里を綴る
-石巻市街地の空白を考える-
宮本恵実
平岡研究室
2022 年度卒業
マンガの街として有名な石巻市には、震災以後アート文化が根付き始めており、作家の移住も見られる。一方で市民にアートはなじみきっていない現状がある。この設計では、石巻市街地で起こるアートシーンをより活性化させるとともに、市民が自主的かつ継続的にこれを受け継いでいくための場づくりをデザインする。

はじめに

東日本大震災によって甚大な被害を受けた石巻市には約10年の時を経た現在、「アート」「音楽」「食」の総合芸術祭であるRebornArt-Festival(以下、RAFとする)を皮切りに、現代アート作家の拠点が点在し新たな文化活動が芽吹き始めている。一方でアートに対する市民の関心はまだまだ低いのが現状である。では、市民は本当にアートに興味が無いのだろうか。それは街を歩けば容易に否定できる。ウォールアート、商店街のシャッター、個人商店の店先のチラシ、市街地の至る所に市民の自由な遊び心が溢れている。そんな市民の遊び心を、震災によって空白化した土地にのびのびと拡げてみたらどんなことが起こるだろう。この設計では、石巻市街地で起こるアートシーンをより活性化させるとともに、市民が自主的かつ継続的にこれを受け継いでいくための場づくりをデザインする。

調査

Ⅱ.市街地の現況調査

Ⅱ.1.震災前後の空き地調査

図1

図1は2011年及び2022年における石巻市街地の土地利用状況を表したものである。黒色で塗られた箇所が道路や建物によって利用されている土地を、白色で塗られた土地はそれ以外の土地を表している。道路の幅員は震災前後で大きな変化は見られない。建物の数は左図より、震災以前は縦に並ぶ大通りに沿って、建物が密集していることがわかる。一方右図から震災以後は建物の数が大幅に減少している。空洞となった土地は空き地、月極駐車場及びコインパーキングとなっていた。
Ⅱ.2.建物のオモテとウラ
図1において建物の出入口及び歩道へのアプローチがある箇所を「オモテ」、それ以外の建物の裏側及び空き地と面している箇所を「ウラ」としてプロットしてみると、2011年は商店街・大通りに沿ってオモテが立ち並んでいる。さらに住宅が密集しているため空き地や駐車場が少なくウラが少ない。2022年は通りに面するオモテが減少し、空き地が増えたことによってウラが増えたことがわかる。それぞれのウラで囲まれた面積はその多くが歩道に面しており、歩道からウラの面が露見しているといえる。
Ⅲ.石巻の文化・芸術活動

Ⅲ.1. マンガ文化
1995年から「石巻まんがランド構想」が計画されて以降、市を挙げてまんが文化を活用したまちづくりを振興している。石ノ森萬画館をはじめとして、図2に記す「マンガロード」と呼ばれる、石ノ森章太郎氏の作品にちなんだモニュメントが並ぶ商店街が整備されている。これは石ノ森漫画館及びアイトピア通りを動線としたルートで、モニュメントを巡ることによるまち歩きを誘導する。また、マンガ関連のイベントも一年を通して行われ、県内外からの集客を集める。
Ⅱ.2. アート活動と拠点

図2


震災後、各地から芸術活動での支援が行われたことによって、市街地にアート活動の拠点がつくられていった。図2を見ると市街地にアート活動拠点が点在していることがわかる。旧観慶丸商店は、1930年に建てられた石巻初の百貨店であり、2017年から1階を文化交流スぺースとしている。
キワマリ荘は2018年にRAF参加作家である有馬かおる氏によって設立された。4つのギャラリーを持ち、所属する作家の作品展示を行っている。ART DRUG CENTERは先述の有馬氏が1996年から2006年にかけて愛知県で運営していたスペースを2019年に石巻で復活させたものである。アートギャラリーとして個展の開催を行っている。THE ROOMERS’GARDENは2021年に設置されたギャラリーである。RAFを訪れたことを機に美術家となった若手作家が制作・運営を行う。く・ら・らは2019年に開設した、社会福祉施設石巻祥心会の利用者の作品が展示されているスペースである。BLUERESISTANCEはライブハウスであり、2012年に「東北ライブハウス大作戦」プロジェクトによって設置された。シアターキネマティカは2022年に設置された劇場型エンタメ施設である。劇場とカフェが併設され、映画や演劇の上演を行う。

