施設一体型小中一貫校に関する現状と特別教室の諸室数・稼働率の傾向
鎌田 基睦
井上研究室
2021 年度卒業
従来、小学校と中学校は別々の建物として計画・設計され利用されてきた。しかし2016年には小中一貫教育が制度として全国的に開始され、この変遷にともない施設一体型小中一貫校という新たな施設形態が登場した。小学校・中学校の機能がひとつの建物に統合され、9学年の児童生徒と教職員とが利用していく施設。本研究ではこの小中一貫校の現状と課題、考えられる独自の設計要件を事例調査から明らかにしようと試みた。

はじめに

研究目的

 

本研究は、小中一貫教育の学校(以下、小中一貫校)に関して、児童生徒が学年段階の区分を意識でき、且つ学年段階の区切りに対応した校舎計画を立てるにはどのような要件が必要となるのか明らかにすることが目的である。本研究では、施設一体型小中一貫校における学年段階の区分、教室運営方式、学級数(9学年分と特別支援学級とを含む)、授業方法、これらの運営状況を把握し、施設一体型小中一貫校の児童生徒が持つ学年段階の意識の課題を明らかにする。さらに、施設一体型小中一貫校に見られる特別教室数の現状と、その諸室数から導いた稼働率を見て問題点や傾向は考えられるかを把握し、要因も明らかにすることを目指す。

研究背景

小中一貫教育とは、小中連携教育のうち、小・中学校が目指す子供像を共有し、9年間を通じた教育課程を編成し、系統的な教育を目指す教育と定義されている。この教育制度の導入目的は学校毎に異なるが、組織的・継続的な教育活動の徹底による教育効果の向上、子供たちの社会性の育成機能の向上、「中1ギャップ」の緩和(不登校・いじめの減少等)をはじめとする生徒指導上の諸問題の減少を狙いに取り入れる学校が存在する。小中一貫校の施設形態は3タイプに分類され、施設一体型、施設隣接型、施設分離型に分かれる。施設形態の現状では取り組み総件数1130件のうち、施設一体型は148件で全体の13%、施設隣接型は59件で5%、施設分離型は882件で78%である。現状では施設分離型が施設形態の約8割を占めているが、小中一貫校に関する先行研究で述べられているように、今後の少子化、市町村合併、校舎の老朽化といった課題の対策のひとつとして施設一体型を導入する学校が増えてくると考えられる。

こうした施設一体型小中一貫校導入までの状況に対して、文部科学省施設企画課では平成27年7月31日に小中一貫校に関する報告書を公表した。その中で、施設一体型の利用状況に関わる課題として「学年段階の区切りを意識できるような校舎配置とするとともに、学年段階の区切りの変更に対応できる柔軟性のある施設とすることも必要である。」と記載されている。一貫教育を導入していない小中学校と異なり、施設一体型に通う児童・生徒らは、9年間同じ校舎を利用する分、建物から受ける自分たちの学年段階の実感が意識しづらいと考えられる。また、学習カリキュラムの変更の都合上、学年区分を見直す必要が出てきた際に、教室利用に関しても容易に対応できるゾーニング計画をしておくことで、施設が学習カリキュラムに従い有効的に活用され続けることになる。したがって、施設一体型小中一貫校では児童生徒が感じる自身の属する学年区分に対しての意識と学年段階の区分の変化に対応できる建築計画が必要である。

また、計画面においても従来は小学校と中学校とは別々に設計され、異なる利用者の特性や教育課程に対応するよう計画立てられていた。しかし、小中一貫校という施設形態の登場で独自の設計要件が必要となった。この設計要件の中で、9学年が共有しながら利用していく特別教室に小中一貫校の特徴があるのではないかと考えた。

そのため9学年が共用し、授業方法や教室運営方式に関わる空間である特別教室の諸室数、教室稼働率、グルーピングの現状も明らかにする。

調査

調査方法

【1】

学年段階の区切り、授業方法、教室運営方式、学級数の調査では小中一貫教育において教育成果、施設設備を先行的に報告し、小中一貫校のモデルを示してきた学校の現状について検討を行うために、小中一貫教育推進事業(平成27年度~平成30年度)において3年分の報告書を提出した13道県・市の施設一体型小中一貫校と、文部科学省が行った施設一体型小中一貫校の整備事例調査において取り上げた公立小中一貫校9校とを調査対象にする。

