空き家活用のギャップと自治体の機会の創出について
非公開
伊藤研究室
2022 年度卒業
本研究では自治体で行われている対策を講じた後の問題点、矛盾をを抽出し、自治体として、どのように民間企業と連携すればよいのか、矛盾の穴を埋めるめるためにこれからのとるべき対応について考察し、あり方を探ることを目的とした。

はじめに

近年、空き家戸数が増加傾向であり、その傾向は進学や就職などにより人口が流出する地方になるほど近顕著である。コロナウイルスの感染拡大により新しい生活様式になった今、リモートワークが増え、一定期間別の地域に居住する人や、定年後でなくても移住を検討する人が増えた。本研究では自治体で行われている対策を講じた後の問題点、矛盾をを抽出し、自治体として、どのように民間企業と連携すればよいのか、矛盾の穴を埋めるためにこれからのとるべき対応について考察し、あり方を探ることを目的とした。

調査

1)文献調査

空き家になる背景と問題点を再度分野ごとに分類し、改めて問題点を整理した。現在行われている対策がどの位置、ボリュームゾーンに属し、矛盾があるのかを既往研究から考察した。考えられる問題を抽出し、空き家活用に結び付ける案の仮説を立てる。

(2)現地調査

1の文献調査をもとに、考えられる問題に対して対策を取っていると思われる施設、企業に訪問し考察を行った。

 

空き家活用の矛盾についての分析

既往研究の考察から、空き家問題と、政策の矛盾点を整理すると、空き家バンクは掲載している空き家件数が少ない自治体が多く、写真も少ないため情報のミスマッチに対応できていない。また、移住後は世帯収入が減少する傾向にあるが、改修費や家財など、すぐ用意しなければならない諸経費が多いため、リフォーム補助金などの年齢、活用制限などは緩和するべきであり、移住後の就職サポートも必要だという点があげられる。また、移住者への説明会は実際に地元住民の雰囲気やどういった行事があるのか、生活に直結することがわかりにくく、移住後のサポートがない。特に子育てなどは元の住人との関りが薄いと難しい状態であり、なおさら交流が生まれないことも問題である。子供がいない世帯であると、より交流が生まれないことも問題である。また、受け入れ側のケアとしては自信が住む町を考えるような、参画型の事例がうまくいっていないという課題がある。浅井ら(2018)の研究では、移住を決定づける要件について、自治体の補助は優先度が低いという考察があるが、大屋町、兵庫県旧関宮町、兵庫県旧養父町、島根県隠岐郡海士町の事例46件から移住後の課題点、きっかけを抽出すると、移住経緯としては、就職・転職関連が18件、自然豊かな土地に移住したいという理由が10件、結婚が5件、実家があるという理由が4件、被災理由が4件、紹介が3件、子供の進学が2件であった。転職・就職、田舎暮らしへの希望が大半を占めた。

また、移住後の課題としては、移住者の声として、知人がいない、子供がいなければコミュニティの場に行けない、行政からの案内がわかりにくい、近隣住民のプライベートへの介入が厳しい、といった先住民との人間関係の問題点での回答が多い。経緯に自治体の補助が入っていないことは明らかであり、政策の矛盾点が浮き彫りになっている。移住者がどこに魅力を感じて移住してきたのか、何を求めているのか地元住民が知らない限り受け入れ体制が整わないこと、住民の交流の機会の創出に焦点を当て、矛盾を踏まえて考えられた現行のプロジェクトと、一般的に移住者のギャップを埋める手段として行われているお試し居住の住宅がどのように利用されているのか、実態調査を行った。

 

 

研究方法

1)福島県須賀川市「Wonderful WADA」(須賀川市和田お試し居住)

