音楽視聴履歴の視覚化によるコンテンツの発見と再会
鈴木七奈
鹿野研究室
2021 年度卒業
本研究では、デジタル機器とSNSの流行により、流行り廃りが一瞬で過ぎていくエンターテイメント業界でコンテンツを保存するためのサービスを提案しました。その中で音楽というジャンルに注目して研究・制作を行い、個人の音楽視聴履歴を魅力的に視覚化することで、コンテンツとの再会・発見を促すことができると考え、アプリケーションのプロトタイプ開発した。

はじめに

現在、エンターテイメント業界はデジタル化とデジタル機器の普及による一番の影響を受けている。SNSの流行により、TwitterやInstagramのように情報が上から下へとスクロールされて次々と流れていく形、いわゆるフロー形式での情報認識が広く浸透したことで、“流行り”が一瞬のうちに過ぎ去るかたちが出来上がっている。そんな世の中で1つのエンターテインメントコンテンツの寿命はとても短く、常に変化が必要とされてきた。本研究では、そんな非常に速いスピードで流れて、忘れられていくエンターテインメント業界の中で音楽というジャンルに着目し、音楽視聴履歴を蓄積して視覚化する、いわゆるストック形式でコンテンツを保存することで過去の音楽との再会や発見を目的としている。

調査

音楽視聴履歴を視覚化するにあたり、音楽視聴環境についての調査を行った。宮城大学生を対象にアンケートをとり、430名からの回答を得た。

その結果、約98%の人がスマートフォンやiPodを使って音楽を聞いていることが分かった。表1.より、多くの人がYouTubeやサブスクリプション(Apple music、Spotifyなど)を利用していることもわかった。更にどのようなスタイルで音楽を聞きますか?という問いに対しては、「自分の好きな曲を集めたプレイリストを作る」や、「アーティストごとに曲を聞く」などの回答が多いことが分かる。

従来の好きなアーティストのCDを買って曲を聞く、という流れがかなり少なくなっている。そのため、現在の音楽はアプリケーションを使ったデータとして流通していることがほとんどで、人々が聞いたという記憶以外の形に残りづらい。更にインターネットの普及により毎日膨大な量の情報が耳に入る生活の中では記憶にも定着しづらいのではないかと考えられる。

研究方法

仮説

本研究により、過去のデータや個人の主観、行動をふまえた上でコンテンツを俯瞰して見ることでコンテンツとの再会・再発見を促すことができる。視聴履歴を数値データとして羅列するだけでなく、より魅力的な視覚化をすることで、過去のデータと再会しやすくなると考えられる。

結果として“流行り”の音楽コンテンツだけでなく昔聞いた音楽を振り返ることができ、様々な音楽が廃れることなく、未来まで保存していくことができるのではないかと考える。

計画

本研究では、アプリケーションのプロトタイプをUnreal engineを用いて制作する。

様々なインフォグラフィクス表現を調査し、その中でもサークルパッキングという方法が階層的にデータを表現することができ、本研究で視覚化したいと考えている、時期、アーティスト名、アルバム名、曲名など多数のデータの関係性を明確にしながら表現することが可能であることが分かった。しかし、視覚化する項目が多く、画面上のデータ量が多くなってしまうため、サークルパッキングを基に3D表現を用いて制作を行う。3D表現を用いることで平面的な視覚化では行えなかった3軸での表現が可能になり、より多くの情報を簡潔に視覚化することができる。更に、3D表現による奥行きが出ることによって現実感が増し、データの大小がわかりやすくなるとともに見た人に受け入れやすくなる。現実感が増すという点から、視覚化のモチーフを“町”にすることで自分の見てきた町並みと重ねて、規模をさらに深く実感することができる。そもそも“町”とは、家やビルを建てたり、道を整備したり、人々の営みの積み重なりで出来上がっていく。その営みの積み重なりと過去の音楽視聴データの積み重ねによって視覚化を行うという本研究に共通点があると考えている。

