泉パークタウンの高森、寺岡地区における空き家化の傾向
郊外型住宅地における空き家化の防止の方法に関する研究
森優弥
井上研究室
2020 年度卒業
高度経済成長期に発生したベビーブームによって日本の人口は爆発的に増えた。その結果都市部には人口が過度に集中し、住宅不足が引き起こされた。その受け皿として郊外型住宅地が林立した。しかし現在になって、人口は減少に転じ、郊外型住宅地は今後空き家化が進みオールドタウン化すると予想されている。そうしたニュータウンのオールドタウン化を防止する方法に関して知見を得るため、泉パークタウンを対象に調査研究を行った。

はじめに

本研究では、郊外型住宅地における空き家化を防止するため、その方法を模索し、有効な防止策の知見を得ることを目的とする。
本報では、郊外型住宅地の高齢化率の上昇が著しくなり、人口が減少に転じ始める時期である入居開始後20年前後からの住宅や土地の使用状況や、その変化をたどり、オールドタウン化に伴う住宅、土地の使用動向の変化やその傾向について明らかにする。
 前報(1では,先行研究から、郊外型住宅地において、入居開始後20年が経過すると、子供世代の独立とそれに伴う人口減少、高齢化が加速すること、また、都心回帰や新築志向による人口流入の停滞といった現象が発生していることがわかった。泉パークタウンにおいても同様の現象がみられること、また、周囲の環境の変化によっては古い住区においても人口の流入を促進できる可能性があることを明らかにした。このことから、人口の流入を促す環境の変化の要因を明らかにすることで、空き家化防止の方法に関する知見を得られると予想される。その要因を知る一助とするため、本報では住宅、土地の使用動向の変化や傾向について調査を行った。

