時の流れを感じる
液体の動きを用いたオブジェの制作
今澤沙知
伊藤研究室
2022 年度卒業
何時何分という刻まれた時間ではなく、区切りのない「流れ」として時間を意識することで、時間との新しい付き合い方ができると考え、このテーマを設定した。時間の流れを感じられる動きを知るために意識調査を実施した結果、多様に変化する液体の動きが挙げられた。この調査を基に、時間の「流れ」を表現するために水とオイルを用いたオブジェを制作した。

はじめに

時間は食事や睡眠など様々な行動の目安になる一方で、「時間に追われる」という言葉のように人を縛ってしまうこともある。そこで、何時何分という刻まれた時間ではなく、区切りのない「流れ」として時間を意識することで、時間との新しい付き合い方ができると考え、このテーマを設定した。

本研究の目的は、時間を「流れ」として意識できるような作品を制作することである。それにより、過ぎることを惜しまずに楽しく過ごすことのできる時間を作り出し、数字で表現される時刻とは異なる時間との付き合い方を模索する。

調査

Ⅰ.時間の感じ方に関する意識調査
1.調査概要
(1)目的:前期では時間の流れの表現方法を調べるために同様の調査を行い(調査期間:2022年7月21日~7月25日、対象:研究室の学生とその家族16名)、流れや連続的な時間を感じる動きとして、見るたびに異なる様子になる一回性、動きのなめらかさが挙げられた。しかし、使用した動画の時間にばらつきがあり平等な比較ができていなかったことから、動画時間を統一しての再調査を行った。これにより、前期調査の結論があっているのか妥当性を確かめる。
(2)対象:宮城大学1年~4年の学生58名(男女比1:2)
(3)使用ツール:formrun
(4)調査期間:2022年11月22日~11月29日
(5)内容:15本の動画(各動画時間は20秒)を視聴し、瞬間的な時間(写真で表現される時間)と連続的な時間(映像で表現される時間)のどちらを強く感じるか、瞬間的を「1」、連続的を「5」として回答者の感じ方に最も近い数字を5段階で選択する。そして、視聴した動画の中でずっと見ていられると感じた動画上位3つを選ぶ。

2.調査結果と前期調査との比較
(1)連続的な時間への回答が多かった動画:連続的な時間を強く感じる動きとして最も票が集まったのは前期調査と同じく⑤インクドロップであり、「5」と回答したのは全体の79%であった。「4・5」と回答した人を合わせると全体の95%を占めている。次いで、「4・5」と回答した割合が多い順に、③カーテンの膨らみ(90%)、⑩オイルタイマー(85%)、⑨からくり時計(81%)、⑮波打ち際(74%)、⑫腕時計「Humism」(72%)となった。前期調査において上記で挙げた動画は「4・5」と回答した割合がどれも7割以上であり、前期調査と本調査の回答傾向は概ね一致している。以上のことから、流れや連続的な時間を感じる動きの要素として、見るたびに異なる様子になる一回性、動きのなめらかさが挙げられることが確かめられた。


(2)ずっと見ていられると感じた動画: 1~3位までの得票数を合計して順位付けを行った。その結果票数が多い順に、⑮波打ち際、⑤インクドロップ、⑩オイルタイマーとなった。前期調査においても順位の前後はあるものの上位3つは同様の動画であることから、動画時間に関わらず多くの人にとって魅力的な動きであることが分かった。
(3)何時何分のような正確な時間ではなく、朝・昼・夕方のような大まかな時間だけを知りたいと思ったことはあるか:「ある」と回答したのは37人で全体の36%、「ない」と回答したのは21人で64%だった。「ある」と回答した人に対して、どのようなときにそう感じるか聞いたところ、大きく2つに分けられた。1つ目は「予定が詰まっているとき」など時間に追われる感覚をなくしたいときである。2つ目は「ゆっくりしているとき」、「おなかがすいたとき」、「起きたとき」など時間の目安を知りたいときである。

