職空間と住空間の一致する住宅の可能性について
―地方の一戸建て店舗併用住宅の提案―
佐々木唯衣
伊藤研究室
2022 年度卒業
20世紀以降の住宅・都市づくりは以前まであった職住一致の暮らしを分離する取り組みでありました。しかし、現代には職住一致の暮らしが生活スタイルとして相応しい場合があるのではないかと考えました。そこで、店舗併用住宅の調査をおこない、現状をまとめ、現代の店舗併用住宅に必要な要素を抽出しました。そして、リノベーションの提案をすると共に、職住一致の暮らしを実現する住宅の設計を考案しました。

はじめに

高度経済成長期の日本は企業の組織化が進み、地方から都心へ経済活動が集中するとともに、都心への人口流入が加速した。それに伴い、20世紀の住宅・都市づくりは以前よりあった職住一致の構造を分離する取り組みであった。また、百貨店の登場により、職住一致の建築や商店街の分離もこうした20世紀初頭から始まった。
こうして都市は拡大し、鉄道や道路の交通網の発達がそれを後押ししたことで、人々は住まいを郊外に移し、昼間は職場のある都市部へ働きに出るという、職住分離のスタイルへと変化していった[1]。
しかし、こうした都市構造は、通勤時間の増加・渋滞によるストレス、住宅地の昼間の空き巣被害、第三空間としてつくられた公園の老朽化と維持管理問題といった問題を引き起こした。
このような問題点から、現代には、生活の場である住宅に職空間を取り込む「職住一致の暮らし」が生活スタイルとして相応しい場合があるのではないかと考えた。また、東京圏に住む20歳代の45.2%が地方移住にやや関心がある~強い関心があると回答しており[2]、特に、地方での戸建ての店舗併用住宅の可能性と新たな提案を検討したい。

調査

店舗併用住宅は1960年代をピークに衰退していった。1963年の総住宅数は2100万戸であり、そのうち「専用住宅」は71.5%、「農林漁業併用住宅」と「店舗その他の併用住宅」合わせて28.5%であった。
対して2008年の総住宅数は5210万戸であり、そのうち「専用住宅」が97.8%と全体の大多数を占め、「店舗その他の併用住宅」は2.2%と1割にも満たない割合となっている[3]。住宅の戸数は全体で増加しているにもかかわらず、併用住宅の新築件数は減少していると言える。
地方都市の商店街では、店舗併用住宅の空き家化・店舗部分の空き店舗化が進んでいる。このように遊休化した店舗併用住宅を賃貸とし、市場に流通させる遊休ストック化が対策として挙げられている。しかし、店舗部分と住居部分が分割されておらず、建物自体の狭さ・老朽化、設備不良といったハードウェア面での課題が存在し、新たに賃貸としてストック化するには、投資や法整備の検討が必要であると考えられる[4]。これらの課題は、地方に建てられる戸建ての店舗併用住宅にもみられる。
本論文では、商店街や繁華街といった立地条件ではなく、持ち家かつ地方の住宅地に建つ併用住宅に着目し、調査を行った。

実態調査
本調査では、店舗と住居をどのように併用もしくは分離しているかはともかく、一つの建物に商業施設と住宅が一体となっている建築を店舗併用住宅と定義付ける。
そのうえで、店舗併用住宅を主なタイプとして10タイプに分類した。
対象:秋田県仙北市と宮城県仙台市に建てられた持ち家タイプの店舗併用住宅10軒
期間:2022年10月~12月
表1.業種タイプ分類
①雑貨・小物品店
⑥ 本・文具店
②飲食店(料亭)
⑦事務所
③飲食店(カフェ)
⑧洋品店
④クリニック
⑨ 生鮮食料品店
⑤美容室
⑩工場
上記の店舗併用住宅に住む方に、①間取り、②住んでいて感じる良い点や便利な点、③住んでいて感じる悪い点や不便な点についてヒアリング調査を行った。
表2.ヒアリング調査結果
共通する良いまたは便利な点
・店と家をすぐ行き来できる(どちらかで呼ばれたときすぐ行ける、対応できる)
・通勤時間がかからない
・地域の人との関りが生まれる、集まりの場になる
・子供がいる場合、子供が普段から親の仕事する姿を見ることで、職への理解が生まれる
・昼間日当たりのいい時間の空間(客席、リビング、キッチン)をお客さんと住人が利用できる
・自分たちが仕事しやすい空間にできる
・常に誰かが家にいるという安心感
・ある程度の家族を感じながら暮らせる
共通する悪いまたは不便な点
・家族「みんなで」一緒にいる時間がない
・仕事の音、匂い問題
・掃除が大変
・店が年中無休で、家にはいるけど外出して遊ぶ時間がない
・プライベートな場所が限られる

調査結果より、家族と地域の人との関り方が通常の住宅とは異なり、住宅そのものが交流の場になることがメリットである。加えて、子供が幼い頃から職を身近なものとして育つ点、家族や職場で不都合が生じた場合すぐに対応できる点と、通勤時間がかからない点が良いと感じていることが分かった。特に、地方に住む人のライフスタイルは車移動が基本になる。そういった点から、併用住宅に住む人にとっては職場と家の移動時間が必要ないこと、店舗を利用する地域の人にとってはすぐ食べに行ける、施術してもらえる、相談できることが互いのメリットである。
反対に、家族が近いからこそのプライベート空間の確保と、本来職空間で収まる作業が住空間にまで浸食されてしまうといったデメリットが明らかになった。

