海ごみで作るマリン・カレンシー
―海洋プラスチックごみに付加価値を与える試みー
金谷 佳樹
日原研究室
2022 年度卒業
本研究ではプラスチックのメリット、デメリットを再確認したうえで、消費者が、利点と弱点とを併せ持つプラスチックに対して、どのように向き合うべきか考える機会を与えることを狙いとしている。そこで収集した海洋プラスチックごみを素材として価値あるものに昇華させることを目指す。

はじめに

私たちの身の回りに満ち溢れているプラスチックは、金属や木材、ガラス等その他の素材と比較して生産性が相当に高く総じて安価である。そのことは、大量生産、大量消費の現代において、象徴的存在であるのだが、一方において、弊害を生じさせている。「海洋プラスチックごみ」は、その象徴的弊害だと指摘できる。

海洋プラスチックごみの量は年々増え続けている。2050年頃には、海には魚よりもプラスチックのほうが多くなっていることが予測されている(日本財団ジャーナル、2022)。日本のプラスチックごみのリサイクル率は84%と世界から見ると高い水準であるように思われる。しかし、実態はサーマルリサイクルというごみ発電としての利用が大部分を占め、マテリアルリサイクル(モノからモノに生まれ変わるリサイクル)としての利用性能は、製品素材の劣化が顕著であるため相当に劣っている。その弱点を克服するために(美粧性を高めるために)、用いられているのが添加剤なのだが、それが海ごみとなると、海へ溶出し、魚たちの生態系に悪影響を与えていることが大きな問題となっている。

調査

・プラスチックの歴史

20世紀に入ってからプラスチックの開発が本格的に進んでいった。その理由は軽さや衝撃への強さ、腐りにくさ、絶縁性の高さ、そして用途に合わせて安価に大量生産することが可能であることから、木材や、繊維、ガラス、陶器などを素材にしていたものがプラスチックに置き換えられた。

全世界でのプラスチックの生産量は年々増加しており、1975年に5000万トンだった生産量は2015年には3.8億トンに達している。そして、プラスチックごみの問題が顕著になったのは2018年、中国がリサイクル原料にするためのプラスチック輸入をやめたことが影響している。

・海洋プラスチックごみの現状

海洋プラスチックごみは世界に合計1億5000万トン以上の量が存在していると言われている。そして、毎年約800万トンに及ぶ量が新たに流れ出ていると推定されている。海洋ごみにも様々な種類があるが、最も問題とされているのがプラスチックごみである。なぜなら、その性質上滞留期間が長く、海の生物たちへの影響が甚大であることが挙げられる。これまでに魚類をはじめ、ウミガメや海鳥、クジラなど少なくとも700種ほどに被害をもたらしている。この被害は海洋ごみのうち92%がプラスチックごみによる影響で、餌としてのポリ袋の誤飲、漁網に絡まっての障害死亡等、日常となっている。このような海洋プラスチックごみの大半は私たちの暮らす街からである。街で捨てられたごみが水路や川に流れ出し、やがて海へとたどり着いている。

・マイクロプラスチック問題

マイクロプラスチックとは、微細なプラスチックごみの総称で、5ミリメートル以下のものを言う。マイクロプラスチックの問題点は下記である。

① 回収の困難さにより、海洋中に増え続けること。

② 自然分解されないため、半永久的に海を漂い続けること。

③ 海の生物が摂食しそれが体内に蓄積され、間接的に人間の健康にも影響すると考えられていること。

研究方法

・試作の提案

本研究は、機能性と構造体そして利用法を考慮した下記の内容の「海洋通貨マリン・カレンシー」を提案することとした。

機能性:環境美化運動を誘発してくれる「インセンティブ」をもつ。

構造体:ビーチクリーンで拾った海洋プラスチックを硬貨型(貝殻、ペットボトル)或いは紙幣型に加工する。

利用法:ビーチコーミング等のコミュニティでの利用をきっかけとして、より広い社会性を持った存在へと発展させる。

 

硬貨型マリン・カレンシー制作

① 形・素材:

硬貨型として海洋プラスチック×自然物としての貝殻型硬貨、海洋プラスチック×人工物としてのペットボトルキャップ型硬貨の制作を行った。

② 作業手順:

収集した海洋プラスチックごみを煮沸する。その後いくつかの海洋プラスチックごみを熱加工によって溶着させ、模様を作る。そして、貝殻やキャップに入るようペレット状に砕き、レジンアートの素材として利用した。

 

紙幣型マリン・カレンシー制作

① 形・素材:

収集した海洋プラスチックの中でペレット状にするのが適さない、主にペットボトルのシュリンクラベルを使用した。デザイン的特徴は魚がマイクロプラスチックを摂食していることを表現した。

② 作業手順:

まず収集したシュリンクラベルを熱加工し縮小する。その後、紙幣型のデータを作成しレーザーカッターで裁断。穴の部分にシュリンクラベルとレジンを流し入れ硬化した。穴の部分にシュリンクラベルとレジンを流し入れ硬化した。

まとめ

海洋プラスチックごみをマリン・カレンシーという形で価値を与えることによってビーチコーミングを趣味としている人だけでなく、アートに興味関心がある人にもアプローチすることが出来ると期待される。しかし、マリン・カレンシーは海洋プラスチックごみ問題の直接的な解決方法とはなり得ない。だからこそ、多くの消費者に海洋プラスチックの問題を認識してもらうために、地方公共団体や海岸付近のお店と連携し、ビーチクリーンしてくれた人に対してマリン・カレンシーを渡し、それが加盟店の中で実際の通貨として使われるような機能性を持たせることができたならば、これまでにない親和性をもった環境対策になり得るものと考える。

参考文献

1) 保坂直紀 (2022) 海洋プラスチック. 角川新書 .

2) 磯辺篤彦 (2021) 海洋プラスチックごみ問題の真実

-マイクロプラスチックの実態と未来予測―. 化学同人.

3) ナショナルジオグラフィック (2021) 脱プラスチック

-データで見る課題と解決策―. 日経BPムック.

4)日本財団 (2022) 2050年の海は魚よりもごみが多くなる?今すぐできる2つのアクション.2020年8月25日,

https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/20107/ocean_pollution (2022年7月15日閲覧)  .

研究を終えて

ビーチコーミングを行って感じたことは、砂浜に打ちあがった海洋プラスチックの多くが細かく砕けているということである。そのため、普段我々が何気なく海に行くときに海洋プラスチックの存在に気づかないのではないかと考えた。また、マリン・カレンシー制作にあたってより良い素材探しという意味でビーチクリーンが非常に楽しくなることを実感した。また制作したカレンシーにトレーサビリティ(硬貨の地域性)を与えることができるならば、より価値ある存在として受け入れられるものと感じた。

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