失われない「結び」の実現
-二十人町に見いだす界隈性創造の手法-
大内梨央
平岡研究室
2022 年度卒業
本研究では、賑わいや地域性、風景などの「街の人々が作り上げていくその街特有の良さ」を「結び」と定義し、事業を行った街の都市機能と共存し、時代の変遷によって失われることのない長期的に続く、この街特有の新しい「結び」を生み出す手法を空間として提案することを目的とする。仙台市で土地区画整理が行われた二十人町を対象に空間を提案し、最終的に仙台駅を中心とした東西の「結び」の創出に繋がっていくことを期待する。

はじめに

研究背景

現在、日本国内では多くの街で再開発事業や土地区画整理事業が行われている。これらの事業が行われる理由は様々であるが、都市機能の低下が見られる街において土地の高度利用と都市機能の更新を図ること等が挙げられる。そして、事業が実施された街は交通の利便性や防災機能の向上などの見込みがある。また、施設が新たにつくられることで街に新しい人口が入り、街のコミュニティが再形成される。しかし、このように良い面がある一方で、再開発事業や土地区画整理事業により今までの街が持っていた良い姿も失われてしまう可能性がある。長い年月を経て街の人々が育ててきた、その街特有の賑わいや地域性などをこの先の未来に繋ぐことが出来ない。そのため、事業実施後の街においての賑わいや地域性等の存続方法を今一度見直すべきだと考える。

研究目的

本研究では、賑わいや地域性、風景などの「街の人々が作り上げていくその街特有の良さ」を「結び」と呼び、再開発事業や土地区画整理事業が実施された街の都市機能等と共存して、時代の変遷によって失われることのない長期的に続くこの街特有の新しい「結び」を生み出す手法を空間として提案することを目的とする。

「結び」とは

本研究における「結び」には、人と人を結ぶ、表と裏を結ぶ、過去の街と未来の街を結ぶという意味合いが含まれている。その場所に住む人々や訪れた人々同士が出会うこと、開放的な表通りと閉鎖的で混沌とした裏通りという表裏の緩衝点など、事業の影響を受けた街が新たな良さを作り上げていくことに加担する存在同士を結びつけるという意味である。「結び」を生みだす手法を空間で提案する設計段階で、「結び」に込められた意味と都市機能との共存を一つの軸として用いていく。

調査

1. 対象エリア

仙台市宮城野区二十人町は土地区画整理事業が実施された地域であり、その影響によって従来の街から変化した様子がみられた。そこで「結び」を生み出す手法を空間として提案するために、仙台市の土地区画整理事業である「仙台駅東第二土地区画整理事業」が行われた二十人町が対象エリアとして相応しいと考えた。

2. 二十人町について

二十人町は、戦前は庶民的な街として栄えたエリアだったが、1937年の日中全面戦争以降に軍事を優先する統制経済による影響を受けた。その結果、二十人町の店舗は閉鎖という結末に追い込まれていき、太平洋戦争期には店主達が軍需産業へ強制動員されていった。また、1945年の仙台空襲では商店街の一部が焼失してしまう被害も受けている。しかし、戦後の二十人町は比較的被害が少なく、駅に近い下町として仙台では有数の活きた街となった。街は活気にあふれ、昭和には商店数が増加傾向だった。しかし、1956年の片倉工場の閉鎖等の影響により、商店街は存立基盤を失っていき、1985年に事業に着手されることとなった。二十人町は仙台市の土地区画整理事業「仙台駅東第二土地区画整理事業」の対象地域として含まれている。

