ステンドグラスの魅力と新たな提案
高橋香澄
伊藤研究室
2022 年度卒業
歴史的に見るとステンドグラスはキリスト教に起因し、宗教性を失いながら多様な空間や造形に用いられるようになった。意味合いや形状を変えながらも存在し続ける理由はガラスの透明性や色、光の織りなす美しさが芸術的に評価されている点だと考えられる。今後の時代に適応した魅力を持ったステンドグラスと空間を提案し、表現や利用される場面の拡大を目指す。

はじめに

現代の生活や空間がより鮮やかで効果的なものとなる新たなステンドグラスを提案する。
歴史からステンドグラスは基盤となる魅力と時代により変化している特徴はあることが分かった。今後さらに発展していく見込みがあり、ステンドグラスという分野の拡大に価値があると考え、本研究に至った。

調査

ステンドグラスの発生から現代に至るまでの社会的影響や技術、描かれている図像など総合的な観点から歴史の図表を作成した。図表作成の過程でステンドグラスはキリスト教の普及に起因し9世紀頃に文字が読めない教徒にも聖書の内容を理解してもらう役割を持っていた。その後も教会建築様式の変化や印刷技術の発達、宗教改革などの影響を受け、19世紀後半からは徐々に宗教性から離れていき大衆化していった。

宗教性から離脱した20世紀中旬以降のステンドグラスを分類したマップより、今後拡大する可能性のある空き部分に着目し当てはまる新たな魅力や特徴を言語化した。

1.線をメインにしたステンドグラス従来のステンドグラスは色ガラスを結合する目的で鉛が
用いられ、色ガラスと縁取る黒い鉛線がステンドグラスの特徴であった。色ガラスで表現される図柄が主体だったが、鉛線の形状に意味を持たせることで、ステンドグラス自体の美しさに加えより実用的に利用ができると考える。
2.景色との融合
ステンドグラスは色ガラスを利用しておりその図像で独自性を表現するものであったため、それ自体の色使いや図柄が重要視され制作されてきた。外観や空間との兼ね合いは検討されていないことが多い。そこで周辺環境との融合を検討することで外観の美しさを際立たせたり、それらも含めた美しさが評価されるステンドグラスができると考える。
3.立体感と異素材
窓として採光を取り入れるという役割を持っているため、壁や建具に取り付けたり絵画に類似していたり、平面
的なものという認識がある。うねりやねじれを加えて立体的な造形にしたりガラス以外の素材と掛け合わせることで空間の一体感を増したりより装飾性の高い空間を見込める。
4.人工照明との融合
自然光による光の透過や反射による美しさがある一方でステンドグラスの照明器具なども作られている。現代では照明技術が進化し、色温度や照度を制御できる技術は常識になりつつあり、今後さらに照明技術が進化していくことが予想できる。自然光や一定の光による反射や投影だけでなく進化する照明技術と掛け合わせることでより多様な光の演出が可能となる。
5.感情との繋がり
ステンドグラスはキリスト教徒にとって見える聖書で心の拠り所となるものだった。時代や技術の変化により宗教性から離れると感情や心との深い結びつきや意味合いはなくなっていった。現代の人々にとっても心が浄化されるような空間は需要があると考えられる。モダンスタイルの普及から規格化され代わり映えのない空間が増えている中でステンドグラスを活用することで色や光を魅せて心情に変化をもたらす空間ができる。

 

