Ⅰ.はじめに
サイン計画という言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。我々は施設などで目的の場所まで行きたいとき、ほぼ無意識的に誘導の目印や標識を探す。この場合、その「目印や標識」のことをサインと呼び、サイン計画とはそれらをどこにどのように設置するかという計画のことを指す。私は三年次の卒業制作展において、会場の様々なところに置く案内・誘導サインの作成を担当した。あまり知識がないまま作ったため、所々で思い通りの案内ができなかった。どんなに素晴らしいものを用意しても、その案内部分をしっかりしないと魅力を上手く伝えられないと感じたところから、サイン計画に興味を持った。今回は「サイン」とは何か、ということを踏まえた上でより実用に向けて深め、「魅力的なサイン」とはどういうものかを明らかにすることを目指す。
調査
Ⅱ.サイン計画の基本ついて
サイン計画において、サインとは「目に入る全てのもの」である。そのため、施設等を新しく作る場合はサイン計画も一緒に進めることが理想である。この場合、標識だけでなく建築物、ランドスケープなども全てサインとして作用することを気に留めて検討を重ねる。しかし目に入るもの全てがサインになるとはいえ、一番大きいのはやはり標識などの掲出物であり、ここではそれらについて議論する。まずサインを構成する基本の要素として大きく以下の三点が挙げられる。
- 情報の整理
…どこにどんな情報を掲出するか利用者目線で検討する必要がある。
- 視認性
…サイン自体の分かりやすさ。文字と記号を組み合わせるなどして視認性を高める。
利用者との接点になる。
- 掲出位置・方法
…どのように掲出するか、情報に応じて使い分ける。
図1:掲出位置・方法
また逆にサイン計画を失敗させる原因についても整理すると、三つに大別できる。
- 後付けのサインではカバーしきれない
…施設や道のつくりが複雑すぎることによりサイン計画を用いても思い通りに案内できない。
- サインに記載する情報の未整理
…どこにどんな情報を置けばいいかという検討が足りないことにより、誤解を招く。
- サイン自体のデザイン
…文字だけでの表記、図と文字の情報の不一致、使用フォント、色などにより分かりにくい。
①②については計画部分によるものであり、③はデザインの部分である。
Ⅲ.実用的なサインについて
ここまでサイン計画の様々な要素を述べてきたが、より具体的に考えるにあたって必要不可欠なのが人間の視界についてである。
図2.3:人間の視野角と自然な視野角
図2.3のように、人間の垂直方向の視野の角度は上側約30度、下側約40度であり、自然に視界に入るという観点では、仰角10度以下となる。図4のように例えば、視点の高さが1.5mの時、天井にあるもので自然な視線で視界に入るには7m以上先でなければならない。また壁付け型や自立型で掲出する場合も、なるべく視界に自然に入るように床からサインの中心までの高さを1.3mほどにするのが好ましい。
図4:サインの自然に視界に入る掲出位置
さらに階段付近に設置するサインについては、図5のように上った先、下りた先から見て約10m程先に掲出することが理想である。
図5:階段の昇降部のサインの掲出位置
次にフォントや文字の大きさについてである。まず、フォントはゴシックを使う。大きさに関して、人が判読できる最小の文字のサイズは、6ptと言われている。しかしこれは手に持つなどして至近距離で読めるときの目安であり、サインを読むときにはある程度距離が離れた状態になる。ここで目安になるのが1~2mでは29pt、5mでは57ptという大きさである。人が移動している途中で一か所に視点を留める時間は限られているため、文字が小さくて読めないという問題だけでなく、大きすぎて情報全体を掴めないという問題も起きる可能性があることを頭に入れる必要がある。
研究方法
Ⅳ.考察
実用的なサインを踏まえた上で、「魅力的なサイン」について考える。
例えば地下鉄駅構内を想像してみてほしいのだが、つり下げ型の道順案内等のサインや壁付け型の周辺マップや路線図のサイン、出入り口の壁付け/突き出しのサインなど、様々なサインに溢れている。これらを少し詳しく考えてみると、つり下げ型の道順案内や出入り口付近の壁付け型の出口のサインは、利用者が移動する中で自然と目に入るように掲出され、サイン側から利用者に働きかける「積極的なサイン」と言える。また壁付け型の周辺地図、構内地図、路線図等のサインは、利用者が情報が必要な時に見るため、利用者側から働きかける「消極的なサイン」と言える。
この二つは記載する情報の種類や量から、全てまとめて考察することは難しいため、まず分けて考える。
- 積極的なサイン
積極的なサインでは、基本的に少量の情報を利用者に伝える。利用者はほぼ瞬間的にそのサインから情報を得る。一つのサインを見て行動した先でまたすぐサインを見るというように断続的に情報を与える。ランドスケープや構造自体などもこれに含まれるであろう。ここでは後付けのサインに注目するが、重要なのは視認性である。
ex)改札、出口、トイレの方向、部屋の位置や名前
利用者目線で言うと、視界の中に自然と入ってくるものに意識が向き情報を得ることになる。私はこれを「意識の発火点」と呼びたい。無意識的に動いている中で、ふと意識を持っていかれる、そこに「魅力的なサイン」のヒントが隠されているように思う。
- 消極的なサイン
消極的なサインでは、利用者は何かしらほしい情報を持った状態でサインを見る。そのため重要なのは、利用者が求めるであろう情報を整理し簡潔にまとまることである。
ex)構内地図、周辺地図、時刻表
改めて「魅力的なサイン」について考える。サインは大前提として分かりやすさ、明快さが重要なのだが、それを踏まえた上で、「意識の発火点」という部分からいくつかアプローチが考えられる。地下鉄等公共性、利便性が求められる施設ではなく、観光地やショッピングモール、学校、イベント時などその場所の個性があるところを対象にする。
1.素材…特産品などを素材に利用する、無機質な建物内などで、あえて木など有機的な素材を使う等。
2.色…その地域の代表的な色を使う、自然が多い中で不自然なビビットカラーなどを差し色にする等。
3.形…名産品や特徴をサインの形に採用する、歴史のある地域で、武将の兜をモチーフにする等。
4.特徴的な看板…思い思いの看板を並べる等
一見すると分かりにくくなる要素を並べたように思えるが、発火点となるには秩序と無秩序のバランスが重要である。載せる情報の整理や明快さは共通してあった上で、何か一つの要素に遊び心を入れることで、利用者は心地よく無意識から意識に切り替えられる。4つ目に関してはかなり具体的だが、ラスベガスにみられるようなサインが主役になっている地域もあるため取り上げた。これも単純な道や統一的な街頭などの秩序によって無秩序の看板が味になる。
まとめ
サイン計画において、計画者が気を付けることは
・積極的なサイン、消極的なサイン等掲出する情報の整理
・文字、記号などの視認性
・人間の視野も考慮した掲出位置、方法
・独りよがりにならない魅力的なサイン
の四点であると考える。上から三項目に関しては、最低限抑えるべきことで、その上で「意識の発火点」として何かしら無秩序を取り入れることで本当の意味での魅力的なサインとなる。
今後の展望として、身近な存在である宮城大学などを対象に実際にサイン計画を評価、検討していきたい。
参考文献
赤瀬達三(2013) サインシステム計画学 公共空間と記号の体系. 鹿島出版会
日本サインデザイン協会 (2016) 伝えるデザイン サインデザインをひもとく15章. 鹿島出版会
ロバート・ベンチューリ(1978) ラスベガス. 鹿島出版会