オンライン授業の受講スペースの現状と課題
オンライン授業に対応する居住空間の構成に関する研究
長岡伯和
井上研究室
2021 年度卒業
本研究の目的は、オンライン授業の普及による居住空間の使われ方の変化を踏まえて、オンライン授業に対応する空間構成を明らかにすることである。本報では、オンライン授業を受講している大学生を対象に、オンライン授業時の受講スペースの実態を把握し、今後、対面授業ができない場合に備え、受講スペース改善に寄与する知見を得ることを目的とする。

はじめに

本研究の目的は、オンライン授業の普及による居住空間の使われ方の変化を踏まえて、オンライン授業に対応する空間構成を明らかにすることである。本報では、オンライン授業を受講している大学生を対象に、オンライン授業時の受講スペースの実態を把握し、今後、対面授業ができない場合に備え、受講スペース改善に寄与する知見を得ることを目的とする。

新型コロナウイルス感染症拡大により、2020年4月16日に全国を対象に緊急事態宣言が発出された。これに伴い、多くの大学において急遽オンライン授業が導入された注1)。文部科学省1)はオンライン授業について、通信教育を行う大学以外の大学は,学生がキャンパスに来て学ぶことを前提とした学校であるとしている。また、一般的に大学生は通学を前提として大学周辺の学生向け賃貸住宅や実家の専用住宅に暮らす。以上のことから緊急措置のような位置付けで始まったオンライン授業は大学、学生ともに不慣れな形での実施となったことは容易に想像できる。

今後のオンライン授業の実施に関する取扱いについて文部科学省1)は面接授業と同等の同時性と教育効果を有すると認められる場合において、オンライン授業が授業数の半数を超えない範囲で行われる科目は面接授業の算定単位として扱うと示している。今後オンライン授業はひとつの授業形態として面接授業と併用されていくと考えられる。前報の結果より、テレワークを実施した人が今後のテレワーク実施について前向きな姿勢を示していること、自宅のワークスペースに問題があると感じていることが分かった。以上のことから、学生が十分な学修をするためには受講スペース整備を含めてオンライン授業を捉える必要があり、学生の受講スペースの実態を把握することに意義があると考える。

調査

本調査は、緊急事態宣言下でのオンライン授業の受講スペースの実態を把握するため、新型コロナウィルス感染拡大を受けて2021年度後期にオンライン授業を実施した大学生を対象とした。調査方法は、対象となる大学生にヒアリング調査を実施した。調査項目は、①回答者の属性、②住居、③オンライン授業の状況、④受講スペースの状況、⑤受講スペースの写真の提出とした。

ヒアリング調査は12人からの回答を得た。

1.回答者の同居家族と住居の状況

表1をみると、一人暮らしをしている人は8人おり、間取り別では1Kが5人、1DKが1人、1LDKが1人、3LDKが1人であった。家族と同居していると回答したのは3人で、間取り別では3LDKが1人、4LDKが1人で、6LDKが1人であった。また、1人は友人2人とシェアハウスをしており、間取りは3LDKであった。

2.回答者のオンライン授業の状況

新型コロナウイルス感染症対策の一環として初めてオンライン授業を実施した人が12人となり、以前に経験したことがあると回答した人は0人であった。

3.確保した部屋と独立性

表2をみると、受講スペースとして自室を確保したと回答した人は10人であった。同居人がいる人は他の部屋とは独立した自室を所有していた。間取りが1Kの住居に住んでいる人はリビングやダイニングの役割を担う部屋と同一であるため、生活空間から独立していないと感じていた。受講スペースとしてリビングを確保したと回答した人は2人いた。そのうち1人は学習用の机がリビングにあるため、生活空間から独立していると感じていた。もう1人はリビングにある共用のローテーブルで受講しており、独立していないと感じていた。

