高校物理を題材とした、エデュテイメントアプリの提案
港 加帆
鹿野研究室
2021 年度卒業
物理現象をインタラクティブに体感することができる教材があれば、物理に対して苦手意識を持っている人がその苦手意識をなくしたり、理解を促すことができると考え、高校物理を題材とした体験型教材を提案しました。物理を疑似体験することによって公式の暗記の前段階となる「想像」をサポートするとともに、状況をイメージ化して理解を深めることを目指しています。

はじめに

昨今、子どもの理系離れや、高等学校における理科系履修者の減少が懸念されている。
物理は「高校物理は数式で解く科目ではなく、絵を描いて視覚的に解く科目でもある」と提唱されているほど、状況をイメージすることが大切な科目である。その一方で、既存の学習教材は情報が一方向的なものが多い。教科書や、教科書の内容をそのままデジタル化した教材が多くあるが、頭の中で与えられた状況を展開し、イメージ・理解を柔軟に行うことは難しい。 そこで、物理現象の想像や理解をサポートできる教材を提案したいと考えた。本研究では、高校で習う物理現象を題材として、デジタルならではの新しい教育コンテンツの可能性を考える。

調査

研究方法

課題を踏まえ、物理現象をインタラクティブに体感・実感することができる物理教材があれば、物理学に対して苦手意識を持っている人がその苦手意識をなくすとともに、本質への理解を促すことができるのではないかと仮説を立てた。

そこで、デジタルの特性を活かして物理を体験することをコンセプトとしたアプリを提案する。ターゲットは、物理科目を学び始めた学生やこれから学ぼうとしている人だ。教材にインタラクティブ性を持たせることによって、解き方を解説することだけにとどまらず、公式の暗記の前段階となる「想像」をサポートし、状況をイメージ化して理解を深めることができるのではないかと考えた。勉強のスタートとして気軽に楽しく物理に触れるとともに、想像力と応用力を膨らませ公式の暗記の前段階となる、状況をイメージ化して理解を深めるきっかけづくりをミッションとする。

数式を物理現象として表現するために、Unreal Engineを用いてアルゴリズムし、インタラクティブな3DCGとして描画する。
一覧画面から、クリックをすることによって各項目のシミュレーション画面に視点が切り替わる。それぞれの公式と公式内のアルファベットが示す内容をテキストで記載した。画面左下のスライダーを調整することで、環境や与える力の大きさを使用者にゆだねる。スライダーと画面右側の3Dモデルは連動しており、使用者が与えた値に基づいてリアルタイムで形が変容する。また、動きのある場面では再生ボタンを押してからの経過時間を取得し計算することで、アニメーションが再生されるとともに、グラフの描画が開始される。

まとめ

本研究作品により物理の理解を促すことが可能であるかを確かめることを目的として、既存の教科書との比較で検証を行った。高校時代に物理基礎と物理をどちらも履修していた学生、物理は履修せず物理基礎のみを履修していた学生、物理基礎と物理のどちらも履修していなかった学生を含めた計7人である。検証によってイメージする力を比較するために、選択問題形式で質問に対して適切なイラストを答えるテストを行った。
検証の結果、本アプリで物理現象をリアルタイムで動かすことができることにより、紙の資料と比べて状況のイメージをすることができたと感じる人が多いことがわかった。また、物理現象と同時進行でグラフの描画が行われることに対しても、多くの人が「現象とグラフとの関係がわかりやすくなった」と返答した。
加えて、このようなアプリがあれば「教科書として使ってみたい」もしくは「教科書としてでなく、参考書として使ってみたい」などの、好意的な意見も得られた。

参考文献

[1] 私塾フリースクール学び場  授業改革フェスティバルレポートhttps://manabiba.org/math2.htm   (2022.01.17閲覧)

[2] 長沼祥太朗(2015) 理系離れの動向に関する一考察, 実態および原因に焦点を当てて

研究を終えて

使用者が物理現象をインタラクティブに動かすことによって、公式やグラフとの関係性の想像を促進できるといえる。

その一方、検証の中で「立体図形を理解することに戸惑ってしまった」という声もあった。このことから、3D表示にしたことが視覚的な困惑を招いてしまった場合もあったといえる。本研究は、全体の統一感を目指してすべて立体表現にして制作を進めた。しかし場面によっては立体表現が適しておらず、逆に利用者の負担を増加させてしまった。そのため、適切な情報量や表現方法を見極めたうえで画面の設計を再検討する必要がある。また、この研究では高校で習う物理基礎の一部を題材としており、全ての単元をピックアップすることはできなかった。今後は物理基礎全体を体系的にまとめることで、さらに汎用性のあるアプリになると考察する。今後の展示に向けて、さらにユーザビリティを向上し、教育コンテンツとしての活用のしやすさを意識した改善をしていきたい。

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