研究方法

調査を踏まえての提案
Ⅰ.飲食店リノベーション
以上の調査で明らかになった点を取り込んだリノベーションを提案する。対象を表1の②飲食店とし、現状の課題を挙げ、引き起こされる理由から解決策を考案した。
対象:秋田県仙北市にある三階建ての併用住宅(5人家族)
構成:一階が店舗(厨房+オープン客席)、二階が店舗(個室)、三階が居住部分
表3.リノベーション課題とその解決策
課題
理由
⑴一階から三階までの行き来が大変
家族の高齢化
三階に住居があるため必ず上がらなければならない
⑵二階の個室客室部分がほとんど使われていない
料理人が2人→1人に
二階での宴会営業をしなくなった
⑶使われない部屋が増えた
家族が6人→5人に
⑵でも述べたように、営業が縮小した
⑷一階にしか料理できる厨房がない(キッチンが共有である)ため、調理の時間が限られる
お客さんを入れるには一階に客席が必要で、それに伴って厨房も一階に (建てた当時は一階を厨房専用にしていたが、増築して一階にも客席を増やした)
三階に当時5人分の住居部分+キッチンを設ける床面積が足りなかった
解決策
⑴一階と二階に住居部分を設ける
⑵厨房も今より小さくする
⑶今までの間取りを変え、主に一階と二階で過ごすことをメインにする
⑷一階のキッチン横にダイニングを設ける
上記が現状を暮らしやすさ重視でおこなった改善であり、さらに解決策のひとつとして、店舗部分と住居部分の間に中間となるスペースを設ける。そうすることで、家族又は従業員の休憩スペースや、お得意さんとの団欒スペースに活用できる。また、ヒアリング調査で「気持ちの切り替えに問題はない」と回答した併用住宅の特徴として、「職と住の空間が階で区切られている」、「同じ階の場合は壁または廊下で職と住の空間がはっきりと区切られている」が挙げられた。このことから、中間スペースは同じ階に職住が存在する場合、気持ちの区切りとしても効果的だと考える。
店舗と住居の分け方については、別棟のように構成し、店側と住居側にそれぞれ玄関を設けることで、今後もし店を辞めるとなっても、住居部分に干渉せず店舗部分を貸し出しできるような空間の分け方が最適だと考える。
その際は導線をシンプルにすることで、店と家をすぐ行き来できるメリット面を活かすことが必要である。
Ⅱ.地方における一戸建て店舗併用住宅のプラン考案
リノベーションの考案より、図1のような二階建てが適当であると考えた。店舗部分と住居部分の割合は、一階が店舗多め、二階が住居多めのとし、それぞれの部分に出入り口と階段を設けた。
また、ブロック構成を縦割りにすることで、将来的に店舗部分を第三者に貸し出した際、住居部分のプライベートな空間に影響がでないよう分けた。キッチン水周りは、利便性と賃貸の可能性を考えて別に設ける。 加えて、新たな要素として中間スペースを設け、その空間と二階店舗部分を第三者が住めるような工夫が必要である。それぞれの空間をパーテーションで仕切るといった、自らの仕事がしやすいように職空間に可変性を持たせることが必要だと考える。
また、併用住宅は家族と過ごす時間が多いため、住居部分の個室はプライベートを確保できるよう配慮も必要である。その分、キッチンダイニングリビングは開放的に空間をとることで、住宅部分から店舗部分への導線を確保する。

まとめ

調査から、地方の戸建ての店舗併用住宅には家族と家族、家族と地域の人との関り方に互いのメリットがみられた。その一例として、地方の飲食店をリノベーションとして新たな要素を取り入れた店舗併用住宅の提案をおこなった。
さらに、今後コロナ影響下での働き方変化によって、一般の戸建て住宅にも職空間の住空間の使い方が応用できることを期待する。

参考文献

[1]建築思潮研究所,『建築設計資料84 店舗併用住宅=商住建築2』,建築資料研究社,2001
[2]第5回 新型コロナウイルス感染症の影響下における
生活意識・行動の変化に関する調査,内閣府政策統括官,2022.7(2022.12.30閲覧)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result5_covid.pdf
[3]平成25年住宅・土地統計調査 結果の概要,第2章 住宅の状況,総務省統計局,2008(2022.07.14閲覧)
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/pdf/kgiy02.pdf
[4]小地沢将之,『賃貸用店舗併用住宅の間取りの特徴- 店舗併用住宅の遊休ストックの市場流動化に向けた検討-』,日本建築学会大会学術講演梗概集,2016.8

研究を終えて

調査を行うなかで、店舗併用住宅に実際に住む人から、予想とは異なる意見が見られるなど新たな発見があった。職住一致の住宅は、住む人だけでなく地域に住まう人からも必要とされる住宅であり、互いにメリットがあることが価値をうむと考える。

また、住人の意見(職住一致のメリット)を提案に取り入れることに加え、さらに自分なりの新たな要素をより設計に取り入れられたらよかった。

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