半紙の表面の質感の可能性
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伊藤研究室
2021 年度卒業
本研究は、半紙を用いて表面の表現を模索、活用することで紙の新たな価値を提案することを目的としている。 半紙の種類、紙製品から考えられる紙に共通した特徴を調査した。また、表面の質感のサンプルを制作し、厚さと凹凸具合で分類した。それらの結果を参考に、アロマディフューザー、置物を制作した。

はじめに

現在、日本の和紙産業は、生活様式の変化に伴う障子紙・書道用紙などの消費量の減少や、コストダウンのために外国産原料の使用が増加し、 国内産生産者価格が下落した事による価格低下、高齢化による生産意欲の減退など、様々な要因によって、直近の10年間で事業所数及び従業者数、製造品出荷額ともに減少している。

一方で、伝統的な和紙の製作技術が平成26年にユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の手すき紙の輸出量は直近10年間でアジアを中心に倍増し、国内外において和紙製品への注目は高まりつつある。

そこで、身近な和紙の一種である半紙の書道用紙以外の使い道について興味を持った。本研究は、加工の容易な半紙を用いて表面の表現を模索し、活用することで紙の新たな価値を提案するものである

調査

半紙にはどのような種類があり、それぞれ原料や製法、特徴にどのような違いがあるか、紙製品から考えられる紙に共通した特徴を参考のため調査した。また、その結果を参考に半紙で表現可能な表面の質感のサンプルを制作し、分類した。

【半紙の種類について】

(1)機械漉きパルプ半紙(円網み)
大量生産が可能で安価なため、学童や初心者用として使われる事が多い。表面がつるつるして、にじまない特性がある。
(2)機械漉きパルプ半紙-模造半紙(短網)
広葉樹のパルプを原料にしており、洋紙を習字の紙用に作ったものである。表と裏の違いが一目でわかり、表面はツルツルしていて筆が滑りやすく、書いた字が滲みにくく、擦れにくいことが特徴である。
また、表面が手漉き和紙のような風合いで、書き味も似ていることから、練習用に使われることが多い。
竹パルプ混合のものは、紙質はもろいが墨の吸収がよく大文字向きで、線とにじみの差がはっきりするのが特徴で、稲わらパルプ混合のものは、水の吸収が良く、楮を使用したものは、にじみに強い特徴がある。
(3)漢字用半紙(手漉き半紙・機械漉き)
楮・三椏・雁皮・ワラ・パルプなどを原料にしている。配合や組み合わせが様々あり、書き味やにじみ具合が異なる。やや厚手で、表面が少々ざらつきのある風合いをしている。
機械漉きではあるが、円網漉きとは違い、手漉きの和紙と同じ原料を用いて作ることができ、手漉きの紙と似た感触の紙を作ることができるが、表現力は劣る。
(4)かな用半紙(手漉き・機械漉き)
雁皮を主に原料としているが、ほかにも楮、三椏、雁皮、マニラ麻、ワラ、パルプ等を混合させたものがあり、組み合わせによって風合いや価格が異なる。薄手で、表面がなめらかで光沢があることが特徴である。
(5) 改良半紙(手漉き・機械漉き)
江戸末期から三椏を原料としてつくられていた駿河半紙を漂白し、明治末ごろから売り出した。昔からの楮紙に比べきめが細かく、色白、薄手で、墨つきがよいのが特徴である。

【紙の特徴】
紙は身近な素材であり、紐、テープ(水引含む)、食品容器(紙コップ、紙皿)、紙ストロー、コースター、箱、(菓子、日用品、部品、ティッシュなどの個包装)、包装紙、紙袋、紙管・ボイド管(巻取紙の芯棒、トイレットペーパーの芯、コンクリート型枠)、商業印刷物(ラベル、ステッカー、POP)、玩具(ジグソーパズル、仕掛け絵本、ゲームカード等)、文房具(ファイル、バインダー、メモ帳、本、ノート、ファイル、カレンダー、封筒)、服飾品(服、バッグ、靴、財布)、家具(イス、テーブル、障子、ついたて、ランプシェード)など、様々な製品に使われている。これらの製品は、以下の特徴を活かすように製作されていると考えられる。

・薄くて軽い
・耐久性(長時間保存可能:和紙1000年、洋紙で100年ぐらい)
・柔軟性、強度
・加工のしやすさ(折り曲げる、切る、貼り合わせる、染色、大きさ、厚みなど)
・親水性、多孔性
・透過性
・伝熱性が小さい。
・燃やすことが出来る。
・大量生産が可能、低価格。
・環境に優しい。(土に還元する、焼却時に有毒ガスを出さない、間伐材を原料に利用できる、古紙の再利用が出来るなど

