魅せる手作り照明の可能性と商品化の提案
日本人の灯り文化と精神を取り戻す
東優奈
伊藤研究室
2022 年度卒業
現在、蛍光ランプやLEDなどの人口照明の普及により、昼夜を問わず明るく便利な生活ができるようになった。一方、照明を部屋を明るくするだけの機能として捉えるようになり、明かりを楽しむ精神や文化が失われつつあると考えた。本研究は、空間を演出する照明の魅力や可能性を伝え、誰もが手軽に空間をより豊かで魅力的にできることを目的としている。

はじめに

昔の日本人は提灯や行灯を利用することで、和紙に覆われた柔らかな光と暗闇という明暗を楽しんでいた。これに比べて現代では、蛍光ランプや人口照明の普及により照明を部屋を明るくするための機能として捉えるようになった。この問題に着目し、照明の歴史の把握や意識調査、素材研究を通して、現代の日本人に受け入れられやすい照明の特徴を明らかにした。

調査

本研究は、空間を演出する照明の魅力や可能性を伝え、誰もが手軽に空間をより豊かで魅力的にできることを目的としている。しかし、意識調査の結果から、現代の日本人は空間を演出するようなデザイン性の高い照明には関心がないことが明らかになった。よって、まずは一般の人に照明に関心を持ってもらうきっかけづくりが必要であると考えた。そこで、誰もが簡単に作れて愛着が持てるような手作り照明シェードの作成法を確立しようと考えた。本研究は、一般人が照明づくりを楽しむことで、日本人としての灯りを楽しむ文化と精神を取り戻すことを目指す。

研究方法

Ⅰ.制作

1.モチーフ
本研究で制作する照明は、意識調査と素材研究の結果を元に、日本人に受け入れられやすいデザインかつ、一般人が簡単に作れるような素材であることを条件とした。意識調査では、「どのような照明に魅力を感じるか」という問いに対して、「日本風の要素が含まれた照明が好み」という回答が多く見られた。この結果を元に、製作していく照明のデザインの方向性を、和風の要素があるものとした。さらに自身の好みを造形物や自然現象の中から挙げていき、どの部分に魅力を感じるか造形要素を抽出した結果、和風のイメージとも共通する金魚をモチーフとした照明を制作することが決定した。

2.素材
現在はLEDライトの登場により、従来の白熱電球のような発熱による発火の危険性がないことから、自由に素材を選択して照明づくりを楽しめるようになったと言える。そこで、本研究で使用する素材として、乾くと透ける粘土「すけるくん」を選定した。この素材を選定した理由は、一般的な粘土のように細かい造形の表現や着色が可能な上、乾くと透明感が出て固く丈夫になるためである。この素材を用いて、ペンダントライト・デスクランプ・シーリングライト用の飾りを制作した。これらは全て、明かりをつけていない時でもオブジェとして空間を演出できる。

Ⅱ.商品化の提案

本研究の狙いは、⼀般の⼈が挑戦したいと思える⼿作り照明キットを提案することである。そこで、⼿作りキットの需要や難易度を設定するため市場調査を行った。 しかし、「細かな作業が苦手」「失敗しそう」「⼿間がかかりそう」という完成度に対する不安の意⾒があり、実際、粘⼟が完全に硬化するまで約1 週間を要する点や、着⾊や細かい造形の表現に⼿間がかかる点からも、一から照明を⼿作りするキットの商品化は難しいと考えた。そこで以下のような一般の人が気軽に挑戦できる手作りキットを提案する。
・照明のモチーフやデザインが決まっている。
・透ける粘土で作られたパーツはあらかじめ提供する。
・パーツの配置例の説明書を封入する。
このように、作者の技量に左右されやすい工程は簡略化し、⼿間や失敗するリスクを減らしながら、⾃分でパーツの配置を決めてオリジナルの照明づくりに挑戦できるキットがふさわしいといえる。

まとめ

今回制作した照明を「どのような場所に設置したいか」アンケートで調査した結果、一般の住宅はもちろん、透ける粘土の柔らかな光の特徴を活かせる和風の飲食店や民家などに需要があることが分かった。
また、近年シンプルなシーリングライトが多く販売されていることから、シーリングライトの飾りはダイニングやリビングを簡単に華やかにするためのものとして需要があると分かった。

参考文献

研究を終えて

本研究では、日本人の灯り文化を取り戻すことを目的として照明を制作しました。日本人の灯り文化とは、灯りを楽しむ心を取り戻すことを意味しています。今回、現代の日本で魅力的に思われる照明器具を提案したことで、空間を演出する照明の可能性が伝わり、誰もが空間を豊かにできるようになればいいと思います。

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