都市公共空間における地域性の伝承に関する研究
ナラティブランドスケープデザインの可能性
都市公共空間における地域性の伝承に関する研究
平岡研究室
2022 年度卒業
デザイン案の「物語」においては、仙台の民俗文化のひとつである「すずめ踊り」をモチーフとした。場所の配置と物語を組み合わせ、すずめ踊りの歴史的背景の3段階に対応した三つのパートに分け、全体的には線形構造の語り方を採用し、ナラティブランドスケープデザインの手法を用いて、都市の中で断片化した空白の土地と古い緑地空間を利用して、現代の都市生活を満足させ、伝統的な民俗文化を担う区域を設計しようと試みた。

はじめに

研究背景

現代の社会では規格化されたデザインが大量に作られており、またその中には明確なコンセプトのない作品も数多く生まれている。これらの作品の出現は基本的な生活の要求を解決できるが、新しい矛盾と問題も生んだ。景観デザインも都市デザインもどこを訪れても同じような様子となっており、異なる町を訪れても現地の文化や風情を実感することができない。同じスタイルのまちづくりを目指すのではなく、その地域の特性に合わせたデザインが必要ではないだろうか。

研究目的

都市景観の地域性の欠如や風俗習慣と公共空間の矛盾を解決するための方法として、ナラティブランドスケープデザインに着目し、その可能性を明らかにする。

多目的な都市公共空間は、時代によって異なる作用を発揮し、人々の基本的なニーズを満たすことを前提に、文化、風俗習慣などの背景を考慮し、地域の文化と景観空間のより良い結合を感じさせることができる。その場所の物語を空間表現することでその場所の精神性を伝え、その場所の体験を構築し、その場所と利用者の間に「対話」や「交流」が生まれ、利用者がその場所の記憶を深めることができる。

調査

研究のフロー

本研究では、都市における公共空間と地域文化の融合方法と可能性を研究目的として、ナラティブランドスケープデザインの可能性を検討するため,図1の研究のフローで進めていく。

「文化」とは広い範囲のものである、本研究に適した文化カテゴリを見つけるための予備調査を行い、その調査・分析の結果に基づいて具体的なデザイン手法を選定する。デザイン手法から本研究に適した面を抽出するために、デザイン手法に関する文献や事例の調査・分析を行い対象敷地を選択する。 さらに敷地内を分析し、ナラティブランドスケープデザインの手法を用いてデザインを行い、地域文化や物語の空間化を進め、最終的にデザイン案を確定して図面や模型を作成する。

       

ナラティブランドスケープデザイン

設計手法の研究プロセスと目的について図2にまとめた。関連文献を整理し、さらに事例作品を分析して、本研究に適したデザイン手法を抽出する。

  • デザイン手法の定義と考え

ナラティブランドスケープデザインとは、「文字」や「言葉」の代わりに「ランドスケープ」を用いた語りであり、「ランドスケープ」を用いて情報を伝え、物語を語る表現である。ランドスケープデザイン空間の中の動線と各区域は文化と結びつき、空間の中の要素暗示を通じて体験者に文化を伝える。本研究では、景観の空間的な表現を通して人々に文化や物語のメッセージを伝え、観光客が文化的な体験や感情的な記憶、心の知覚などを得ることができるようにする。

体験者がランドスケープ空間を通じて,その場所の属性や特定の文化的物語情報,文化的経験を得たり、人々の特定の感情を喚起したりすることを望んでいます。ナラティブランドスケープデザインは、文化を、人々が受け入れやすく、理解しやすく、伝達しやすい物語に変換する。対応するストーリー展開の経験は、文化に対する人々の感情を高め、親しみのある文化や類似の文化の記憶や共鳴を呼び起こすこともできる。

  • ナラティブランドスケープデザイに基づく事例の調査

ナラティブランドススケープデザインの手法を用いた都市公共空間のランドスケープデザインと建築設計作品を調査・分析する。これらの作品がどのような方法で物語を作品に取り入れているのか、様々な情報をどのように空間化しているのか、どのような方法で各空間をつないでいるのかを分析する。

ナラティブランドスケープデザインは場所をベースにして、動線と時間変化をリードとしてつなぎ、ランドスケープデザインの要素を語り口として情報伝達する。物語の構造、ランドスケープデザインにおける語り手はデザイナーであり、受け手は体験者である。

本研究に適した手法や表現を抽出するために、まずナラティブランドスケープデザイン手法を事例研究からまとめて分析する。異なるタイプの都市公園10件を分析してまとめた (図3)。

① レイアウトと物語の構造

事例の中で、ランドスケープレイアウトと物語の構造は相互に影響して、体験者は場所の物語の解読のために主に全体のランドスケープレイアウト(動線とパーティション)を通して、導かれることで物語を「読む」ことができる。調査した10カ所の公園のうち8カ所のランドスケープレイアウトは線形である。それから見ると物語の時間に基づいたランドスケープレイアウトは、ナラティブランドスケープデザイン手法の主要な方法である事が分かった。

