自然公園利用の可能性を広げる宿泊・研修施設
三浦綾音
小地沢研究室
2022 年度卒業
自然公園とは優れた自然の風景地を保護する目的で指定される制度である。自然公園の一部は集落が形成されており、そのような地域は人口減少や高齢化が著しく進んでいることから、適切に管理されていない空き家が発生している。本研究では、空き家の管理実態を明らかにし、自然公園内における空き家の新たな管理手法の検討へと繋げることを目的に研究を行い、集落組織中心の空き家管理の基盤となる施設を設計した。

はじめに

日本では、優れた自然の風景地を保護すると共に、その利用の増進を図る目的で多くの風景地が自然公園に指定されている。また、日本の自然公園は狭小なことから、土地の所有権に関わらず一定の要件を満たす地域を公園として指定し、公園内で行われる各種行為を規制する「地域制」と呼ばれる公園制度を設けている。そのため、公園内には国有地のみならず、私有地が存在し、公園の管理は国や自治体、民間事業者、土地所有者、地域住民等が協働して管理することが前提とされている。

しかし、山間部では人口減少や高齢化が著しく進んでおり、これが協働管理を行う上で市民側の担い手不足に繋がる恐れがある。特に、公園内にある空き家は所有者が不明であったり、後継の管理者がいなかったりと適切な管理を長期的に継続できることは困難である。一方で、廃屋の放置は景観の悪化はもちろん、ゴミの不法投棄や野生動物の住処になる恐れがある等の問題がある。これを受けて環境省では、公園の利用面の強化を図るため、2021年4月に自然公園法を一部改正し、利用拠点整備改善計画制度が新設された。この改正により、温泉街等では市町村と事業者らからなる協議会を設置し、改善計画について知事の許可を受ければ、自然と調和した街並みづくり等を行う一環として空き家の撤去等を補助金でできるようになった。しかし、過疎集落における活用は想定されていない。

そこで、本研究では廃屋化した住宅のある自然公園内の過疎集落を対象に、空き家の管理実態と課題を明らかにし、新たな廃屋管理手法の検討へと繋げると目的とする。

調査

対象は二口峡谷自然公園に属する奥新川地区と越後三山只見国定公園に属する塩沢地区の2地区を選定した。

奥新川地区は仙台市青葉区の最西端に位置する。当地区は大正初期に人口600人の集落が形成され、JR仙山線が全通し奥新川駅が開業する1937年まで、建設作業員を中心とした工事集落として、鉄道やトンネルの開通式を行う程の賑わいがあった。しかし、鉄道の開通と共に工事作業員は集落を離れ、1960年を境に森林鉄道の廃止や鉱山の閉山に伴って人口は減少していき、現在は3世帯3人の集落となっている。自然公園は1947年に指定され、作並温泉や秋保温泉等を含む仙台市域の南西部一帯を占める。

塩沢地区は福島県南会津郡只見町の北東に位置する。当地区は1960年代に滝ダムの建設により、JR只見線の会津塩沢駅周辺の土地に集団で高台移転した集落であり、集落形成後に自然公園に指定された。過疎化・高齢化が進行しており、現在22世帯43人の集落となっている。当地区は、2021年に只見柳津県立自然公園が越後三山只見国定公園へ編入するに伴い、蒲生岳の山岳景観を保全するため、その一帯を公園区域として拡張した際に新しく指定された地区である。

調査方法は、各地区の空き家の状態について、市町村の担当者の把握状況、集落の代表者の把握状況、建築物の実際の状況が合致しているか調査を行う。

奥新川地区では、2022年6月4日、7月17日および9月25日に調査を行った。塩沢地区では、2022年11月9日~12日にかけて調査を行った。

研究方法

奥新川地区では、2017年に奥新川自然振興会の発足によって自然公園内に新しい交流が生まれたことから、市営キャンプ場の跡地を活用した宿泊・研修施設の設計を行う。振興会との交流や自然公園内の宿泊など自然公園の利用の幅を広げることで、交流人口を増やし、訪れる人が当地区に関心を持つきっかけとなる。

建物のヴォリュームを小さく、奥新川駅からの動線と作並や新川川からの動線に沿って形作ることで、自然景観に配慮しつつも訪れる人の目につきやすく、自然公園での新しい過ごし方を訪れる人自身が決められる施設となる。

まとめ

奥新川地区と塩沢地区の空き家どちらも、特定空き家の条件を満たす若しくは今後特定空き家になる可能性を持っていることが確認できた。行政の空き家利活用の促しに対して所有者の応答が無かったり、過疎集落が自然公園法の利用拠点整備改善計画制度に該当しないことから、行政が今後新たに空き家に対してアプローチを行うことは難しいと考える。

したがって、空き家の管理活動は、行政依存から脱却し、集落の住民らを中心とした活動に展開すべきだと考える。

参考文献

1)笠岡達男,東海林克彦,鳥居敏男,橋本善太郎(1994):都道府県立自然公園における保全の実態と分析,ランドスケープ研究,Vol.58-5,pp.237-240

2)遊佐敏彦,後藤春彦,鞍打大輔,村上佳代(2006):中山間地域における空き家およびその管理の実態に関する研究:山梨県早川町を事例として,日本建築学会計画系論文集,Vol.71,pp.111-118

3)片野洋平(2015):不在村者による家屋管理の条件~鳥取県日南町の事例から~,計画行政,Vol.38-3,pp.65-74

研究を終えて

本研究を行うにあたり、終始適切な助言と丁寧な指導をして下さった教授、ご多忙にも関わらず快く調査にご協力頂いた各地区の方々に感謝いたします。

最後に、研究を行う上で研究室のメンバーには常に刺激され、精神的にも支えられました。本当にありがとうございました。

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