調査方法はインターネットでの事例収集だ。

分析方法は、まず調査で学年段階の区分を確認できた53校を4-5制、2-2-3-2制、4-3-2制、4-2-3制、6-3制の5パターンに分類する(図1)。

そこから学年段階の区切りがある位置を比較検討し類似する特徴を見つける。次に、学年段階の区分、授業方法、教室運営方式について、それぞれ学級数との関係性を示した表(表1、表2、表3)を作成する。表1、表2、表3でクロス分析を行い各表中の数値の偏りや大きさを比較しながら現状と課題を読み解く。

学級数は、おおよその学校規模や児童生徒数の多寡を把握するために「~25」「26~35」「36~」の3階級に分ける。小中学校が一体となった場合の学級数の全国平均を知るために、小中学校文部科学統計要覧(令和3年度)に記載されている小学校・中学校の学校数と学級数を参照した。小中学校の学級数の平均的な規模を求めるために平均値を出し、平均値31が小中一貫校の学級数の中位に属するよう階級を分けた。

【2】

特別教室に関する調査では小中一貫校において教育成果、施設設備を先行的に報告し、小中一貫校のモデルを示してきた学校の特別教室の諸室数や稼働率を検討する。そのために文部科学省が行った施設一体型小中一貫校の整備事例において取り上げられた公立小中一貫校の9校を調査対象とした。

ここで、特別教室の諸室数や稼働率に着目する理由としては、9学年分がひとつの建物に収まることで通常の小学校・中学校とは異なる諸室設定が必要となる。そして特別教室の数や配置方法が学年段階や教室運営方式に則るために重要な要件となる。そのため特別教室の諸室数と効率的に教室が使われているかを示す稼働率とに着目することで小中一貫校の特徴が分かるのではないかと考えた。

分析方法は特別教室の諸室数を分析し、そこから小学校・中学校の学習指導要領や学級数をもとに特別教室の稼働率を算出する。さらに、事例集の平面図を参照し空間構成のダイアグラムを作成する。

特別教室の諸室数の分析では、各特別教室に対しいくつの部屋設けた学校数がどれだけあるかを示した表1を作成した。そして建替え方を分類し比較することによって、建替え方に影響されたであろう諸室数設定の違いを把握する。

特別教室の稼働率に関しては、初めに小学校と中学校との学習指導要領を参考に1年間の授業時数を調べる。1年間に児童生徒が登校する週の数は、一般の方々へ学年暦を公表していた2020年度春日学園義務教育学校のものを参照し40週と定めた。ただし、校内テスト期間も含まれている。1週間の時間割は5日間×6限=30コマとする。稼働率の算出の手順は下記の通りに行い各学校の特別教室毎の稼働率を導いた。

①「1年間の授業時数」÷40週=「1週間あたりに行われる授業時数」を算出

②各学校のクラス数に基づき、全クラスで1週間あたりに行われる特別教室を利用する授業時間を算出

③「②で求めた値」÷「各学校の特別教室の諸室数」=「1教室で1週間に使われる授業時数」を算出

④「1教室で1週間に使われる授業時数」÷30コマ×100=「1教室あたりの1週間の稼働率」を算出

ここで導き出した値を新築、増改築、教室運営方式の観点から比較検討する。

空間構成を表したダイアグラムに関しては、4-3-2制を導入している学校、且つ設計ポイントに学年段階の区切りに対応した空間構成、施設機能を挙げている学校を対象とした。対象を絞る理由として、小中一貫校を取り入れる学校の多くの意図に、中1ギャップの解消や円滑に学年段階のステップを上げていくことが期待されている。この効果は6-3制導入の学校よりも高く、前報でも4-3-2制の導入事例数が多いことが分かっている。初等部(1~4年生)、中等部(5~7年生)、高等部(8・9年生)の段階で区分し、特別教室ゾーンや管理ゾーンとどのようにつながった空間構成になるのかを図で表した。これより学年段階の区分に対応した空間構成の特徴を検討する。

研究方法

分析結果

1―1.学年段階の区分のパターン分け

図1を見ると、全てのパターンで学年区分が生じない学年は1・2年生、3・4年生、5・6年生、8・9年生の4組になることが分かる。隣り合った学年段階に区切りが生じないということは、各段階で同じような教育体制がとられており継続的な学習がなされる時期であることが考えられる。一方で、図1から学年段階の区切りの中で7年生は固定されるゾーンに属していない。つまり、7年生は各学校の学年段階の区分次第で中間の学年段階に属するのか、高学年段階に属するのか児童生徒自身の意識が変わる立場にいる。パターンD・Eではともに6・7年生の間に区切りがある。Eは小中一貫教育を導入していない学校に見られる6-3制のため小学校と中学校の区切りが小中一貫教育の中でも活用されていることが読み取れる。つまり、4-2-3制のDパターンにも6-3制への類似性が見られ、D・Eパターンは学年段階の区分を用いての中1ギャップの緩和に対しては影響力が少なく、施設一体型校舎に9年間通わせる中で中1ギャップの緩和を図ろうとする意図が考えられる。