② 空間的な語り口の要素の多様性

主要な表現要素の面で、ランドスケープにおける表現要素は多様で、景壁、植物、道路の形式、彫刻などの大部分の要素はすべて景観のストーリー性の表現要素になることができる。ストーリー性の表現の面で見ると各公園の叙事性はすべて少し異なっており、例えばルーズベルト記念公園(事例1)は主にレリーフや文字による説明、彫刻の展示と情景の再現によって伝え、一方でチージャンパーク(事例2)は主にストーリーに関連する物件の展示によって表現している。物語の伝え方は公園ごとに異なり、ランドスケープの語りの多様性を示している。

ナラティブランドスケープデザインの調査・分析を通じて、デザインの手法について都市公共空間の中で使用する要素の運用とレイアウトが明らかになった。

デザイン提案

東北地方の民俗文化、風俗習慣などの調査分析を通じて、最終的には仙台市を設計対象都市として選定し、具体的な敷地を選択する目的で仙台市の調査と分析を行った。

  • 敷地の選定

調査の対象を決めた後、仙台市内で祭りとイべントの計13件を調べ、このうち「物語や文化背景がある」と「ルートや動線がある」の二つの条件を満たすものは計7件だった。条件を満足した中から、青葉祭り、神幸祭、仙台祭に着目した。

三つの祭りと都市空間の関係を確認するため,地図上に祭りの渡御ルートをプロットした。三つの渡御ルートは,神社を起点として市内を周回しており、江戸時代の町の中心をめぐっていたり(仙台祭)、氏子会の範囲をめぐっていたり(神幸祭)、神社と現在の町の中心部を結んでいたり(青葉祭)している。

三つのルートそれぞれの中心点を割り出し、さらにそれらを結んだ三角形の重心を地図上にプロットした(図4)。この重心を三つの祭りのルートを結節する中心点と考えた。ここは、晩翠通りの西側、北三番丁公園とせんだいメディアテークを結ぶ通りにあたる。


敷地は三つの祭りの接点に位置している。三つの祭りは毎年の開催時期が異なり、開催周期も異なる。この敷地は渡御ルートに近いので祭りにも活用できる(図6)。敷地の周囲にはバス停留所や地下鉄の駅があり、いずれも徒歩10分以内にある。祭りのようなイベントは外部からの観光客を最も誘致しやすい。また祭りは観光客に直接現地の文化をアピールする最も直接的な手段でもある。外部からの観光客にとっては公共交通の利便性が第一に考えられる。

 

研究方法

デザインスタディ

  • スタディ設計を行う目的

ナラティブランドスケープデザインの手法を用いて、都市の中で断片化した空白の土地と古い緑地空間を利用して、現代の都市生活を満足させ、伝統的な民俗文化を担う区域を設計しようと試みた。

市民にとっては若者や移住者に地域の文化を伝えることができ、地域の文化を知るきっかけになる。観光客にとっては、地元文化に直接触れることができる空間であり、地元の人々の日常生活の風景を見ることができる。町にとっては、多目的な公共空間があることで、さまざまなイベントが開催され、地域の人々の絆が近くなり、祭りに活用されることで、一部の観光客を呼び込むことができる。

  • 文化の調査すずめ踊りに関する調査と抽出

地域文化に関する資料を集めているうちに、伊達政宗と所縁があり、仙台祭と青葉まつりでも演舞されている「すずめ踊り」に着目した。調査したその他の祭りの中にもすずめ踊りを取り入れている祭りがあり,仙台を代表する民俗文化であると考えた。

① 要素を抽出する

すずめ踊りには多くの文化的要素が含まれている。これらの文化的要素はすべて文化の表現であり、人々にその文化の魅力を伝えている。例えば、扇子の要素を抽出して建築や施設の造形に応用したり、すずめ踊りの動きを景観の要素や形に応用したり、すずめ踊りの歴史(時点と出来事)、すずめ踊りの曲の要素を抽出したりすることもできる。   これらの要素は作品に空間の中の様々な施設、舗装、彫刻などと結合することができる。

➁ すずめ踊りの振り付け要素の抽出

すずめ踊りの動画を見て観察してみると、手の動きはダンスの最も重要で特別な部分である。踊りの時の手の働作に基づいて1組のヘッダの運動軌跡を抽出して、その後に線を通して手の軌跡を平面化する。

  • ストーリーの抽出と平面配置

すずめ踊りの歴史物語をテーマに、直線的な物語構造を採用し、物語の構成は、起源—一時中断・回復—発展と継承に分かれている。場所の現状配置と物語を組み合わせるために、すずめ踊りの歴史的経緯の三段階に対応した三つのパートに分け、全体的には線形構造の語り方を採用した。各パートの機能面では、活動・自由ゾーン、休憩・交流ゾーン、出入り口ゾーンが設定されている。

 

日常と非日常では役割が異なり、地域の文化を伝える文化パークとして設計されている。体験者に文化的な要素を取り入れた施設やテキストをデザインして地域の文化を伝えるだけでなく、地域の人々の敷地内における生活の姿も地域の文化を伝えている。また体験者にその土地の生活文化の雰囲気を体験させることができる。非日常のときには,機能を特定していない広場をイベント会場として活用し、イベント参加者を拠点エリアに誘致することで、お祭り時の活性化の幅を広げることもできる。

