インタラクティブ作品における恥ずかしさの要因調査に基づく作品制作ガイドラインの作成
中野 源己
鈴木研究室
2022 年度卒業
本研究では,インタラクティブ作品の制作時に参考にできる恥ずかしさに関するガイドラインを作成することを目的に,インタラクティブ作品における恥ずかしさの要因調査を行った.その結果,インタラクティブ作品における恥ずかしさの要因が,視線感知,自己乖離,心細さであることを明らかにした.また,これらの要因を整理した作品制作ガイドラインを作成した.

はじめに

1.はじめに

インタラクティブ作品とは,作品に対して鑑賞者が触れる・反応することで成り立つ作品のことであり,その多くはコンピュータによって制御されている.インタラクティブ作品の種類は多く,設置目的も様々だが,共通していえることは,体験者数が多いことが望ましいという点である.

体験者数を多く獲得するという点において,インタラクティブ作品を体験しない人が存在するという問題点がある.想定される理由は,時間がない・興味がない・恥ずかしいの3 つが挙げられる.特に恥ずかしさは制作側の配慮で対処できる可能性があるものの,明確な対処方法が示されることは少ない.

インタラクティブ作品に対して恥ずかしさを感じる層に体験しようと考えさせるためには,恥ずかしさの要因を明らかにし,作品を制作する際に参考にできる具体的なガイドラインが必要である.そこで,本研究では体験者がインタラクティブ作品に対して感じる恥ずかしさの要因に基づいた作品制作ガイドラインを作成することを目的とする.

調査

2.関連研究

インタラクティブ作品と恥ずかしさの関係性について論述している研究はいくつか存在する.

Brignull ら[1] は,パブリックディスプレイを2 つの会場に設置して観察を行うことで,公共空間に設置されたパブリックディスプレイへの参加を促すためのデザイン推奨事項を示した.

牧田ら[2] は,ロボット利用時の恥ずかしさと周囲の体験者の有無との関係を明らかにするため,サクラを用いた実験を行った.

これまでの研究にはデータ分析に基づいた客観的な結果をもとに,作品制作のためのガイドラインを作成したものはなかった.また,これまでの研究の結果は研究対象を限定した状態での結果であるため,そのままインタラクティブ作品全体を扱う研究に適用できるとは限らない.本研究では,客観性を確保するためにデータ分析を行い,インタラクティブ作品全体を研究対象とする.

研究方法

3.本研究のアプローチ

本研究は以下の流れに沿って進める.
• 恥ずかしさの状況収集調査
• 恥ずかしさの要因調査
• ガイドライン作成
• 作品展示を通したガイドラインの信憑性調査

4.恥ずかしさの状況収集調査

本調査では,「恥ずかしさの要因調査」の質問項目を作成することを目的に,自由記述の調査を用いて作品体験に恥ずかしさを感じた状況を収集した.その結果,46 の質問項目を得られた.

5.恥ずかしさの要因調査

本調査では,インタラクティブ作品に対して感じる恥ずかしさの要因を明らかにすることを目的とした.「恥ずかしさの状況収集調査」で得られた46 項目が,恥ずかしさで作品体験を躊躇するという状況においてどの程度恥ずかしさに影響するのかを6 件法で調査した.その後,恥ずかしさの要因を明らかにするために,質問項目の結果の原因となる因子を分析した.その結果,『視線感知』,『自己乖離』,『心細さ』の3 つの因子が得られた.

6.ガイドライン作成

ガイドラインは因子ごとに項目を分けて作成した.分野や掲載物を絞らず,様々な情報を参照し,因子を構成する質問項目の内容等とも照らし合わせながら対策を整理した.作成したガイドラインの概要を以下に示す.

視線感知の対策
• 物理的に視界を遮る
• 視線を集める派手な演出は避ける
• 観客に失敗を伝える演出は避ける
• どんな層が参加しても違和感がない内容にする
• 体験内容が周囲に馴染むようにする

自己乖離の対策
• 誰もがするような行為を体験に組み込む
• 体験者に失敗を悟らせない
• 体験の上手さに差が出ないようにする

心細さの対策
• 体験内容が簡単に理解できるようにする
• いつでも体験をやめられるようにする

7.作品展示を通したガイドラインの信憑性調査

7.1調査目的

本調査は,ガイドラインに沿って作成した作品が恥ずかしさを感じさせない作品になっているかを検証するために行った.また,作品付近の人の動きの観察等を通して,ガイドラインの問題点を発見することも目的とした.

7.2展示作品

展示場所は宮城大学本部棟2 階の事務室前広場とした.今回は,制作したガイドラインに沿ったものと,そうでないものの2 作品を展示する.どちらの作品もプロジェクタによる床面投影のインタラクティブ作品とする.