3. 仙台駅東第二土地区画整理事業について

仙台市の土地区画整理事業の目的は、「道路、公園等の公共施設の整備改善」、「市街地環境の更新」、「健全かつ機能的な市街地形成と宅地の利用増進を図ること」が挙げられる。仙台駅東第二土地区画整理事業の事業紹介によると、事業着手前の状況は、商業・業務地と住宅地が無秩序に混在していたと述べられている。城下町の町割りに由来した敷地の形態により、狭小な短冊形宅地や裏宅地が多かった。これらは道路密度の低さとあいまって、都市防災や環境衛生の面で大きな問題を抱えていた。また、地区を東西に貫く二つの路線はいずれも幅員7.0m程度と狭く、その上一方通行であったため、終日混雑し、沿道の商業や住環境に悪影響を与えていた。そのような中で1985年に都市計画が決定し、1988年には事業計画が決定した。整備方針は、仙台市の新基本計画である仙台21プランと仙台市都市ビジョンに基づく。そこでは、「高次な都市機能の集積や都心定住」、「宅地の整備推進」、「住民を主体とした街づくり組織の形成誘導」、「緑が多く美しい街並み形成に向けた取り組み支援」等が抜粋して挙げられていた。

4. 二十人町の人口

図.二十人町 世帯数・人口変遷グラフ

二十人町の1989年からの人口データを確認し、このエリアにおける人口の変遷を確認した。その結果、1989年から2011年までは世帯数、人口総数ともに減少傾向にあることが分かった。2012年以降はどちらのデータも増加傾向にあり、2022年10月時点でのデータは世帯数、人口総数ともに1989年以降最多となっている。
しかし、各年の人口総数を世帯数で割った値である1世帯当たりの平均人数を確認したところ、1989年以降から現在まで減少傾向が見られた。このことから、2011年まではもともとこのエリアに住んでいた住民がエリア外に出ていく状況が増加して、2012年を境に外部から新しく人が流れてきたということが考えられる。また、1世帯当たりの平均人数が減少傾向ということから、以前よりも子供がいる家庭等が減少しており、一人暮らしの割合が増えているということが分かった。実際、2022年10月の1世帯当たりの平均人数はおよそ1.54と1世帯当たりに2人以上で住んでいる人が少なくなったことがわかる。

5. 現地調査での気づき、課題点

二十人町での賑わいや都市機能の現状を把握するために現地調査を行った。その結果、主に以下の3点に着目した。

  1.  拡幅された道幅が広く、建築や街と人の間に距離が生まれてしまっている。
  2.  街区同士の繋がりが感じられず、大通りが車のために、存在している。
  3. 仙台駅の西側に比べて、商業機能よりも暮らしと商業の混合したエリアである。

6. 対象理由

前述より、土地区画整理事業により変化した二十人町のヒューマンスケールな界隈性や活気の再生を試みたいと考えた。また、仙台駅を中心とした東西の様子を比較した際、東側よりも西側にはアーケード街を軸に多くの店舗や公園などで複数の街が賑わっているということを感じた。そこで、東側エリアも西側のようにこのエリアにおける「結び」を発生させ、仙台駅を中心とした東西の「結び」の創出に繋げたいと考えた。

 

研究方法

 1. ネットワーク図の活用

「結び」の空間の設計を行う上で、前期研究で作成したネットワーク図を改良し、界隈性を生むと考えられる要素同士の相互関係を利用すれば、界隈空間の設計に活用することが可能になるのではないかという考えから、「空間」「行動」「心象」の3つの特性を元にしたパターンからネットワーク図を作成した。このネットワーク図は「かいわい 日本の都市空間」で語られている「かいわい」についての特性を、私なりに解釈し、それぞれの特性がどのように相互で関係しているかを視覚的に理解しやすくし、都市ごとの計画に落とし込みやすくするために作成した1つの道具である。要素同士の相互関係から、ネットワーク図によって全体の繋がりを把握することができたため、全要素から都市や地域に応じていくつかの要素を抜き出すことで、その要素は界隈空間の設計に活かす事が出来ると考えた。

 

図.前期研究で作成したネットワーク図

 

図.3つの特性に分類した要素リストと要素の関係性一覧表(1:空間×空間、2:空間×行動、3:空間×心象、4:行動×心象)