  • 動線のナラティブランドスケープデザイン

敷地内の動線をデザインした、主要動線が通る場所に文化的要素を取り入れた施設を設置し、文字、彫刻、雰囲気などを通じて文化的ストーリーを伝える。物語と組み合わせの動線は最も理想的なデザインであり、既存の都市空間には多くの不確定要素がありデザイン通りにはできないが、本研究ではこの動線を通して人々に文化を伝えることができる可能性を検討する。

 

動線の入口の設定は、バス停の最寄りの入口に位置しているため、人は自分から最も近い入口を選択すると考えられる。入口を通って敷地に入り、入口は微地形によって半包囲の安全感を作り出し、外部と分断されている。区域❶から街の風景を経て区域❷、区域❸へ、そして区域❸の出入り口から直接すずめ踊りが行われたイベントエリアへと、文字や彫刻などの空間的要素を伝えた後、実際に体験してみるというすずめ踊りの記憶や印象は非常に深いものだと思う。

制作物

 

区域1の入口には物語の背景の文字施設が設置され、微地形で視線を制御し、敷地内と敷地外を分割する役割を果たす。微地形が遮ると一面の広い広場エリアになり、空間の形が狭い空間から開放空間に変化する。

区域2は区域1と区域3の中間に位置し、面積も最も小さく、区域内にひとつ簡単な動線があり、途中で伝達用の展示施設が設置され、出口は横断歩道に接続して次の区域に向こう。

 

区域3の中部エリアの舗装の模様は仙台市中心部の古地図である。また、エリア内には高さが若干高くなっており、外側の晩翠通りの歩道への出入口の位置に階段が設けられているため、エリアが分断されたような感じがある。

  

 

まとめ

結論

  • ナラティブランドスケープデザインを設計に用いた成果

本研究では、現代都市空間におけるナラティブランドスケープデザインを用いて、都市景観の地域性の欠如や風俗習慣と公共空間の矛盾を解決することを検討した。

風俗習慣と公共空間の矛盾といった問題は、どこにも近代化と民俗文化の矛盾が存在すると思う。このような矛盾が生じる根本的な原因の一つに民俗文化行事の開催に適した場所を提供していないことがある。今回の設計は民俗行事に十分配慮し、余白、滞在スペースを設けた。

都市景観の地域性の欠如の問題に対し、今回はナラティブランドスケープデザインを用いて場所の体験を構築した。まず,利用者が景観に織り込まれた情報をもとに物語を知るようにした。さらに物語の断片や、物語についての手がかり,暗示を与え,あわせて既存の都市空間を感じさせたりすることで,空間体験を起点とした 空間体験に基づく,物語の包括的な理解を促すようにした。

  • 不足と展望

事例の調査が不十分で、調査数があまり不足、タイプも十分ではない。箇人的な背景の違いにより、問題の見方や問題の解決が異なって、今回の研究と設計にも主観的な違いが避けられない、今後の研究と設計で改善していきたいと思っている。

参考文献

 

1).片桐保昭(2007)「地域アイデンティティとランドスケープデザインの構築」.北大文学研究科公開シンポジウム : 報告書pp 90-93.2007

2).Matthew Potteiger、 Jamie Purinton(1998)『Landscape Narrativer:Design Practices for TellingStories』Wiley&Sons、INC

3).Naciye Doratil(2004) 「An analytical methodology for revitalization strategies in hisitoric urban quarters~a case study of the walledcity of nicsia.Cities」 , 21  (4)-: 248-329

4). 熊双華(2016)『都市公園歴史文化景観敍事的表現研究』

5) .李娜(2015)「都市の歴史的・文化的景観の統合と最適化」.『アートとデザイン』.015(12)pp66-67

6) .兪孔堅(2001)「足元の文化と野草の美—中山岐江公園設計」.『新建筑』5pp17-20

7) .兪孔堅・龐偉(2008)「設計の理解:中山岐江公園工業跡地の再利用」.『建筑学報』.pp48-52

8).現代を生きる伝統芸能 ─「すずめ踊り」の人類学的研究─津村晃佑(2003) 「東北人類学」2 pp39-54

9).小松和彦(1997)「神なき時代の祝祭空間」小松和彦編『祭りとイベント』pp.5-38、東京:小学館

10).小松和彦(1997)「すずめ踊り-その時代背景と一中との関わり-」『創立五十周年記念誌 鼓動』pp.65-74

11).仙臺すずめ踊り普及会(1991-2001 )『仙臺すずめ踊り報告書』. 仙臺すずめ踊り連盟

12).仙臺すずめ踊り連盟(2001-2002).『仙臺すずめ踊り報告書』

研究を終えて

本研究の遂行にあたり、指導教授として終始多大なご指導を賜った、平岡教授に深謝致します。井上教授並びに中田教授には、本論文の作成にあたり、副査として適切なご助言を賜りました。ここに深謝の意を表します。こころから感謝申し上げます。

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