料金は1日1人につき1,100円であり、間取りは図の通りである。稼働率は利用不可な日程を除き、2022の6月は29日中3日、7月は31日中4日の12.9%、 8    月は31日中の7日の 22.5%、9 月は30日中の29日中96.6%、10月は29日中の3日の10.3%、11月は21日中の13日の 61.9%であり、半年を通して全体で34.5%であった。利用者に関し、運営会社である株式会社テダソチマ担当者数人にヒアリングを行ったところ、自治体が想像するような、移住や定住検討をしているお試し居住としての利用者はおらず、事業や、工事での業者の方が宿泊することがほとんどであるという回答が得られた。移住を重要視しているわけではなく、リモートワークなど、関係人口の創出するような役割だと考えているという回答であった。

 

2)交流の場の創出の調査

移住先での就職支援、子供がいない世帯の交流の場についての支援策

上記に関して、TAMAKAWA UPSYCLE BASEは空き家と倉庫を再活用し、引退した職人の残材等、余っている木材の再利用を目的としている。田舎では40代くらいの女性が活き活きと働く場が少ない。例えばスーパーのパートなど、働きたい場所で働けていないことが多い。引退した職人などが、DIYに興味がある女性に教え、そしてゆくゆくはその商品をデザイナーとしてECサイトで販売する、「働く場の提供」「生活の充実」「創業支援」の場の創出を目的としている。普段関わりのない世代同士がコミュニケーションを図り、繋ぎ、時間はかかるが地域作家の教育となることを目的としている。現在は試行途中でるため、試作品などを販売サイトを「minne」でテスト販売の準備をしている。建物は倉庫を作業場に、近隣の空き家を作業部屋と対話の場として改修作業をしていた。こういった空き家活用は矛盾として挙げた、 移住後の就職サポートの支援と、子育て以外での住民同士の交流を産むことができるため、新しい交流の場として空き家活用のギャップを埋めることができるだろう。

 

3)旧母子生活支援施設の利用

須賀川市母子生活支援施設は、利用者の退去に伴い令和3年4月に廃止となった。これまで、商店街の空き店舗対策や移住定住に繋げるための活動に取り組んできたが、活動を通じ、「ホテル以外の滞在拠点が足りず、貢献したいと考える人の活動に弊害が発生している」という課題に直面していた→同施設を入札、貢献したいと考え改修後は宿泊14部屋、会議室3部屋、トイレ男女各3つ、風呂、キッチン、Wi―Fi設備などを備える予定である。この施設は以前企画された、参画型の街を考える町育て会議への参加者がほぼ集まらなかったことから、よりソフトに交流の場を設けることを目的として考案されている。案としては、須賀川に住む人、訪れた人、子どもたち、あらゆる人にとっての居場所を作り・育てるための取り組みを目的としている。矛盾として挙げた住民の参画型事例の稀薄性を埋めることができ、実際に現在募集している改修ボランティアの参加度や、ワークショップへの希望者も多いことから、これからの町づくりにおいて積極的な参加が期待できる。

 

また、空き家にしない方法として、事前登録などの予防策の調査を行った。自治体、企業の取り組みとして二件記載した。

 

(1)五島市移住定住促進サイト 空き家事前登録制度

空き家になった際のスムーズな活用を促すもので、数年以内に空き家になりそう空き家だけど荷物が残っている、

子どもたちのために空き家を残しているけど、使わないかもしれない可能性がある場合は連絡するという流れである。

五島市職員に問い合わせたところ、事前登録などの詳細な説明会は行っておらず、現状空き家バンクの説明資料だけであった。

 

(2)株式会社こたつ生活介護 活き家登録推進事業

 

高齢者支援施設の取り組みである。入居者以外の外部所有者が登録するわけではなく、法人内として顧客登録を行っている。空き家を窓口に相談し、実際の活用事例の見学会に参加、登録、宣言書を書く流れである。本人と家族の対話を経て、希望に沿う形で活用や売却の支援を行っている。

(登録しておくことで建物の活用を考えている方に情報提供・マッチング。利用希望者と、時期や予算などの条件の調整を行う。

現在登録件数は30件であり、
内訳:売却13件(マンション5件・戸建て8件)
活用3件(助産院1件、デイサービス+地域の居場所1件、事務所+イベント利用1件)
一時利用1件(地域の居場所+イベント)
駐車場1件(建物解体除去後駐車場として活用1件)
在庫:12件