1―2.学年段階の区分と学級数の関係

表1は学年段階の区分と学級数の関係を示した表である。まず施設一体型小中一貫校を取り巻く現状として、25学級以下で構成されている学校が表中の右端の列を見ると全体の約8割であり、学年段階の区分は表中の最下行を見ると4-3-2制が39校で全体の約7割であることが確認できる。4-3-2制が最も設置される理由としては、中1ギャップ自体の課題解決の狙いがあることと中1ギャップの現象の芽が生じる小学4~6年生の段階で対策を始めようとする意図があるためだと考えられる。真ん中の3年間のステップで多様な教職員の指導を受けつつ中学段階への学習や児童生徒の学年意識を円滑化することが目的である。

1―3.授業方法と学級数の関係

表2は授業方法と学級数の関係を示した表であり、いつから誰がどのグループに関わり始めるかが分かる。授業方法は3タイプに分類された。Xタイプ「完全な学級担任制から学級担任制を継続しつつ一部科目は教科担任制でこなす授業方法に切り替わり、最終的に完全な教科担任制に切り替わる」、Yタイプ「1年生から学級担任制と一部科目で教科担任制を導入し最終的に完全な教科担任制へと切り替わる」、Zタイプ「完全な学級担任制から完全な教科担任制へ切り替わる」に分かれる。XタイプとYタイプの表ではどの学年で一部教科担任制が実施されているのか確認でき、数値は実施している学校数をカウントしたものである。Xタイプの25学級以下では5、6年生の段階で一部教科担任制を導入している学校が15校ある。一部教科担任制の段階では組織的・継続的な教育活動の徹底のため中学教諭による乗り入れ授業が始まる。このことから、5、6年生の段階から小学校教諭だけでなく中学教諭も専門的指導のため関わり始めることが分かる。

1―4.教室運営方式と学級数の関係

表3は教室運営方式と学級数の関係を示した表である。全ての学校で特別教室型が採用されており、そのうち2校では教科教室型も取り入れていた。一方で、総合教室型を取り入れている学校はなかった。その理由としては、小中一貫校導入の目的にある継続的な教育活動の徹底で低学年のうちから特別教室の利用を促し、設備の整った環境で教育効果を上げる狙いがあるからだと考えられる。ただし、9年間一貫して特別教室型で運営している学校では、教室の使い方に変化が無いため児童生徒の自身の学年段階に対する意識は薄れるのではないかという課題が考えられる。

2-1.  特別教室の数

図2は各学校の特別教室の諸室数を示した図である。諸室数で見られた傾向は、新築の春日学園と府中学園で家庭科室としての被服室、調理室に加え生活科室も設けられていること。京都大原学院、京都教育大学附属、奈留小中学校の図工室、技術室において、どちらかの特別教室を設けていないこと。図工室も技術室も共に教室の使用目的は工作活動を行うための教室で、備品も似たような道具が置いてある。そのため、どちらか1室で2つの授業を共用できることが読み取れ、特別教室の諸室が1つ不要になる小中一貫校の特徴があった。体育館と図書室において、増改築校舎では2つの空間が設けられていたこと。新築校舎ではひとつの空間に収めることができるが、増改築の場合では既存のひとつの空間で運用するのは厳しく、まず体育館や図書室の諸室数の設定を増改築で変更すると考えられる。春日学園、飛島学園、奈留小中学校の自習室においては、いづれも新築の校舎で初めから設けないという設定をしていた。自習室を設けない理由として、自習のみの目的で諸室を用意する必要はなく、オープンスペースに机イスを配置する、PCルームや図書室を自習室として開放するといった対応で補うという設計意図があるためと考えられる。