研究方法

Ⅰ.試作
1.作品の方向性
調査結果から、時間の流れを感じられる動きとして、波打ち際やインクの広がりなど形が多様に変化する液体の動きがあると分かった。そこで、作品制作ではメイン材料を液体に決めた。そして、見たときに穏やかな気分になれる、時間を「流れ」として意識できるような作品を目指す。具体的には、オイルタイマーの要領で水とオイルの分離を利用した動きで時間の流れを表現する。
2.容器の制作
液体を入れるための容器を厚さ3mmのアクリル板で制作した。作品を展示したときに存在感が出る規模にするために、1パーツのサイズは高さ30cm×幅30cm×奥行き5cmとした。組み立てたアクリルボックスに水を最大(約4.5L)まで入れたところ、水圧による歪みや水漏れの発生があり対策が必要だと分かった。

3.仕組みについて
液体が長く動き続けるための仕組みについて検討した。穴を開けて水が下に落ちる通り口を作るだけでは、穴の大きさによっては落ちる動きが速すぎる場合があった。そこで、通り口部分の水圧を低くし、水の落ちる頻度や量を調節する必要がある。そこで、点滴の仕組みを参考に、チューブの潰し具合で流れ出る水量を調節する方法を試したところ、水の落ちるスピードをある程度調節することができた。

4.液体量を増やして検証
上記のアクリルボックスにオイル1100ml、青く色づけした水500mlを入れて、2タイプの動き方を検証した。1つ目のタイプでは、水を注ぐ容器に2箇所の穴を開けて一本のチューブを通し、両端をワイヤーで挟んで潰すことで水量の調節を狙っている。水はチューブに開けた3箇所の穴から落ちる。実際に水を注いで試した結果、出てくる場所に偏りが生まれた。また、オイルが上昇するための通り口
を作っていなかったため、水を注いですぐに動きが止まってしまった。

2つ目のタイプは容器に穴を開けて短いチューブを通し、それぞれワイヤーで潰している。水の落ちる場所を3箇所作っていたが、2箇所はすぐに止まってしまい、動き続けたのは1箇所だけだった。水が下に落ちきる前に動きは止まってしまったものの、今回は油の通り口を両端に確保したため35分間動き続けた。一方で、水が出てくる動き、下に溜まった水と融合する動きに意識が向いてしまい、水玉の落ちる様子は単調で「流れ」を感じることは難しかった。

5.制作

4つのアクリルボックスが重なり合うことで、朝、昼、夕、夜と時間が移り変わっていくことを表現している。中の仕掛けではゆっくり落ちる動きとランダム性の高い動きの2つのタイプを使用している。

まとめ

試作では、液体を入れる容器について、水圧による変形が起こらないようなサイズ調整と水漏れ対策を施す必要があると分かった。水が落ちる速度については、チューブの潰し具合によってある程度調整することができた。一方で、水玉のサイズが小さいこと、水玉の形状や落ち方が単調で一回性に欠けることが課題として挙げられた。最終成果物では、落ちていく最中に水玉の動きや形状が変化し「流れ」を感じさせるような工夫を加えて制作する必要がある。

参考文献

モネスク(2020)子供でも簡単手作り「オイルタイマー(オイルモーション)」油と水の科学工作 ,  2020年2月22日,https://monesuku.com/science-art-class/27609/(2022年12月19日閲覧).
山本健人(2021)意外に知らない点滴の仕組み・続編~クレンメとチャンバーとは?~,2021年11月17日,https://medical.jiji.com/topics/2361(2023年1月17日閲覧).
吉田麻理子(2022)【実験遊び】「オイルモーション」を家にあるもので作ってみよう!〜素材/キャノーラ油〜,2022年8月31日,https://hoiclue.jp/800012693.html(2022年12月19日閲覧).

研究を終えて

制作を終えて、時の「流れ」を表現するために液体を思うように動かすことの難しさを実感しました。また、まず自分自身が時間との向き合い方を改めて見つめ直す機会にすることができました。作品を通して、少しでも時間の「流れ」の中で過ごすことの心地よさを感じてもらうことができると幸いです。

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