となっている。

予防策として取り上げた事前登録制度は、記載した自治体以外にも数件存在する。しかし、いまだ成功例とはいいがたく、登録することでのメリットを提供するなど、改善する余地があると感じた。

 

まとめ

 今回の調査では、空き家活用を考えるにあたり、人の呼び込みだけを重視するのではなく、地元の人を含め、ある程度盛り上がりが続く場所が必要とされていることがわかった。現地調査を行ったプロジェクトは、居場所をつくる受け皿となっており、世代が違う住民同士のつながり、居場所、機会の誘発をしている。そのように、移住者のために住民との交流の場を設けるのではなく、既にそのような場があることによって、やっと交流の場として機能するのではないかと考えられる。

自治体としては今後、民間と共同でそのような選択肢を様々設けることで、新たな空き家の活用に繋げられると考えた。そのようなコミュニティの場の土壌づくりをしていくことで、地域のブランディングにも繋ると考えられる。

 

参考文献

  • 丸茂みゆき.“ライフステージ以降に伴う「サポート居住の事例」” 2004.
  • 太田裕喜.“移住支援制度と移住プロセスからみる移住促進における課題” 2018.
  • 小田淳子.“聞き取り調査から見える移住定住支援の在り方” 2018.
  • 山口邦雄.“移住支援における空き家借り上げ活用事業に関する研究” 2022.
  • 越智悠.“建築物の改修と「関係人口」に関する研究〜兵庫県美方郡香美町を対象として〜” 2018
  • 同谷正和.“過疎集落における生活環境デザインに関する研究(移住者増加の事例研究)” 2019
  • 犬飼順也.”地方における移住定住の促進に資する都市誘導施設の配置に関する研究” 2021
  • 田淵貴捻.“過疎地域の移住施策における戸建て住宅賃貸化の実態に関する研究” 2019
  • 浅井秀子.“人口減少地域における移住希望者及び移住者の意向調査からみる定住に向けた有効な支援策の検討” 2021
  • 内田貴則.“過疎化した離島における移住者の定着に関する研究” 2020
  • 浅井秀子.地方自治体の移住、定住施策から見る移住者の意向調査ー鳥取県ー” 2019
  • 柏木簾.“移住後の地域生活プロセスからみた定住までの課題” 2019
  • 武田美恵.石垣島における集落規模とIターン希望者の地元組織への関わり方に関する研究” 2015
  • 浅井秀子.“空き家の利活用からみる移住希望者及び移住者の意向調査” 2018
  • コンパクトな街づくりの時代へ.東北産業活性化センター/仙台:日本地域社会研究所.2016
  • 田中輝美.関係人口をつくる定住でも交流でもないローカルイノベーション.木楽舎,2017
  • 藻谷ゆかり.コロナ移住のすすめ.2021
  • 高橋大輔.通りから始まるまちのデザイン.建築資料研究社.2019
  • 米山秀隆.世界の空き家対策公民連携による不動産活用とエリア再生.学芸出版社
  • 五島市移住定住促進サイト https://www.city.goto.nagasaki.jp/iju/030/061/20200820171734.html
  • 株式会社こたつ生活介護 https://www.kotatsu.co.jp/ikiya
  • 鮭川村空き家活用定住促進住宅 学会発表資料

研究を終えて

自身が空き家を所持する可能性が高く、何とかしたいと考えていた空き家について調査を行う貴重な機会となったと思います。勉強だけでは想像することがない現実を、現地調査などを通じ見られたことに感謝したいです。研究を進めながら、空き家について調査をしているのに背景問題ばかりに注力してしまい、迷子になることが多々ありました。いまだ空き家の減少に効果的であると断言できる事例の不足があります。卒業後も学ぶことを忘れず、貢献できるよう努力します。

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