コンセプトを色に変える
―コンセプトと色の関係を使用した新たなアプローチの提案―
相原綾
日原研究室
2022 年度卒業
近年の日本の広告において、写真や動画などの視覚情報を共有するビジュアルマーケティングメディアは大きな影響力をもつと考えられる。視覚情報を共有するという特徴を持つビジュアルマーケティングメディアのアプローチの手法として、視覚情報の中で大きな影響力をもつ色を効果的に利用できる方法を検討する。本研究では商品コンセプトを配色に置き換える新たなアプローチの方法を提案する。

はじめに

今日の日本におけるインターネットの保有率と利用率は、それぞれ79.7%、83.4%に達している。特に広告業界では、WEB広告が広告費全体の30%を超えた(2020年)。今や、ソーシャルメディアが、企業と生活者とを紐帯するコミュニケーションチャネルの中心的存在であると指摘できる。

その中にあって、本研究では、写真や動画等の視覚情報を共有するビジュアルマーケティングメディア(以下VMMと表記)に着目した。

本研究は、VMMの手法として、商品コンセプトを色に変換する手法を示すことによって、消費者に対してコンセプトを無意識的に伝えられる「アフォーダンス」を創出できるのではないかと考えた。すなわち、商品コンセプトと配色計画とを一個のプラットフォームの上で紐づけることによりコンセプトを直観的かつ無意識的に理解してもらえるのではないかと考えた。

本研究の目的は、コンセプトを配色に置き換える方法を提案し、その効果を検証することである。

調査

・文献調査

色についての基本的理解を深め、色彩の持つ心理効果や視覚効果を調査する。

 

・モデル「コンセプトを配色に変える方法」

上を踏まえ、モデルの作成は以下の手順で進める。

  • 商品コンセプトに感じられる感情(情動)の抽出。
  • 上記感情因子と色の三属性(色相、彩度、明度)との関係性の体系づけ。
  • 商品コンセプトにおいて重要視すべき因子の決定。
  • 上記因子を用い、商品コンセプトを表す色の決定。
  • 「コンセプトを配色に変える置換方法」の提案。

 

・検証

モデルについて、検証を行う。

 

・制作

上に基づき、感情と色との関係性をまとめ、コンセプトを色に変える置換方法の詳細を記したパンフレット「concept to color」の制作を行う。

 

研究方法

・文献調査

1 色と感情との関係

本研究では、1980年にアメリカの心理学者ロバート・プルチック氏が提唱したプルチックの「色の感情モデル」を色と感情とを分析してゆく上での手がかりとした (図1右)。プルチックは8つの基本感情を一次感情と規定し、2つの基本感情から生まれる混合感情を人間特有の二次感情とした。基本感情では8つの感情に色を当てはめている。また、中央に向かうほど強くはっきりとした感情、輪の外側に向かうほど感情は弱いという四段階の色の濃淡で感情の強さを表している。

2 色の持つ特性

以下に、色の三属性(色相、明度、彩度)とヒトの感覚との関係性を示す。

  1. 温度感覚:ヒトの温度感覚と色彩の「暖色・寒色・中性色」との関係性が深い。
  2. 明度の特性:明度は重量感覚と質量感覚と関係している。高明度の色は軽く感じ、低明度の色は重く感じる。また「質量感覚」においても高明度色は柔らかく、低明度色は固く感じる。
  3. 彩度:色の鮮やかさを表す要素である彩度から、ヒトは、力強さや派手さを感覚する。

3 VMM(ビジュアルマーケティングメディア)

VMMの象徴的事例として写真や動画などのビジュアルを中心としたInstagramがあるが、それは、画像に特化したメディアであるため「ビジュアルマーケティング」としての可能性を秘めていると指摘できる。

4 Instagramの事例

Instagramでの広告プロモーションで注目されるのが化粧品である。アイシャドウなどの例では様々な色を背景画像に用い、商品コンセプトをより強く伝えるため工夫がされている。このことから、VMMにおいてブランドコンセプトを伝える場合、配色戦略が効果的だと指摘できる。

 

・置換方法の提案

色は色相・彩度・明度の三つの属性によって構成されているとされる。そのことから以下の関係性が指摘できる。

  • 色相=感情・温度
  • 明度=質感
  • 彩度=華やかさ(派手さ)

本研究では、上3つの指標(Ⅰ軸/色相=感情・温度、Ⅱ軸/明度=質感、Ⅲ軸/彩度=華やか)によって、1個のコンセプトを評価できるものと考えた。

その内の1つⅠ軸/色相=感情・温度の1つにおける「色相=感情」で決定する色彩を、コンセプトを構成する「メインカラー」と位置付け、「色相=温度」で決定する色彩を、コンセプトを補足的に説明する「テクニカルカラー」と位置付けた。

