目的で設置されている空間は2か所あった。①学生主体の交流空間②用途目的が設定されていない交流空間である。

①の空間は学生の活動場所として、きちんと機能している状態であるが、②の空間は上手く機能していない状態だった。このことから、コミュニティ施設において重要なのは、利用主体やアクティビティを想定し、必要な機能やサービスを提供したり、使用するしくみづくりであると考える。

Ⅱ.3.弘前中心市街地の距離と現状

「弘前駅周辺」、「土手町商店街」、「弘前城(弘前公園)」を弘前の大きなポイントとしてみると、弘前駅から中央弘前駅は歩いておよそ15分の距離に位置し、えきどてプロムナード(オブジェや公園が設置されている遊歩道)・土手町商店街を通ることで弘前の特色を体感しながらまちを歩くことができる。また、中央弘前駅から弘前城(弘前公園)は歩いておよそ20分の距離であり、土手町商店街を経由して歩くことが可能である。

つまり土手町商店街は弘前にとって軸の役割をもち、中央弘前駅は弘前の中間拠点としての位置づけにある。その上、周辺の環境との連携がとりやすい場所ということがわかる。

 

研究方法

Ⅲ.1.3つのエリア分割

敷地調査を踏まえたうえで、弘前市中心市街地は大きく3つのエリアに分けて考えることができると考えた。

東側エリアは「商業地域エリア」である。弘前駅を中心に都市開発が進んでいる地域であり、新しい商業施設や集合住宅・マンションが次々建設されているため、新しい弘前のまちを見ることができる。

西側エリアは「古い町並みエリア」であり、江戸時代頃の街並み、明治時代の古い建物が数多く現存する他、城下町の雰囲気が色濃く残っている状況を活用して1年を通して多様なイベントをエリア内で開催している。よって市民や観光客は、比較的古い町並みエリアに集まりやすい状況だ。

そして、商業地域エリアと古い町並みエリアに挟まれたエリアには、商業地域エリアと古い町並みエリアをつなぐ土手町商店街と、中間拠点としての役割をもつ中央弘前駅がある。他のエリアと比較して、上手く動線が機能しておらず、人同士の交流が、商店街の空き店舗の増加・経営者層の高齢化と共に衰退している状況だ。この問題点から派生して、市民間で交流を促進させるような、市民が自由に利用できる施設がないことも挙げられる。

また、エリア内にある弘前れんが倉庫美術館が開館したことにより、「弘前のデザイン産業をつなぐ場」が大々的に生まれた。このアクションをきっかけに、エリア内に生まれた新しい役割をより拡大させ、弘前のデザイン産業を発展できるような拠点としての位置づけを弘前市内で確立させたい。

Ⅲ.2.デザインエリアが目指すコンセプト

Ⅲ―1を踏まえて土手町商店街や弘前れんが倉庫美術館、中央弘前駅を含んだエリアを「デザインエリア」と称した。デザインエリアを新たな拠点にするにあたり、周りの環境・人との関わりを明確にすることで、デザインエリアとしての空間の意味が分かりやすいと考えた。

これまでの商店街のあり方は、市民にとっても観光客にとっても「商品を売ること」が中心だった。しかし、新たな役割として「弘前のデザイン産業をつなぐこと」、「交流を促進すること」を提案する。

つまり、デザインエリア内において、既存の市民に対して「売る」だけの行為ではなく、「つくる・育てる・学ぶ・繋ぐ」行為を拠点としての目指すべき大きなコンセプトとして掲げ、弘前のデザイン産業の価値をつくる空間を提供していきたい。

観光客に対するコンセプトは少し異なる。観光客にとってのデザインエリアは「立ち寄り・とどまり・見る・つくる」が大きな目的になり、市民と共に賑わい拠点を作り上げるのではないだろうか。これらが上手く機能することで、自然とデザインエリアが賑わい拠点として広く認識されていくと考える。

また、拠点としての位置づけを確立することで、弘前市を面的見た際に、商店街エリア、古い町並みエリア、デザインエリアの3エリアに回遊性をもたらすことが可能だ。その結果、市民や観光客が弘前全体に循環し、弘前全体としても賑わい循環すると考えている。

 

Ⅳ.設計提案

Ⅳ.1.施設内容

つくる・育てる・繋ぐ空間行為として学生、職人、その他市民が集まり、ディスカッションやワークショップ等の活動が出来る場が必要であると考える。また、そのような活動がないときでも作業場として気軽に利用できる雰囲気にすることで、人が自然と集まり、学びが得られる場所としての位置づけをもたせたい。

また、立ち寄り・とどまる空間行為として観光客、インターン生用の宿泊施設をデザインエリア内に設計する。とどまる空間をデザインエリア内に置くことで、商店街エリアや古い町並みエリアとのアクセスが良好になり、その他エリアとの連携を取りやすい。

Ⅳ.2.計画地について

前述した内容を基に、今回の設計に関して最も適切な敷地を決定した。この計画地を選定した理由は2点ある。1点目は土手町商店街から弘前れんが倉庫美術館に連続する敷地なため、デザインエリア内で弘前のデザイン産業を伝えるのに最適である。

2点目は、土手町商店街にとって商店街が本来の賑わいを取り戻すための話し合いの場所として活用できる位置であり、商店街の賑わいを取り戻すきっかけづくりになる点だ。

一方、課題は2点ある。1点目は、商店街から弘前れんが倉庫美術館に行くための歩行ルートについて。歩行ルートが狭く入り組んでわかりづらいため、美術館目的の人しか通行しないこと。

2点目は、商店街側と中央弘前側で高低差が4m程度あり、土手町商店街の中からの通り抜けが不可能な点だ。空間が分断した状態になっているため、商店街と中央弘前駅と美術館が近くにあるにも関わらず、連携が取りづらいことがある。

まとめ

Ⅴ.設計方針

今回の設計提案では、対象敷地の持つ課題の解決とデザインエリアが持つ役割を創造するために、敷地空間の整理を行う。具体的には、商店街~中央弘前駅~弘前れんが倉庫美術館の動線をつなぐ都市空間と施設配置の設計、そして学生・職人・デザイナー・その他市民・観光客の間での交流をもたせる空間として、弘前のデザイン産業を活発なものにする文化施設・滞在施設の提案を行う。

参考文献

Ⅵ.参考文献

1)田根剛「弘前れんが倉庫美術館設計」(『津軽学 津軽のアート特集~歩く見る津軽~』12号、2020年4月)

2)「弘前都市計画マスタープラン」、「中央弘前駅周辺計画プラン」弘前市HP〔http://city.hirosaki.aomori.jp/〕(最終検索日2023年1月15日)

研究を終えて

地元地域の賑わいを生み出す目的から、改めて弘前のことを知ることができた。課題解決型の空間設計を行うにあたり、自身の行いたい設計と課題解決に則した設計とのバランスを調整することが困難だった。

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