Ⅳ.手法や期待される効果
新たな魅力を持ったステンドグラスを提案するにあたり活用できる技術や素材、それにより期待できる効果は以下の通りと考えられる。
1.色が変化する素材
温度や紫外線照射により色が変化する顔料や塗料が開発され活用されている。特殊な色層が水に濡れると透明になり下地が見えるようになり色が変わったように見える技術も、気温や気候変化など自然の変化による色ガラスの変化に活用できる。光を受けると特定の波長のみが反射する原理を利用した偏光素材も見る角度により様々な表現を可能にする。
2.動くステンドグラス
色光源が動くことに加えステンドグラス自体も動くことで、よりスピード感のある光の変化を演出したり、窓のように壁と結合し一度はめたら動かないという固定的な印象を変えることができる。
3.グラスファイバー
グラスファイバーとは溶かしたガラスを引き延ばし繊維状にしたもので、触覚のあるステンドグラスにしたり従来のガラスと混ぜることでより繊細な表現が可能となる。繊維状の物を用いることで硬く冷たいガラス面を柔らかくなびいたりさせることができる。
4.床や壁面への投影
外部からの光をステンドグラスの色ガラスに透過することでその光が壁や床面などに投影され、物理的な隔たりを設けずに空間を区別する事ができる。それにより人が滞留したり通行を促したりすることができる。
5.時間の経過を示す
東から西へ移動する太陽で人々は1日の時間の流れを感じることがある。そのため、ステンドグラスを通した光も時間の経過と共に移動し、時計の秒針のように時を刻むのではなくゆっくりとした動きで投影された光の場所で感じることができる。時計ではなく太陽から受ける自然の光で時の流れを感じることができるのはステンドグラスの透明性や色を効果的に利用できていると言える。

研究方法

Ⅴ.新たな魅力の制作物の提案
ⅢのマッピングやⅣの新たな技術や手法を組み合わせ、具体的な5つの空間作成を行った。技術の活用や込められた意図でどのような表現が可能かを示した一例である。

1.マップステンドグラス

色ガラスを繋げる鉛線に役割を持たせることで実用的なステンドグラスを目指す。本提案では駅のコンコースに駅周辺の地図として

利用している。公共的な場所に設置することでシンボルになり人が集い、その美しさと実用性を兼ね備えている。

 

2.四季のあるステンドグラス

色変化するガラス技術を用いて外観や空間により馴染むようにすることで利用させる場面の拡大を目指す。
本提案では15℃~20℃でガラスがピンク色に代わり春の風物詩である桜と調和がとれている場面を表している。秋頃の気温では橙色、冬頃には白や寒色系など、季節により変化する景色に融合するデザインになっている。

 

3.異素材と組み合わせるステンドグラス
平面的に利用されることが多いステンドグラスを異素材と組み合わせ立体感を出し装飾性の高い空間を目指す。

本提案は偏光素材でうねりを表現し、ステンドグラス部分と繋がりを持たせ、採光の役割は損ねず空間としての一体感を出している。

 

 

4.人工照明と組み合わせるステンドグラス
本提案では色温度を変更できる照明器具に取り付け、演色性の高い色の光源の場合は色ガラス特有の鮮やかな光を透過するが、必要に応じてステンドグラスを透過した光が白色になるように調整することで、様々な演出を可能にする。

 

 

 

5.体験型ステンドグラス(図6)

キリスト教徒がステンドグラスを眺め、信仰心を深めていたような目に見える拠り所となる空間をステンドグラスで作成する。本提案では狭小で落ち着く空間とし、グラスファイバーを用いることで視覚のみでなく触覚で実体験で    きる。

まとめ

実空間での提案として、宮城大学交流棟プルスウルトラ前の窓での効果的な利用を考えた。

季節ごとの外観にあわせた色変化になっています。奥の林と空の境界のラインで色を分け、空につながるような配色を意識した。また、天井や柱の斜めラインによる菱形や、壁や柱の鮮やかな色を拾い、統一感のあるデザインにした。

歴史や分類からステンドグラスは時代によって様々な形状や意味合いに変化し続けており自由度が極めて高い分野であることが分かった。色ガラスの持つ透明性や鮮やかさは残しつつ、時代によって進化している技術や新たな視点を取り入れた今後の時代で効果的に利用できるステンドグラスになったと思う。本研究の提案をプロトタイプとし、様々な場面で一般的に利用されるようになったら幸いである。

 

参考文献

ビギンズ『世界ステンドグラス文化図鑑』株式会社東洋書林(2005)

ローレンス・リー『Stained glass』朝倉書店(2004)

パイロットインキ株式会社(2022)特殊インキの紹介,2022/1/2
https://www.pilotink.co.jp/metamo/ink/metamocolor.html

佳秀工業株式会社(2019)最近よく目にするガラス繊維(グラスファイバー)とは2019/8/31

最近よく目にするガラス繊維(グラスファイバー)とは?

研究を終えて

ヨーロッパでのステンドグラスとの出会いは建築や空間デザインを学びたいと思ったきっかけだったため、大学4年間の集大成としてこのテーマを研究できてよかった。

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