音楽の売り方の変遷
ーNFTを用いた音楽配信サービスの提案ー
田口真帆
日原研究室
2022 年度卒業
現在の音楽の売り方の主流はサブスクリプションサービスやCDである。しかし、他のアーティストの売り上げが自身の売り上げに影響するサブスクの仕組みや、特典を付けて売るCDは、音楽への評価とその対価が十分でないように感じる。そこで、NFTを用いた音楽配信サービスを提案する。NFTを用いることで、音楽そのものが評価される売り方を提案する。

はじめに

1990年代後半からCDの売り上げは減り、CD不況と呼ばれる時代になっている。その原因としては、廉価なCDレンタルの普及、ダウンロード販売やサブスクリプションサービスの普及が考えられる。これらに比べると、CDは高額なものであり、そのアーティストに強い思い入れがない限り購入に至らないと考えられる。一方で、現在メジャーなサブスクリプションサービスの仕組みではマイナーなアーティストの利益は少なく、このままでは有名なアーティストしか生き残ることが出来ない。ユーザーの評価がアーティストの利益に直結するような仕組みがあれば音楽業界を盛り上げる力となるのではないかと考える。

調査

文献調査
過去 レコード・CDの時代
1887年に円盤式蓄音機が発明され、今のレコードの原型が生まれた。レコードを聴く場所は自宅の大型オーディオが中心であった。1982年に世界で初めてのCDが発売され、その2年後にCDウォークマンが発売されると、「手軽に外に持ち運べる、頭出しで好きな曲をすぐ聞ける」点が評価され、CDが普及していった。
 現在 配信サービスと特典の時代
1990年代、音楽ファイルを送受信できるソフトウェアが登場し、CDの売り上げが衰退し始めた。2000年代になると、iTunes Music Storeが始まりダウンロード販売が普及し、Spotifyをはじめとするサブスクリプションサービスも登場した。日本レコード協会の生産実績のデータから、サブスクリプションサービスの売上額は2012年から2021年にかけて70倍以上に増えている。現在の音楽の売り方の主流はサブスクリプションサービスであるといえる。
サブスクリプションから生まれる利益
サブスクリプションサービスでは、ユーザーが再生した回数をもとにアーティストへの利益が計算されている。まず、会費収入の約50%が原盤の権利者(レコード会社)に支払われる分である。これに、「各権利者のコンテンツの総再生回数/すべてのコンテンツの総再生回数」を乗じた金額が原盤使用料として各権利者に支払われる。一般的にはこの原盤使用料の10~20%がアーティストの取り分とされている。つまり、この仕組みでは再生回数が多いアーティストほど利益が多くなる。月のユーザー数や他のアーティストの再生回数により収入が変動するが、Apple Musicの平均単価は1再生あたり1.0円前後だと言われている。
売れているCD
現在売れている CD に つ い て 調 査 し た 。 SoundScanJapanの2021年年間シングル・チャートとアルバム・チャートによるといずれも上位10位はアイドルグループが占めている。その要因としてファンの多さと豪華な特典が考えられる。CDを購入することでもらえるオリジナルグッズやランダムなトレーディングカードなどがあり、特典を収集するために1人がCDを複数枚購入することが考えられる。現在売れているCDは音楽そのものよりも特典や人物の人気に支えられていると言える。
CDから生まれる利益
CDを発売した際に、レコード会社はアーティストに対してアーティスト印税を支払う。CDにおけるアーティスト印税は、一般的に次のように計算式を規定している。
(税抜き小売価格-容器代)×印税率×出荷枚数×90%
現在の容器代は税抜き小売価格の10%、印税率は1~3%が相場である。よって、印税率を3%とし、1枚税抜き価格1000円のCDを10000枚出荷したとすると、アーティスト印税は{1000-(1000×10%)}×3%×10000×90%=243000となる。サブスクリプションで同じ額を稼ぐとなると、1再生1.0円、アーティストの取り分を原盤使用料の20%として、121万5000回聞かれる必要がある。
未来 NFTの時代?
NFTとは
近年、新たに音楽を売る方法としてNFTが注目されている。NFTとは、Non Fungible Tokenの略であり、非代替性トークンのことである。デジタルコンテンツの情報や所有者のアドレスをブロックチェーン上に記録することでデジタルコンテンツの所有者を明確にすることができる。このようにNFTは希少性を担保することでデジタルデータに新たな価値を生み出している。さらに、NFT化された作品は転売されるたびに利益の一部がアーティストに還元される仕組みであり、その点もNFTが注目されている理由である。