ガイドラインに沿った作品として「花咲く泉」を制作した.この作品にはシルエットの魚が泳いでおり,人が作品上に立つと足元に花が咲く.花に魚がぶつかると,花がゆっくりと爆発する.

花咲く泉

ガイドラインに沿わない作品として「わくわく!ツカマーレ」を制作した.この作品は,人が作品上に立ち,足元のポインタを駆け回る動物に合わせ,指定のポーズをとることで捕獲演出を発生させるものである.

わくわく!ツカマーレ

7.3調査内容

調査は事前に体験を依頼し,質問紙に回答してもらう依頼調査と,自由に体験してもらい,その様子を記録する自由参加調査の2 つを行う.

依頼調査ではガイドラインが反映された作品と,そうでない作品の印象や,体験者の心理の比較をするために,調査対象者を2 グループに分けた.ガイドラインが反映された作品のグループ(以降A グループと記述)は大学生7 名,ガイドラインが反映されていない作品のグループ(以降Bグループと記述)は大学生6 名を対象に調査を実施した.まず回答者には体験前に離れた場所から作品を見てもらい,作品に対しての興味・恥ずかしさ・視線・自己乖離・心細さがどれほどかを測る質問に回答させた.これにより作品を体験する前の作品に対する興味や恥ずかしさの度合いについてのデータを得る.次に回答者を一人で作品に向かわせ,作品を体験させた.回答者には1 分間作品を体験してもらい,その後作品から離れた場所で体験前と同じ質問を行った.また,体験前後の質問紙の回答はどちらも7 件法で取得した.

自由参加調査は,依頼調査で得られなかった情報を得ることを目的に,できる限り条件が同一の設置日を作品ごとに1 日ずつ選択し,作品周辺に近づいた人の参加した人数・興味は持ったが参加しなかった人数・興味を持たなかった人数とその様子をそれぞれ目視で計測した.

7.4結果

依頼調査の体験前後における質問紙調査の回答を,マン・ホイットニーのU 検定を用いてA グループとB グループの差を比較した.結果を以下に示す.

体験前データ

体験後データ

体験前の恥ずかしさ,視線感知,心細さ,体験後の恥ずかしさ,心細さの項目で有意差が示された.一方で,体験前の興味,自己乖離,体験後の興味,視線感知,自己乖離の項目では有意差は示されなかった.

自由参加調査では,A グループは参加した人が27 名・興味を持ったが参加しなかった人が36 名・興味を持たなかった人が80 名であった.B グループは同じ項目がそれぞれ94 名・76 名・74 名であった.結果をカイ二乗検定を用いて比較した結果,有意水準5% で,有意差が示された(χ2(1) = 27.105, p = 0.000, φ = 0.000).

7.5考察

本実験の結果から,A グループはB グループと比較して恥ずかしさの項目が体験前後に関わらず有意に減少していることが示された.このことから,ガイドラインの主目的であった恥ずかしさの減少は成功したといえる.体験前の視線感知・心細さの項目や,体験後の心細さに関しては有意に減少しており,その他の項目も有意差は得られなかったものの,質問紙の結果より全ての項目が減少していることが示された.これらのことから,ガイドラインを構成する3つの項目について抑制することに成功したといえる.A グループはB グループよりも興味の項目が低い値を示しているが,これは恥ずかしさの要因が作品に興味を持たせる要素も兼ねており,それらを抑制したA グループは低い値を取ったと考えられる.

自由参加ユーザの観察の結果,B グループの参加人数や興味を持った人数が,A グループを大きく上回っていることが示された.このことから,恥ずかしさのガイドラインに反する要素は,人の興味を高める要素も兼ねていることが推測できる.

まとめ

8.まとめと今後の展望

本研究の目的は,体験者がインタラクティブ作品に対して感じる恥ずかしさの要因に基づいた作品制作ガイドラインを作成することであった.そのために作品に対して恥ずかしさを感じた状況を収集し,その状況を分解・単純化して質問項目を作成した.作品における恥ずかしさの要因を知るために,作成した質問項目を用いて調査を行い,得られたデータを因子分析した.調査の結果,作品に対して感じる恥には視線感知,自己乖離,心細さの3 つが関係していることが明らかとなった.得られた要因をもとに対策を整理し,制作に活用できるガイドラインを作成した.また,ガイドラインの効果検証のために2 種類の作品で展示実験を行い,正しく機能していることが示された.

今後の展望として,本研究で作成したガイドラインが作品制作に活用され,より多くの参加者を得ることが期待される.

参考文献

[1] Harry Brignull and Yvonne. Rogers. Enticing people to interact with large public displays in public spaces. In INIERACT’03, pp. 17–24, 2003.
[2] 牧田昌大, 岡藤勇希, 松村耕平, 馬場惇, 中西惇也. 公共空間において恥ずかしさがロボットの利用に与える影
響の調査. In Human-Agent Interaction Symposium 2022, 2022.

研究を終えて

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