4.受講スペースの環境整備

①大学から支給・貸与された機器

PCやWi-Fiルーターを貸し出す制度があると回答した人は多くいた。実際に利用している人は1人いたが、入学時からある制度を利用しており、オンライン授業に関する支援策として活用されている事例はみられなかった。

②オンライン授業で使用した機器・家具

表3をみると、Wi-Fiルーター、ノートPCは回答者全員が使用していた。モニターを使用している人は6人おり、モニターに映像を表示し、ノートPCやタブレットで資料を確認するといった使い方をしていた。また、追加で購入したものとしてカメラ、資料を整理するための本立て、ノートPCスタンドがあった。また、ノートPCでは授業映像と授業資料を同時に表示するには画面が小さくて見づらいという理由からモニターを使用したいという意見も寄せられた。

5.受講スペースの写真にみる課題

写真の提出があった11事例を対象として受講スペースの現状を分析する。

5-1.同居人数別にみる受講スペースの実態

①一人暮らし

間取り別で机とローテーブルの使用に違いがみられた。ローテーブルを使用していた人は5人おり、そのうち4人は間取りが1Kかつ6帖以下の自室でオンライン授業をしていた。6帖以下の場合机を複数配置するスペースを確保しにくいことが関係していると考えられる。また、オンライン授業意外に食事も同じテーブルで行うため、食事の際はノートPCなどを片付けなければいけない。生活空間から独立した自室を所有している人や間取りは1Kではあるが自室が6帖より広い人は学習用の机を使用していた。

②同居人あり

家族と同居している場合は生活空間から独立した自室で受講しており、学習用の机を使用していた。友人2人とルームシェアをしている場合は、回答者の自室にエアコンがないという理由でリビングのローテーブルを使用していた。いずれの事例も同居人のワークスペースとは別のスペースを確保していた。

5-2.受講スペース環境の整備

5-2-1.デスクの専用/兼用状況

学習用の机を使っている人は7人いた。モニターや卓上のライトを揃えている事例や最低限の機器と家具のみを揃えている事例などみられた。学習だけでなくゲームや動画の視聴などの学習以外の作業にも使用しているかが関係していると考えられる。専用の机がない場合、ローテーブルが使われていた。日用品と機器や書類が混在している様子や座椅子やソファの使用により姿勢が定まらない様子が伺える。

5-2-2.即席での対応

壁が背景になるように机やPC、カメラを配置している事例が多くみられた。折りたたみ式のキッチン棚や雑誌の上にモニターやノートPCを置いて高さの調節している状況などもみられた。

研究方法

まとめ

本報では、緊急事態宣言の発出に伴いオンライン授業を実施し始め、継続して行なっている大学生を対象に、オンライン授業の受講スペースの実態を報告した。一人暮らしの人はリビングやダイニングと別に受講スペースを確保した人は3人、同じ空間がリビングやダイニング、受講スペースなどの使われ方をされている人は4人であった。間取りや部屋の広さによって机とローテーブルの使用に違いがみられた。また、机は専用として使用されていたがローテーブルは食事などにも使用されていた。ライブ授業時は背景に生活空間が映らないようにするように工夫する必要があることやノートPCだけでは授業映像と授業資料を表示することが難しいといった意見が寄せられた。オンライン授業では受講スペースの使用は在学中となるため、住居の変更やリフォームなどよりも機器・家具の種類や配置によって受講環境を整備していくことが必要である。今後の課題として、生活空間を映さないようにするレイアウトの工夫や新たな機器や家具を置くためのスペースをつくりだすための工夫などを検討する。

 

参考文献

注1) 文部科学省が発表している「新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた大学等の授業の実施状況(令和2年7月1日時点)」によると令和2年7月1日時点での大学等の授業の実施方法は「遠隔授業」 「面接・遠隔を併用」合わせて約84%であった。

参考文献

1)文部科学省 大学等における遠隔授業の取扱いについて(周知)(2022年1月9日)

研究を終えて

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