調査

調査の対象として、泉パークタウンの高森地区、寺岡地区を選定した。高森地区、寺岡地区はニュータウンの建設が盛んにおこなわれていた1970年代から1980年代に造成、販売の開始がされている。特に、高森地区は人口減少が始まった後、一時的に人口が増加に転じた住区であり、人口流入を促進する環境要因を明らかにするための対象として適している。
研究の方法として、ゼンリン住宅地図に記載されている高森地区、寺岡地区の住宅や土地について、居住者名や駐車場等の記載の有無を確認し、その場所や空白期間を地図上に記録する。高森地区、寺岡地区の双方が入居開始後20年前後となる年の2000年以降、データを得られなかった2003年分を除き2006年までの5年分を用いた。居住者等が不明な空白の期間がどれほど続いているかを確認するために、記載内容が変化した場合と、空白期間が継続している場合を抽出した。
住区ごとの平均空白数や記載内容の変化の数を算出し、それぞれの地区において、空白期間の総数や、その変化、記載変更の対象や動向などに傾向がないかを分析する。
表1は高森地区、寺岡地区の街区と住宅、土地の総数を表しているものである。高森地区には、合計264つの街区と2498つの住宅、土地が確認できた。図2は、高森地区の各丁における、空白の場所の数を年別に表している。図3には、同じく各丁の、記載変更された場所の数を年別に表している。まず、空白期間の数であるが、記録開始年である2000年以降、高森4丁目を除き、大きな上昇が発生していないことがわかる。また、最後の記録年である2006年においては、空白期間の総数が2000年の数値と同程度か低い値となっている。次に、記載変更された場所の数についてである。記載変更の記録を開始できた2001年以降、常に各街区の土地全体の5%前後が記載変更されている。また、前年の空白数に応じて、翌年の記載変更の値も増減していることがわかる。これらのことから、高森地区においては、住宅や土地についてある程度の流動性や需要が存在していることがわかる。特に高森1丁目は、記載変更の値に対して、空白期間の数が大きく減少していることから空白期間である土地の需要が大きい可能性がある。また高森3,4,7丁目も同様の値の変化をしており、同じく空白期間である土地の需要が高い可能性がある。逆に、高森5丁目については、記載変更の値が土地の総数に対してある程度大きいにも関わらず、空白期間である土地の値は横ばいである事から、すでに記載のある土地の需要が高い傾向にある可能性がある。同様の値の変化は高森6丁目、8丁目にもみられる。このことから、高森地区では既存の土地、住宅の需要、流動性が1,3,4,7丁目では低く、5,6,8丁目では高くなっていると考えられる。
各住区の空白期間の合計と、記載変更数の合計を比べてみると、おおよそ空白期間が3に対して記載変更数が1程度の比率となっているものの、空白期間の合計の減少は小さく、既に記載のある場所への人口流入が主になっていると予想できる。
寺岡地区には、合計168つの街区と2167つの住宅、土地が確認できた。表に関しては高森地区と同じく、図4では寺岡地区の各街区の年別空白期間を、図5では年別の記載変更の総数が表されている。寺岡地区では、1,2,4丁目が高森1丁目と同様に、記載変更の値に対して空白期間の総数が大きく減少していることがわかる。特に、寺岡4丁目に関しては、6年間の空白期間の平均と、記載変更された場所の平均の値が近似しており、非常に高い需要が存在することが想定される。また、残りの3,5,6丁目に関しても、高森5丁目のような特徴を持っており、高い記載変更の総数の値でありながら、空白期間の総数の値は横ばいとなっている。寺岡地区においては、既存の土地、住宅の流動性は1,2,4丁目において低く、3,5,6丁目において高くなっているといえる。
寺岡地区の住区全体の合計を比べてみると、空白期間が3に対して記載変更数が2程度の比率となっている。さらに、空白期間の合計値は年ごとに減少し続けていることから、空白であった土地の使用が主となっていることがわかる。
全体を通して見ると、高森1,3,4,7丁目、寺岡1,2,4丁目では空白期間である土地の需要が、高森5,8丁目、寺岡3,5,6丁目ではすでに記載のある土地の需要が高い可能性が考えられた。地図上で確認すると、高森1,3,4丁目は高森地区のちょうど西側の半分の部分であった。寺岡1,2丁目は寺岡地区の南東に位置しており、高森1丁目と県道大衡仙台線を挟んで隣接している位置関係にあった。高森7丁目と寺岡4丁目は同様の傾向を持った地区と隣接しておらず、それぞれ高森地区の北東の角、寺岡地区の北西の角に位置していた。特に空白期間の場所の現象が著しかった高森1丁目、寺岡1丁目、寺岡2丁目が隣接しており、この地域においては、需要があっても、既存の土地、住宅に流動性がない可能性が考えられる。また、著しい値ではないものの同様の変化をしている高森7丁目と寺岡4丁目はちょうど反対の位置関係にあり、空白期間の土地の需要が大きい地域は二つの住区を同時に見た際に、中心部と外縁部に存在することがわかった。また、その他の、記載のある土地の需要が高かった地区は、高森地区は7丁目を除く北東部に、寺岡地区は4丁目を除く北西部に位置している。このことから、住区の中心から離れた場所にある地区ほど、既存の土地や住宅の流動性が低下することが予想される。特に数値の高い高森1丁目と寺岡1,2丁目は周囲を住宅地以外で囲まれており、その影響が顕著であるといえる。

研究方法

まとめ

今回の調査では、高森地区、寺岡地区の2つの住区の内、中心部と外縁部に、空白期間の土地を多く使用している街区が存在していることがわかった。既に記載のある住宅、土地が使用される場合は、居住者の入れ替わりや建築物の建て替えが行われ、住宅地における新陳代謝が促されると考えられる。しかしながら、空白期間の土地を使用する場合は、既存の住宅や居住者に変化がなく、さらなる高齢化や住宅の老朽化、最終的には死亡による空き家化などの問題を引き起こす可能性が懸念される。
今後の課題として、既存の住宅、土地の流動性の差がどのような理由によって発生しているのかを明らかにする必要がある。

参考文献

1. 泉パークタウンの現状と課題―郊外型住宅地における空き家化の防止の方法に関する研究― 森優弥 2020
2.株式会社ゼンリン(2000)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200011
3.株式会社ゼンリン(2001)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200111
4.株式会社ゼンリン(2002)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200211
5.株式会社ゼンリン(2004)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200411
6.株式会社ゼンリン(2005)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200511
7.株式会社ゼンリン(2006)ゼンリン住宅地図 仙台市泉区 200611

研究を終えて

研究の方法が非効率的であったり、得ようとする結果に対して集めているデータが適切でなかったりなど、研究の難しさや経験不足を実感した。様々な指摘や経験を今後に活かしていきたい。

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