デジタルメディアを活用した、地域観光を促進するシステムの制作と運用
秋保温泉のライトアップの事例から
八巻春香
鹿野研究室
2021 年度卒業
2020年度から秋保町において、イベント参加者が投影デザインをカスタムできるライトアップイベント「光のラブレター」が始まった。地域の観光イベントはより個人に合わせた多様性のあるものになっていく。そのためイベント運用にはデジタルメディアの活用が求められる。 本研究では、地域の観光促進におけるデジタルメディアの有効性について検証を行うために、ビジュアルを自動で生成し投影を行うシステムを制作・運用した。

はじめに

宮城県仙台市太白区にある秋保町では温泉旅館の宿泊客数が、新型コロナウイルスの影響もあり、減少傾向にある。また、地域住民の平均年齢が高齢化するとともに、商店街の店舗数も減少しており、温泉がメインの観光資源になっている秋保地域の持続性が不安視されている。そのような状況下で、昨年から秋保町の観光コンテンツとして紅葉のライトアップイベント「アキウルミナ」とともに「光のラブレター」が開始された。

アキウルミナとは、宮城県仙台市太白区にある秋保町で開催される紅葉のライトアップイベントである。初開催となった2020年度は、開催期間中に合計16120人の観光客の誘致に成功した。「誘客多角化のための魅力的な滞在コンテンツ造成」に繋がるものとして観光庁「あたらしいツーリズム」の一環で実施されており、新たな観光資源のひとつとして秋保町全体で取り組まれている。今年度の開催は令和3年10月23日から11月21日までであった。

アキウルミナの中のコンテンツのひとつが秋保の景観のなかで、依頼されたオーダーメイドのメッセージをサプライズで映し出す「光のラブレター」である。2020年度は照明デザイナーである梅田かおりさんが制作、運用をした。昨年は実験的にイベントが開催され、すべてが手作業でのデザイン作成、無料での申込となった。イベント参加者が投影デザインをカスタムできる、コミュニケーションのためのライトアップが始まったことで、地域のイベント現場ではデジタルメディアの活用が求められている。本研究では、梅田氏からの共同制作の依頼の元、地域の観光促進のためのデジタルメディアの有効性について検証を行うために、申込データからビジュアルを自動で生成、投影を行うシステムを制作する。

調査

本制作の前にヒアリング調査と秋保町のフィールドワークを行った。

2020年に開催された「光のラブレター」の運用・デザインをした梅田氏と、木の家・天守閣自然公園の代表へのヒアリング調査を行った。内容として、2020年度の「光のラブレター」の概要と、今年度の達成目標についての確認をしたところ、昨年は、若年層の家族2組に対して、秋保ワイナリーの壁を利用して実験的に開催された。2組とも、直接その場で依頼人と連絡を取りながら、タイミングを見つつ手動でメッセージの投影を行った。そのため、人件費がかかってしまうことが大きな課題となったという。イベント中に、投影のために用意されたPCが落ちてしまうなどのトラブルも発生した。昨年の事例を踏まえて、今回解決する課題を「申込からメッセージデザイン作成、投影までの自動化を図り、実施にかかる人手を削減する」ことと設定した。人員を削減することで、イベント開催の費用が抑えられ、観光客や地元住民が申し込むハードルが下げられるのではないかと考える。

その後、投影スポットを探すためのフィールドワークを「光のラブレター」運営の方と共に実施した。他の参加者が比較的少ない場所でメッセージを鑑賞できる、秋保の自然を感じる、投影が可能な平面がある、というアキウルミナ運営からの要望を満たす、天守閣自然公園内の足湯を利用してメッセージ投影を行うこととした。

また、イベント実施後に、参加者へ向けたアンケート調査をインタビューによる検証を行った。

研究方法

デジタルメディアを活用した観光イベントの開催によって、人手不足や運用コストを抑えながら地域観光を支援することが可能である」と仮説を立て、光のラブレター」のメッセージ投影までにかかる運用コストを抑えることを目的に、投影システムを制作した。

「光のラブレター」申込情報を基に、Googleスプレッドシートでデータ化を行い、それをp5.jsからリアルタイムにJSON形式のデータをダウンロードして解析をする。指定された時間になると、自動で申し込まれたメッセージテキストとフレームデザインが表示される仕組みにすることで、人為的なトリガーを避けて、定時での投影にすることで、イベント中に投影ミスが発生する、システムがダウンするなどのトラブルを防止する。p5.jsを選択した理由として、既存のPCでも動作する点、デバイスとの連携が不要な点、ウェブアプリにすることで遠隔からのメンテナンスが容易な点、Googleなどの外部サービスとの連携が容易な点、画像処理やアニメーションが容易な点が挙げられる。Googleスプレッドシートを予約データ管理に使用することで、どこにいても生成される投影のビジュアルと予約時間を変更することを可能にした。ローカルでの投影にも対応したシステムになっている。

まとめ

予約情報からビジュアルを生成、自動で投影するシステムを制作した。Googleスプレッドシートとp5.jsを連携させたシステムによって、前年度からイベント実施回数を増やし、予約の工程を削減したことで、秋保の観光イベントを支援できたといえると考える。地域の観光イベントはこれから、よりユーザー一人一人に合わせた多様性のあるものになっていく。そのためにデジタルメディアを取り入れていくことが必要となると分かった。今後も観光資源として広い用途で利用するためには、システム上一定時間の投影であるため依頼人がメッセージを目にしたかわからない点、現場でのPCの管理が難しい点が今後の課題である。

参考文献

[1]仙台市(2020)仙台市観光統計基礎データ,仙台市,2021年1月29日(2021年7月23日閲覧).

[2]株式会社アキウツーリズムファクトリー 秋保温泉旅館組合(2018)仙台秋保地区・地域資源を活かした観光モデル構築のための拠点整備事業平成30年度実績報告(2021年7月23日閲覧).

[3]国土交通省観光庁(2021)「誘客多角化等のための魅力的な滞在コンテンツ造成」に向けた実証調査,観光地域振振興課・外客受入担当参事官室,2021年6月(2021年7月23日閲覧).

[4] みやぎ仙台商工会(2020)調査・分析業務委託観光動向調査アンケート調査,みやぎ商工会,2020年2月(2021年7月23日閲覧).

研究を終えて

制作と運用から、地域の観光イベントは、よりユーザーに応えていくための技術やシステム運用が必要になっていくと実感した。今回制作したシステムを今後も多くの場面で活用し、観光体験をより良いものにできるよう、改善を重ねていく。

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