研究方法

提案するNFTを用いた音楽配信サービスの主な特徴は下記3点である。
① 応援していることが実感できる音楽配信サービス。
② 曲を聴くことがアーティストの応援になる。
③ NFTの要素が、ユーザーとアーティストとの、両方に利益をもたらしてくれる。

サービスの仕組み

応援アーティスト登録と売り上げの可視化
アーティストは一か月ごとにその月の目標売り上げを掲げる。ユーザーは好きなアーティストを応援アーティストに登録すると、自身の再生回数や購入したCDがどのくらい売り上げに貢献しているかを把握できる。
 NFTの要素
目標を達成した際には、貢献度が高い上位のユーザーにNFT化された曲の所有権を与えるなど、アーティスト独自の特別な価値を提供する。所有したNFTは、サービス内のNFTマーケットプレイスで売買することができる。
マイアカウント
ユーザーはマイアカウントを設定することでサービスを使用できる。名前や、髪型・瞳の色などをカスタマイズして自分好みのキャラクターを設定することで愛着を持ってサービスを利用してもらう。
レベルの設定
マイアカウントにレベルを設ける。レベルが上がると1再生あたりの貢献度が1.5%上昇するなど、マイアカウントのスキルが上がっていく仕組みにする。
ミッションの設定
ユーザーが継続してサービスを使用したくなるように、ミッションを用意する。「応援アーティストを1組追加しよう」のように1日でクリアするデイリーミッションと「一週間で合計60回再生しよう」のように数日でクリアするウィークリーミッションを用意する。クリアした際には、ハートやダイヤをゲットできる。ハートを集めるとレベルアップができ、ダイヤを集めるとマイアカウント用のアイテムの購入やNFTマーケットプレイスでの購入に使用できる。
レア度の設定
応援アーティスト登録者数が少ないアーティストにレア度を設定する。レアが付いているうちに応援アーティストに登録したユーザーは、沢山曲を再生することで、少ない登録者の中で上位にランクインし、NFT化された限定の曲を簡単に入手できる。登録者数が増加するとアーティストのレア度がなくなり、レア度が付いていた頃のNFTは所有したいユーザーの増加により高値で取引されるようになる。
サービスマーク
本施策のサービスマークは「and music」とした。当該ロゴ及びシンボルマークのデザインの特徴は、曲を再生して、売り上げ目標である円グラフを丸くしていくことである。音で丸くする、という意味を込めて、soundとroundに共通する音「アウンド」からandとなった。また、音楽はBGMとして聴かれたり、音楽に付随した思い出があったりすることから、「~と音楽」という意味も込めて「and music」と名付ける。

まとめ

今回提案した「and music」は、貢献度の可視化とNFTの活用により、曲を聴くことがお金に換わる、つまり曲を聴くこと自体が音楽の評価となっている。この仕組みによって「音楽そのものが評価される」売り方を考えられたのではないだろうか。NFTを活用することで、将来活躍するアーティストに再生数で投資するような面白さもあり、音楽に興味がない人も取り込める可能性が期待できる。今後、NFT×音楽配信サービスが音楽の売り方の新スタイルとなるかもしれない。

参考文献

1 安藤和宏(2021)よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 6th Edition. 株式会社リットーミュージック.
2 榎本幹郎(2021)音楽が未来を連れてくる. DUBOOKS.
3 一般社団法人日本レコード協会 音楽メディアユーザー実態調査 2021年度. 一般社団法人日本レコード協会,2022年3月.
https://www.riaj.or.jp/f/pdf/report/mediauser/softuser2021.pdf
4 一般社団法人日本レコード協会 生産実績 過去10年間 オーディオ CD合計.
https://www.riaj.or.jp/f/data/annual/ar_cd.html
5 一般社団法人日本レコード協会 音楽配信売り上げ実績過去10年間 全体.
https://www.riaj.or.jp/f/data/annual/dg_all.html
6 SoundScan Japan 2021年音楽ソフト売り上げ動向.billboard JAPAN,2022年2月4日.
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/108490/2
7 IT media NEWS AppleとSpotifyのストリーミング報酬比較で浮かび上がる、音楽コンテンツビジネスの次の戦
略,2021年4月30日.
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2104/30/news071.html
8 The NET Records. https://jp.thenftrecords.com/

研究を終えて

この卒業研究を通して、NFTのことを知り、デジタルデータに新しい価値を生み出すものとして今後より普及していくのではないかと感じた。一方で、法整備などはまだ整っていないため、今回提案した音楽配信サービスは現実的ではない面もある。今後、NFTの仕組みが整えば、音楽の聴き方も変化するかもしれないと思う。

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