それぞれ3軸の決定方法は下記である。

Ⅰ軸-1/色相=感情:メインカラー

先ず、本分析の手がかりとしている「プルチックの感情の輪(図1右)」について下記の検証を行った。

  • 感情=色相の組み合わせとの妥当性。例えば、水色=驚き、緑色=恐怖を感じる割合に妥当性はあるのか、否か等。
  • 上記の結果に基づいてより、各分類に当てはまる感情を色相に変換する(例:快→敬愛=黄緑)

Ⅰ軸-2/色相=温度:テクニカルカラー

コンセプトから感じる温度=色彩を参照(図1左)。

Ⅱ軸/明度=質感及びⅢ軸/彩度=華やか:

上記2軸については、Ⅰ軸で決定した色相の明度と彩度を、各ブランドコンセプトから感じる質感と華やかさの5段階評価から決定した。図2は明度と彩度を5段階で表した図であり、コンセプトから感じる質感及び華やかさから明度と彩度を決定する。

図1

図2

 

 

・モデル「コンセプトと配色の置換方法」の具体化

上記までに行った分析の妥当性を測るため、商品がより色の影響を受けると考えられる化粧品のブランドを試料として、検証を行った。手順は以下である。

①感情を大きく快・不快・興奮の3つに分類する。

②各分類にブランドコンセプトを決定する。

③各ブランドコンセプトに基づいて色相・明度・彩度の色の3属性を決定する。

④3属性に基づいて色を3つ決定し、配色として提案する。

また、プルチックの感情の輪妥当性の検証(被験者宮城大学生)結果を置換方法のモデルに反映させ、制作するパンフレット内で感情と色のページを作成する。

 

・検証

今回は上記の置換方法を快・不快・興奮に当てはまると感じるコンセプトを持つ下記3つのブランドに適用した。

  • 快:JILL STUARTより「INNOCENT SEXY」
  • 不快:KATEより「自分を縛るルールを壊せ」
  • 興奮:MAYBELLINEより「個人の多様性を尊重し、メイクの力で自信を与えたい」

検証手順は以下である。

  • 各コンセプトにおいて置換方法を適用し、決定した色相・明度・彩度での背景画像を作成。(図3上)
  • 置換方法を使用せずにランダムによって決定した色相・明度・彩度での背景画像を作成。(図3下)
  • 各ブランドの化粧品を①と②にて作成した画像の上に置いて撮影することで対照実験を行った。(図3)

図3

上記の快・不快・興奮の3つのブランドコンセプトにおいて①~③の手順を行った。以上から、モデル利用のものとそうでないものとの、どちらがよりコンセプトに合っているかを検証した(図4)。

図4

 

・結果

検証結果は以下となった。

検証結果①不快:「自分を縛るルールを壊せ」

コンセプトに合っていると感じる割合:77.8%

商品の魅力が伝わったと感じる割合:64.7%を記録、

検証結果②興奮:「個人の多様性を尊重し、メイクの力で自信を与えたい」

コンセプトに合っていると感じる割合:83.3%

商品の魅力が伝わったと感じる割合:61.1%

検証結果③快:「INNOCENT SEXY」

コンセプトに合っていると感じる割合:33.3%

商品の魅力が伝わったと感じる割合:38.9%

快は上記2つのブランドと比較して低割合の結果となった。

まとめ

本モデルで効果があったのは、「和文コンセプト」であった。対して「欧文コンセプト」についてはとくに「快」の捉え方に問題が残った。今後は欧文コンセプトの分析について考慮する必要があるものと考える。

参考文献

参考文献及びURL

  1. WEB活用術。プルチックの感情の輪 人間の感情の色で分類すると関連性がわかる?(https://swingroot.com/plutchik-emotion/)
  2. ポーポー・ポロダクション(2018)たった1秒で人を見抜く・自分を変える 色と性格の心理学.日本文芸社.
  3. ポーポー・ポロダクション(2020)隠された色の力を知る・使う 決定版 色彩心理学図鑑.日本文芸社.
  4. 株式会社電通 広報局 広報部.「2020年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」(https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0310-010348.html)
  5. ソフトバンクニュース編集部.身近で進むデジタル化、普及率はどのくらい?
    (https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20220421_01)

 

研究を終えて

本研究を終えて、実際のコンセプトを配色に変換した結果、効果を確認できない場面が生じた。このことから、様々な人間の色の感じ方の多様さと言語に対する認識の違いにより言語であるコンセプトを色という視覚情報に変換する難しさを実感することができた。この研究を通してより一層一つの物事を様々な視点から観察・表現することを意識していきたいと感じた。今後は言語の違うコンセプトでは注釈を追加し、再調査することでより研究内容を深めていきたい。

メニュー