【半紙の質感サンプル】
半紙を7cm四方に、のり(ボンドを水で溶いたもの)で張り付け、その加工の違いから、表面の質感にどのような違いが出せるか実験し、表にまとめ、表面の質感のサンプルを厚さと表面の凹凸感で分類し、表の番号で表示した図を作成した。

 

研究方法

【制作手順】
半紙とボンドを基本の材料とし、以下の制作手順で制作した。
1. 固めの紙を芯とし型枠を作る。他にも型枠には、風船などの後から芯を抜き、より軽量化ができるものが良いと考える。
2. 半紙を何層か貼り乾燥させる。半紙を張り付けた層を作ることで、全体の耐久性を向上させる。
3. 水に溶いた半紙とボンドを混ぜたものを塗り、乾燥させる。
4. 3が乾燥しきったあとで1の芯を撤去する。
5. やすりで削る、模様を付けるなど、表面に加工を入れる。

【アロマディフューザーの製作】
紙の吸水性、加工のしやすさ、軽さ、耐久性などの特性を十分に生かし、生活に取り入れやすいものとしてアロマディフューザーを製作した。アロマディフューザーを半紙で作るメリットとして、
・他の材料と比べて軽量であること
・落下の衝撃に強い耐久性、
・手入れ不要なこと、
・捨てる際に特別な処理が要らないこと
などが挙げられる。また、アロマディフューザーの製作を通じての反省として、
・強度の観点から一定以上の薄さにできない
・光を透かすために一定以上厚くできない
・アロマを吸水させるため、やすりで削った表面
・表面に大きな差異がなく、のっぺりした印象になること
などが挙げられ、違った素材を組み合わせて製作することで、 質感の違いを際立たせ、のっぺり感から脱却できると考えた。

【置物の製作】
アロマディフューザーの製作での反省を生かし、複数の素材感を盛り込んだ置物を制作した。
一つ目の作品は、小鳥である。小鳥のまるっとしたかわいらしいフォルムともこもこしてやわらかい感じ、滑らかな羽の部分と硬いくちばしが対比的であり、それぞれの質感が引き立つように、5つの素材を使い制作した。

二つ目の作品は、切り株である。切株を切った時の断面の何層にも折り重なった年輪を半紙を何層にも貼り合わせることで表現した。切株本体の表面は、木の皮特有の硬く凹凸のある感じを表現している。また、切り株から生えるきのこやコケの質感の違いを、異なる素材を使い製作することで全体にメリハリが生まれている。

 

 

まとめ

今回の製作で、アロマディフューザーはアロマディフューザーとしての役割を持たせるために、表面の表現や大きさに制限があった。そのため、置物はアロマディフューザーの製作での反省から、機能や役割を持たせず、複数の素材を組み合わせ、表面の違いが際立つように作品を制作した。これらの2つの製作から、機能や役割を優先することで表現の幅が狭まること、複数の素材を組み合わせることでのっぺりとした単調な印象から脱却できることが分かった。
今後の課題としては、感覚的に手作業で行っている製作の過程を、第三者にも製作できるように改善していくことが求められる。また、半紙を構造にも使用していたが、構造に半紙以外の他の材料を、表面に半紙を使うことで表現の幅がさらに広げることができると考えられる。
そこで、以下のものをセットにしたものをつくる。
・表面のパーツごとに質感サンプルの番号を入れた軽量な素材(発泡スチロールなど)で作った型枠
・細かく砕いた半紙(番号付き)、溶くのに必要な水の分量を書いた紙容器(番号付き)、ボンド(番号付き)
・製作イメージ、手順を書いた説明書
それにより、型枠の製作の時間と手間を軽減し、第三者が同じように作品を作ることが可能になり、より多くの人に半紙の表面の表現の可能性と魅力を広めることができると考える。

参考文献

・武蔵野美術大学造形ファイル
http://zokeifile.musabi.ac.jp/
・全国手すき和紙連合会
http://www.tesukiwashi.jp/index.htm
・和紙の特徴を考慮したちぎり絵制作のデジタル化手法に関する研究 石川真
https://gamescience.jp/2008/Paper/Ishikawa_2008.pdf
・くらしとアロマ
https://aromicstyle.com

研究を終えて

今回、身近な紙として半紙を使用した製作を行ったが、同じ制作手順でもそれ以外の紙を使うことで生じる違いを体験してみたかったと思う。

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