2-2.  特別教室の稼働率

表4は9校を新築、増改築といった建替え方によって分けたものと、教室運営方式の違いで分けたものの1部屋あたりの平均稼働率を示したものである。傾向として、まずPCルームの利用率が全体を通して低い傾向が見られた。これは、技術の授業のわずかな単元でしか教室を利用する機会がないことが原因ではないかと考えられる。次に技術室の利用率が、使用用途や設備・備品が似ている図工室に比べ低い値となった。これは、技術室が図工室に比べ授業で共用する学級数が少なく授業時数も少ないことが影響していると考えられる。表5は9校の特別教室の稼働率をそれぞれ示したものである。稼働率は60%程度が適正値とされ、上限でも80%で計画されることが一般的である。しかし、はるひ野小中学校の図工室の稼働率はこの上限を超えた状況で使用されている。つまり学級数に対する特別教室の数量設定が正しくないのではと考えられる。一般的に小学校・中学校では12~18学級が標準的な規模とされている。その中で小規模学級である湖南小中学校、飛島学園、京都大原学院の音楽室、図工室において、比較的低い利用率の値となった。

3-3.  ダイアグラム

図3にある4校に見られる空間構成の特徴として、グルーピングでHRが特に初等部と中高等部で分かれてまとまられていること。はるひ野小中学校では図工室、技術室、美術室の類似教室でまとめられていたこと。はるひ野小中学校と荏原平塚学園では、理科室が共用学年によって別ユニットに分かれてまとめられていたこと。学級規模によって機能図のつながりに特徴があること。初等部の特別教室利用はHRまわりで完結できる空間構成にはなっていないこと。これらの特徴が見られた。

まとめ

結論と課題

公立施設一体型小中一貫校の現状を把握した結果、学年段階の区分では7年生が区分次第で自身が帰属する段階が異なり、他の学年段階の区分で運営する学校の同学年との間で意識の差が生まれやすい学年であることが分かった。教室運営方式においては一貫された教室運営方式だと自身の学年段階に対する意識を実感しづらいのではないかという課題が考えられた。しかし、本研究の教室運営方式に関して事例数が少ないため調査を続行する必要がある。

特別教室関連の事例調査を通じて得た、施設一体型小中一貫校の諸室数設定と稼働率の傾向と課題は、図工室・技術室の使用用途や設備に類似性があるものの利用率で差が大きく改善点である。このことから、2種類の特別教室を1部屋にまとめ効率化を図ることはできないだろうかと考えることができた。この解決策は施設一体型小中一貫校でしかできない手法ではないかと思う。PCルームの利用効率が低いことも課題点である。計画する際に予め、自習室としての開放や異学年交流スペースとしての役割といった、他の用途も考慮し設定する必要があると考えられる。さらに、音楽室においても学級数に対応した諸室数設定が重要である。また、学年段階の区切りに対応した空間構成や機能的つながりの特徴として、初等部と中高等部とでHRの場所や共用する特別教室分けるという傾向が見られた。このことで、児童生徒が学年段階を意識しやすい環境作りになっているのではないかと考えられる。

参考文献

  • 施設企画課. “第1部 小中一貫教育に適した学校施設の在り方”. 文部科学省. 平成27年7月31日. pp. 1 -pp. 11

https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/10/28/1360523_02_1.pdf,(参照7月16日)

2)佐藤佳奈. 小中一貫校の建築計画に関する現状と課題, 平成年27度情報デザイン学科デザイン情報研究発表会予稿集. (参照7月23日)

3)初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室.  “平成29年度「小中一貫教育推進事業」”. 文部科学省.

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ikkan/1404454.htm, (参照7月17日)

4)初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室. “平成30年度「小中一貫教育推進事業」”. 文部科学省.

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ikkan/1416700.htm, (参照7月17日)

5)月刊スクールアメニティ編集部. 主な全国施設一体型小中学校一覧表(公立、義務教育学校を含む). 月刊スクールアメニティ, 2018, 5月号, pp. 54 – pp. 56,(online),

http://www.voi-x.com/image/ikkannkoulist2018.pdf,(参照7月18日)

6)文部科学省. “小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引き”. 平成28年12月26日. p. 11

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/29/1369749_1.pdf,(参照7月25日)

7) 施設企画課. “小中一貫教育に適した学校施設の在り方について~子供たちの9年間の学びを支える施設環境の充実に向けて~”. 文部科学省. 平成27年7月31日. pp.26 -pp.64 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/013/toushin/1360202.htm, (参照1月19日)

8)西川正純, 小中一貫校の建築計画的課題, 日本建築学会大会学術講演梗概集, 2005年9月(参照1月10日)

9) 小学校学習指導要領. 文部科学省.  https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/,(参照1月12日)

10) 中学校学習指導要領. 文部科学省.  https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/, (参照1月12日)

11) 建築計画教材研究会, 建築計画を学ぶ, 理工図書, 2005年11月15日

12) 長倉康彦, 学校建築の変革~開かれた学校の設計・計画~, 彰国社, 1993年11月20日

研究を終えて

メニュー