「結び」への4つのSTEP

2. 目指すコンセプト

二十人町は仙台市中心部に接しているエリアである。事前の調査より、土地区画整理事業による影響を強く受けているエリアであり、再開発事業によって得られた利便性に富んだ都市機能や人口の入れ替えによる少人数世帯の存在をもつ。そのような現在の二十人町において、そこに存在する人々が出会い、自然と交流するような「きっかけ」や車通りの多い大通りとそこから奥に入ると出てくる裏通りの「緩衝となる存在」、さらには再開発事業によって生まれた大きな都市スケールと人々の歩行行動を中心としたヒューマンスケールが「一体となるような仕組み」を、「結び」という考えによって実現したい。

 3. 達成のための活用方法

二十人町で「結び」を実現するために、作成したネットワーク図を活用して設計の手立てとなる要素を探し出す。現在の二十人町に見られる空間、行動、心象の3つの特性を一つずつ挙げ、その特性のもつ相互関係の接続を、ネットワーク図を用いて確認する。そこで3つの特性と繋がった要素を一次要素とし、現れた要素同士の相互関係を設計過程において結ぶことでいくつかの組み合わせのパターンを作成し、これらを元に空間を考えていく。調査から得た情報を抜き出し、そこから作成したパターンを用いることで、界隈空間の設計の検討に活用できるのではないかと考えた。本設計手法を用いることで、大通りの都市機能と街区とその周辺が共存しつつ、長期的に継続していける空間の設計を目指した。

4.設計

設計アプローチ

STEP1

空間:駅前、住宅地、通り、ターミナル、都市空間、通りの角

行動:不特定多数、流動

心象:中心、境界、周縁性、裏

STEP2

STEP3

STEP4

 

提案

対象敷地は仙台市宮城野区二十人町の一角である。現在コインパーキングである敷地を3カ所、街区公園である東芝公園、仙台箪笥といたがき資材倉庫の間の街路の、合計5カ所を敷地に設定した。西側には仙台駅、東側には榴岡公園が位置しており、周辺にはマンションやテナントビルが建てられている。

都市スケールで作られた街区内部や街路に、ヒューマンスケールな歩行空間を構築する。

まとめ

本研究を通して、再開発事業や土地区画整理事業による街への影響は非常に強く、街がこの先の未来も長く成長していくためには、事業によって向上していくハード面に対応出来るソフト面の整備が必要不可欠であると考える。大きな都市スケールとヒューマンスケールの結び目として建築はどのように存在していくべきなのか。

私は、再開発事業や土地区画整理事業が行われた街における都市機能と「結び」の長期的な共存の実現が、都市機能や街の方針が変化し続けても、尚街やその街の人々自身によって作り上げられていくための手法として、今後も意識的に考え続けていきたい。そして、いつか一つの手法として確立出来るように努めていきたい。

参考文献

■材野博司,『かいわい 日本の都市空間』, 鹿島出版会, 1978.

■仙台市, 『仙台駅東第二土地区画整理事業 事業紹介』, 仙台市ホームページ, 2016, [http://www.city.sendai.jp/jigyosesan/kurashi/machi/kaihatsu/tochikukaku/sendaieki/shokai/index.html], (参照2023-01-16).

研究を終えて

卒業研究を通して、再開発事業や土地区画整理事業が行われた街の都市機能の重要さと長期にわたる街の雰囲気の創造・保持、加えてそれらの共存の実現が、どれほど容易なものではないかということを認識しました。今後の街づくりにおいて、ハード面とソフト面の両方が共に成長し歩み寄り溶け合うことが街全体により良い影響を与える可能性があるということを念頭に置きながら、これから建築という視点を中心に様々なことに挑戦していきたいです。

最後になりましたが、本研究を進めるにあたり、平岡先生には終始熱心かつ丁寧なご指導をいただきました。心から感謝申し上げます。

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