制作

仮説検証のため、実際のサービスに近いアプリケーションプロトタイプをUnreal engineで制作した。制作するにあたり、私個人の2018年、2021年の音楽視聴履歴をダミーデータとして使用している。

 5-1.“町”の視覚化

町にはアーティスト名、音楽ジャンル、そのアーティストの総再生回数を表現している。町を道によって4つに区分けし、音楽ジャンルを表現した。その区分けされた土地にアーティストごとに建物が建つ。その建物はアーティストの総再生回数によって建物の規模が変化する(画像1)。建物にマウスカーソルを乗せるとアーティスト名が表示される。そのままクリックするとアーティスト名、総再生回数、部屋へ移動できるボタンが表示される(画像2)

5-2.“部屋”の視覚化

町の建物をクリックして“部屋”の中に移動すると、アーティストの聞いたアルバムが横に並ぶ形で表示される。そのアルバムの手前の床には聞いた曲とその回数が表示される。左側の壁にはアーティスト名と扉があり、扉をクリックするとまた町に戻ることができる。(画像3)以上のビジュアル、機能を全てUnreal engine内で実装した。

検証

本研究によってコンテンツとの再会・発見が促せるのかという点と、“町”というモチーフにすることで視覚化したときの印象がどう変化するのかという2点について検証を行った。

6-1.再会・発見

本研究では私の音楽視聴履歴を使用して制作を行っているため、コンテンツの発見が出来るかという点に注目して検証を行った。男女4人に私の音楽視聴履歴について、本研究を含む異なる3種類の方法でまとめた資料(図1,2)を見せ、その後それぞれについてアンケート調査を行った。

その結果、本研究を見た後にアーティスト名と音楽ジャンルにおいて興味を持ったり、聞きたいなと感じたりしたコンテンツがあったという人がどちらも7割を超えていた。理由として、「以前から気になっていたアーティスト名だったから」「目立っていたから」「はじめてみた音楽ジャンルだったから気になった」などが挙げられた。対して、曲名については、図1,2の方がアーティスト名や音楽ジャンルと共に一覧で表現されていたため、本研究よりも興味を持つ人が多かった。

6-2.“町”モチーフ

本研究のビジュアルと“町”モチーフではないビジュアル(図3,4)を比較してアンケート調査を行った。

その結果、回答した全員が図4.の方がサービスの内容が気になる、と回答した。また、自分の視聴履歴をまとめるとしたらどちらがいいかという質問に対して7割以上が図4.の方がいいと回答した。理由としては「ポップで受け入れやすい」「町並みがかわいくて、データ関係なく見ていたいと感じた」などが挙げられた。

まとめ

検証より、本研究はアーティスト名、音楽ジャンルに関心が集まりやすいことがわかり、また、“町”というモチーフにすることでデータという数字の羅列と思われがちなものを人々に受け入れてもらえるということが分かった。以上の結果から、本研究を利用することによって音楽コンテンツの発見につながり、コンテンツ保存につながる可能性があると考えられる。

今後の展望として、アーティスト名、音楽ジャンルの項目では音楽コンテンツの発見を促すことはできたといえるが、曲名については他2つの資料の方が興味を集めていたため、2つの資料を基に改善が必要であると考える。また、それぞれ聞いてきた音楽との再会することでコンテンツが保存できるかどうかについての検証できていないため、自分以外の音楽視聴履歴を使用した検証を行う必要があると考えている。卒業制作展示会では、本研究を触った来場者に対して音楽コンテンツの発見ができたかと共に、使用感などの感想も調査を行い、更に本研究の完成度を上げていく。

参考文献

湊 和久(2020) 「Unreal Engine 4で極めるゲーム開発:サンプルデータと動画で学ぶUE4ゲーム制作プロジェクト」

 

D3.js Data-Driven Documents(https://d3js.org/)

研究を終えて

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