研究方法

Ⅳ.設計
Ⅳ.1.設計の目的と手法
石巻市民とアート活動(作家)の間には距離があるといえる。石巻のアート活動をより活性化していくためには市民の理解や協力が必要であり「石巻の文化としてのアート」を形作るものと考える。そこで

① 市民がアート活動に参加できる
② 作家が活動を表へ展開する
を目的として都市空間や施設のデザインを行う。
設計の手法としては、石巻市民のふるまいをまち歩きスナップや石巻市街地で行われている活動・イベントから抽出し、それらをもとにプログラムを構成する。
Ⅳ.2.コンセプト
「綴る」をキーワードに以下の設計コンセプトを設定する。
1)「まちの空白を綴る」震災後を受け、石巻市街地に発
生した空白をつぎ合わせる
2)「思い思いに綴る」言葉をつらねるように自由な市民
活動を、かさねる
3)「文化を綴る」石巻市で巻き起こる文化活動を後世へ
描き残す
Ⅳ.3.計画地
Ⅳ.1.計画地の概要

図3


計画地(図3)は商業地域内に位置し、建蔽率80%、容積率500%、総面積2336m²である。たちまち商店街や寿町通り及び橋通りといった石巻市街地の主要道路と面している。たちまち商店街を通過しアイトピア通りを抜けていくマンガロードに対してのアプローチと、寿町通り及び橋通りへの引き込みを図る。
また、この敷地にはかつて柏屋とよばれる玩具屋があり、2017年及び2019年に開催されたRAFの展示場所となっていた。2022年現在は取り壊されている。旧柏屋では展示だけでなく、ポップアップショップや作家による公開制作が行われていたため、RAFにとって重要な展示場所であったと予測できる。寿町通り及び橋通りに面する敷地は、ギャラリー展示を行うキワマリ荘と隣接している。

Ⅳ.2.敷地の分析

(A)

(B)

この敷地は多くのウラに面している。そのため、ウラを利用した多様な表情を持たせることができると考える。
A)は空き店舗と隣接しており、9mの壁に面している。B)はキワマリ荘の壁面に面している。キワマリ荘の1階部分には外部空間にアプローチしたギャラリー窓が設置されているが、隣接するマンションの駐車場の一部と隣接しているため、フェンスで塞がれている。

まとめ

1.マンガ×アートの可能性
以前より石巻市に根付いていたマンガ文化と新たに根付き始めたアート文化が融合する手法を検討しつつ、制作を進めたい。既存のマンガロードとの関係性も考慮する必要がある。
2.オモテとウラ
約11年という短い歳月で震災や社会情勢によって市街地は大きく変化したことがわかった。市街地は空き店舗、空き地及び駐車場等が急増し空白が目立つようになり、オモテが減り、ウラが増えた。こうした事実はただ悲観するのにはまだ早いだろう。ウラは、区画された土地に風や光を通し、市民にキャンパスとしての壁を提供、憩いの場を創出する場となる。市街地全体をキャンパスとして新たに市民らが塗り替えていける余地と、それを可能にできる市民がいると考える。今後は市民自身で主体的にアート活動ができる居場所づくりを設計していく。

参考文献

1)Reborn-Art Festival HP .https://www.reborn-artfes.
jp/(参照2023-01-03)
2)Reborn-Art Festival official guidebook.2021
3)ゼンリン. 2011.住宅地図石巻市①
4)ゼンリン.2019.住宅地図石巻市①
5)ホルヘ・アルマザン+Studiolab.2022.『東京の創発的ア
ーバニズム』.学芸出版社.
6)乾久美子ら.2014.『小さな風景からの学び』,TOTO出版.

研究を終えて

石巻市街地に点在している石巻市民による制作物(ウォールアートや店頭のチラシ等)から、石巻市民のふるまいを読み取り、制作に反映することが目標であったが、それを満足にできなかったことが心残りである。スケジュール管理など課題として残った問題は、これを機に改善していきたい。

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